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「そろそろ寝よっか。もう3時だし。」
「そうですね。少し眠いです。」
結局、部屋に入って飲み直していた。1ヶ月振りに入った部屋は、ソファが無くなった代わりに座椅子が1つ置かれていた。小物類もいくつか増えている。
「ね、泊まってくでしょ?」
今断れば、そのまま家に帰してくれる気がした。
「帰るの面倒なんで、泊まらせて貰いますね。」
「りょーかーい。歯磨いてくるね。お客さん用の新しいのあるから、磨いていいよ。」
「まじすか。ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
歯磨きして、散らかった部屋を少し片付けた。志帆はもうベッドの中だ。多分、選ぶことが出来る。
「どうして来ないの?こっち来て一緒に寝よーよー。」
「や、いいですよ。狭いですし。」
「じゃあ私がそっちに行く!」
床で寝てる自分の所へ、毛布一枚持って近づいて来た。
「広いし。文句無いでしょ?」
「......」
「いい枕もあるし。」
「太ももですよ。それ。」
「ちょうどいいの。」
「はあ。もう寝ますよ。」
少し経ってまた、手を掴まれた。逃げたりはしなかった。
「志帆さん?起きてるんですか?」
「んーー。」
「どうかしました?」
「んーん。」
「志帆さん?」
「んーーー?」
「俺、志帆さんのこと、好きなんです。」
言葉が突然口をついて出てきたので、自分でも驚いた。全然伝える予定なんてなかったし。どうしよう。でも。
「.........」
志帆から返事は無い。
「志帆さん?聞こえてますか?」
「......んー。」
「もっかい言いますね。俺、志帆さんのことが好きなんです。付き合って欲しいです。」
悟が言っていたような、都合よく扱われるだけのような存在でいるのは、もう嫌だった。自分でもよく分かっていた。志帆さんはあまり俺の方を見てくれていない。
そうだ。どうせダメなら、今ダメになってしまった方が、この先の為になるだろう。そんなことを考えていた。
「.........」
沈黙が続く。流れる時間がひどく遅く感じる。耐えるのは大変だった。
「......私ね。多分、君が思っているような人間じゃ無いの。」
「どういうことですか。」
「よくわからないんだけどね、君といると、自分が酷く悪い人間なんじゃないかって、そう思えてくるの。」
何を言っているのか、分からない。
「ごめんね。君とは付き合えない。」