後日談.新婚旅行?編 雷神の一撃
「みんなには、ここにいてほしい。俺が行くから」
俺はアイテムリングからガラドルグを取り出してみんなに言う。みんなには危険な目にはあって欲しくないからな。
アルベリーは行きたそうだったけど、先ほどの話を聞いて思い留まる。悔しそうに歯をくいしばるが、俺はアルベリーが弱いから連れて行かないということではない事を伝える。
アルベリーは、確かに巨大な敵とは戦った事ないが、多数との相手とは戦った事がある。それも何十という敵に囲まれても。
カレンデイーナに同じ事をやってくれと言っても、それは無理だろう。逆にカレンディーナがジャパウォーネのコクシと戦う時は、絶対に1人では戦うなと、俺は言う。囲まれるのが目に見えているからだ。
それならの事を伝えると、アルベリーもようやく納得してくれた。アルベリーもカレンディーナも弱い訳はない。2人とも国を背負って戦って来たのだから。ただの適材適所だ。
それぞれに合った戦い方があって、今回はアルベリーには合わなかっただけ。慣らして行くのならもう少し小さい方がいい。今回は大き過ぎる。
俺は雷装天衣を発動して、巨大なコクシへと迫る。コクシは、カレンディーナ1人に狙いを定めているようだ。
体中から伸びる触手が、カレンディーナを絡めとらんと伸びて行く。カレンディーナは隙間を縫うように避ける。カレンディーナが履く靴もアーティファクトだろうか? 空中を走っているかのように避ける。
そこに巨大な拳が迫る。カレンディーナは槍で上手い事逸らすが、腕が痺れるのだろう、時折腕を振っている。あんな質量を誇る拳を、そう何度も逸らす事は厳しい。
俺は宙に武器を出現させてその上を走る。この距離からでもとんでもない圧力感がある。兵士たちの疲労も酷い。1発でもくらえば……いや掠りでもすれば死んでしまう攻撃を、何度も避けているのだ。精神的には辛いだろう。
俺はカレンディーナを狙う触手へと、雷の武器を放つ。雷の武器は狙った触手を穿ち、本体から切れた部分は地面へと落ちる。
「大丈夫か、カレンディーナ!」
「は、はいっ、大丈夫です、レイヴェルト様!」
カレンディーナは、肩で息をしながらも、巨大なコクシを見る。俺はカレンディーナの隣まで行き、回復魔法をかける。体力は戻らないが、疲労などは軽くなるだろう。
その時、俺たちがいる場所に、コクシの触手が伸びてくる。俺とカレンディーナは左右に分かれるが、数の多い触手も、左右へと分かれてくる。どうやらコクシは俺も敵と認定したようだ。
俺は迫る触手を両手に雷の剣を創り出し、切り裂いて行くが、切っても切ってもその先から生えてくる。面倒な奴だ。そこに巨大な拳が迫る。俺は避ける暇もなくそのまま……
「レイヴェルト様っ……え?」
殴られる事は無く、コクシの顔の前へと転移する。カレンディーナは俺が空間魔法を使える事を忘れていたみたいで慌てていたが、俺が移動したのをわかると、変な顔をしている。
俺はコクシの眼前で、槍の投擲の構えをする。俺の手の中には青紫色に光り輝く雷の槍が握られている。
「穿て、雷天の神槍!」
コクシは危険だとわかったのか、槍を避けようと顔をずらそうとするが、間に合わず顔の右半分を抉り取る。
コクシからは血が噴き出す事は無く、ただ泣き叫ぶだけ。ただその叫び声が大気を揺らし、衝撃波となって襲ってくる。
俺やカレンディーナは耐えたが、兵士たちはほとんどが吹き飛ばされた。中には耳から血を流している兵士も。
その上、抉ったはずのコクシの顔が徐々に治っていく。再生能力も持っているのか。さすがにこの事は予測出来なかったのか、カレンディーナも俺の隣で「そ、そんな……」と呟いている。
さて、どうしたものか。このコクシを倒そうと思ったら、一瞬で消し飛ばさないといけないだろう。だけど、こんなところでそれ程の威力を放てば街に被害が出る。どこかへ飛ばすか。
「カレンディーナ。この大陸でもう使わない大地とかあるか?」
俺の突然の質問に首を傾げるカレンディーナだが
「え、ええ、もう使わないといえば変な話ですが、ここより南に死の森というところがあります。そこは枯れた木々しか生えておらず、生き物もいない既に死に絶えた土地です。そこなら大丈夫かと。何をされるのですか?」
「ん? このコクシを消し飛ばすんだよ」
俺は再生中のコクシに近づき、転移を発動する。ここから南、まずは見える範囲で転移する。空中に俺とコクシ、ついでに知りたいだろうからカレンディーナも連れて転移した。あそこかな? 確かに枯れた木々しか生えていない。俺は再度転移する。
「えっ? えっ? えっ?」
初めての転移に戸惑いの声を上げるカレンディーナ。アルベリーみたいだな。死の森まで来ると、コクシは地面に放り、カレンディーナを俺の背後に立たせる。
ふぅ、これを使うのは戦争以来だな。久々だから少し加減が出来ないかもしれないが
「行くぞ、轟け、雷神ノ雷霆!」
以前は、ヒカリンの力無しでは出来なかったが、今は俺1人でも使えるようになった。右手に持つガラドルグが矛となり、左手には雷の籠手を纏う、背後には8つの円状の雷が舞う。俺の雷魔法最強の魔法だ。
「……す、すごい……」
後ろでカレンディーナが呟くが、俺はそのままコクシから目を離さない。コクシは俺の技が危険だと理解しているのか、今までには無かった攻撃をし始めてきた。
俺たちに向かって魔弾を放ってきたのだ。俺は雷神ノ雷霆で飛んで来る魔弾を消し飛ばす。1発1発はとんでもない威力を持っているが、今の俺には効かない。
俺は背後に飛んでいる円状の雷を、コクシの周りに放つ。雷はそれぞれコクシを囲むように飛び、コクシの周りを回る。
そして、すべての雷から線が伸び、それぞれの雷へと繋がって行く。巨大な魔法陣の完成だ。そこに俺の魔力を流すと、魔法陣は点滅し始め、雷が迸る。
「くらえ、雷神ノ撃鉄」
俺は天高く掲げた矛を、コクシに向かって振り下ろす。その瞬間、空から一筋の雷が降り注ぎ、魔法陣と共鳴して、コクシを覆い尽くすほどの巨大な雷となり、コクシの上へと落ちた。
コクシとぶつかった瞬間、雷鳴が轟き、辺り一面を眩い光で覆い尽くす。コクシの断末魔は聞こえる事なく、ただ雷が轟く音だけが鳴り響いた。
光が収まり、そこにあったのは、全てが黒く燃やされた大地のみとなった……と思っていたが、コクシがいた中心に、人が倒れていた。
筋骨隆々な男が1人。コクシがいた中心にいるという事は……彼がこの大陸のシェイドの使徒か。彼には話を聞かせてもらおうじゃないか。




