異世界へ
温めていた作品です。
持ってても何にもならないので出すことにしました。
既存の作品共々宜しくお願い致します。
「はぁっはぁっ……んくっ……はぁっはぁっ――――ぐっ!?」
降頻る豪雨の中、一人の女性が泥を跳ねさせながら駆けている。その様子は切迫しており、時折後ろを振り返り、何かを確認する様子は彼女が追われていることを示している。
「あっちにいるぞ! お前らは向こうから追え! 絶対に逃がすな!」
雨音が響き渡る森の中でもそう遠く離れていない彼女の耳には彼らの怒声が聞こえてくる。
お互いの足音は雨にかき消されているが,彼らの動きから、彼女の場所はばれているようだ。
自分の体に鞭を打つも、上げきれなかった足先から思わぬ衝撃が走る。どうやら焦りのあまり足元の木の根に気づかず、足を引っかけてしまう。朦朧とする意識をなんとか保たせながらも起き上がり、再び走り出す。
もう逃げることに精いっぱいで、考える余裕すらない。
――なんで?
――どうしてこんなことを……?
浮かび上がる疑問を視界に入る雨とともに振り払いながら山の中を駆ける。
もう体力も限界に近い。振り切ったか振り向いて確かめると、追手の姿は見えなかったが、まだ近くにいる。その証拠に遠くからだが、彼らの怒鳴り声が聞こえる。
早く、ここではないどこかに……っ。
どれ程走っただろうか、弱りゆく心と薄れゆく意識が覚えていたのは、先ほどまで自らが立っていた崖から落ちてゆく自分だった。