後日談.結婚式編 国民からの祝福
「これは……凄いな……」
俺はテラスから見える景色に声を失う。今日はナノールでの結婚式の日なのだが、街を覆いたくさん限りの人の数だ。
俺たちを見られるように王宮の一部の箇所も一般用に開けられており、そこからテラスの近くまで来られるのだが、兵士たちが押さえないと溢れてしまいそうなほどの人数だ。
王宮の外の大通りも屋台がぎっしりと並んでおり、かなりの人が行き来している。全国から俺たちを一目見ようと集まっているようだ。
今回の結婚式の参加者は、アレクシア、ヘレン、エアリス、マーリン、フィーリア、クロナになる。みんなは朝から今日の準備のために着替えているはずだ。男の俺は直ぐに終わったけど。
「ようやくこの日が来たな」
「……ナノール陛下。それに宰相、父上も」
俺がテラスから見える景色をぼーっと見ていたら、扉が開かれナノール陛下たちが中へ入って来た。おおよそアレクシアたちの部屋から追い出されたのだろう。あそこは男子禁制だからな。
そのまま入って来たナノール陛下たちは部屋にあるソファに座る。俺も向かいに座ると
「レイと出会ってもう9年になるのか」
ナノール陛下がしみじみと呟く。9年か。あれは確かランウォーカー領での大行進の報告のために王都に来たんだっけ。その時期に丁度マリーナさんの誕生日があったので、みんなで行く事になったのだったな。
「あの時、出会ったアレクシアが父上に決闘を申し込んだんでしたね」
「あ〜、そうだったな。でもそのままレイにさせたんだっけ?」
ジークは戦うのが嫌だからと、アレクシアの相手を俺にさせたんだったな。今思えばあれをしなければ、こんな風に婚約者にはなってなかったのだろう。
あの戦いがあったからこそアレクシアが俺の事を気に入ってくれて、俺もアレクシアに興味が出た。ヘレンもあの時出会ったんだったかな。懐かしい。
「今でも忘れませんぞ、ヘレンが不思議な男の子がいると騒いでいたのを」
宰相が笑いながらそんな事を言ってくる。そんな事を言っていたのか、ヘレンは。なんだか、本人以外からそんな事を聞くのは恥ずかしいな。
それからも昔話に花を咲かせていると、扉を叩く音が聞こえる。返事をすると、この王宮の侍女が部屋に入って来て、アレクシアたちの準備が出来たので、俺に来て欲しいと言う。
みんな物凄く綺麗なんだろうなぁ。俺はワクワクしながら侍女の後に続く。その後ろにナノール陛下たちも付いてくる。
そして、みんながいるという部屋にたどり着くと女騎士たちが入り口をガッチリと守っていた。侍女がノックをして扉を開けるので俺は続くが、後ろに付いていたナノール陛下たちは女騎士たちに止められていた。
「ここから先はレイヴェルト様のみとなっております」
「な、なぜだ!? 私も娘の花嫁姿が見たいのだが!」
「レイヴェルト様がご覧になった後となります」
と、全く通そうとしない女騎士たちにナノール陛下たちも諦めてしまった。
俺はそんな陛下たちを気にしつつもそのまま部屋に入る。中はカーテンで仕切られており、他の婚約者たちの姿が見えない。
「レイ様が参りました」
「そう、レイ、少し待っててね」
侍女が俺の到着を伝えると、カーテンの向こうからアレクシアの声が聞こえる。それと同時にカーテンの開く音も。アレクシアたちもカーテンで遮っていたのだろう。
そして、侍女の1人がカーテンの裏から出てくる。着付けを手伝っていた侍女だな。彼女がカーテンをササッと引いて行く。そして現れたアレクシアたちの姿に俺は固まってしまう……フェリスたちの時と同じじゃないか、俺。
皆それぞれ化粧をして色とりどりのとても綺麗なドレスを着ている。アレクシアは肩口が出ている黄色のドレスを。エアリスは真っ赤なドレス。ヘレンはオレンジのドレスで、マーリンは緑色のドレス。クロナは黒色のドレスでフィーリアは水色のドレスをそれぞれ着ている。
「へ、変じゃないかしら?」
「とんでもない。みんなとても綺麗だ。今すぐにでもみんなを自慢したいぐらいさ」
俺がそう言うと顔を赤く染める。でも俺は嘘ではなく本当にそう思っている。フェリスたちのときも思ったが、本当に俺にはもったいないぐらいの婚約者たちだ。
それぞれ自分の姿がどうか尋ねてくるみんなに感想を述べていると、扉からおめかししたアレンとエレネが入ってくる。
「うわぁ〜、ママたちきれい〜!」
「ママ、きれい!」
「ふふ、ありがとうねアレン」
「エレネもありがと」
「私もママたちみたいにけっこんしたい!」
……イマナンテイッタ? エレネガケッコンダト? ドコノダレダ、ボケ! ゼッタイニユルサネエゾ!
「こら、レイ君、変な殺気が出てるわよ」
俺がエレネの一言に狂っていたら、マーリンがコツンと俺の頭を小突く。はっ! 俺は今夢でも見ていたのか? なんか、エレネの口から不穏な言葉が聞こえたような。
エレネを見てもエアリスたちとキャキャ言っているだけだ。気のせいだったのだろうか?
「皆様、お時間となりました」
おっと、もうそんな時間か。今日1日かけて王都を回るないといけないから、丁度いいぐらいの時間帯か。ナノールの王族は王座の間で誓いを立ててから、国民に結婚した事を報告するために王都の大通りを回るらしい。
俺たちは王座の間まで歩く。順番的にアレクシアが俺の右側、ヘレンが俺の左側になってしまうが。後ろにエアリスたちが付いてくる形だ。
それから誓いを立てる。今更誓いを立てなくてもみんなを幸せにするさ。絶対に。
全員に対する誓いを立てると、今度は国民に対する報告だ。屋根の付いていない馬車が王宮の中に一台停まっており、その馬車に乗って王都を回る。
周りからは歓声しか聞こえない。偶に、キスしろ! と、抱き合え! とか、男たちのヤジが聞こえるので、みんなの前でしてやった。
されたアレクシアとヘレンはみんなの前でするなんて! と、プンプン怒り、ヤジを飛ばした男たちは血の涙を流し、女たちはキャーと黄色い歓声を上げていた。
「アレクシア、ヘレン、もう離さないからな」
「ええ、もちろんよ」
「当たり前です!」
エアリスたちにも伝えたいが、今は隣にいるアレクシアとヘレンだけに伝えよう。俺たちは国民から祝福を受けながら、誓い合うのだった。
仕事の都合で、平日の更新は昼から夜になります。お許しよ。
後日談の結婚式編は新婚旅行まで考えています。その後は迷宮の問題と少しして、「転生少年」は終わって続編に入ろうかなと思っています。よろしくお願いします!




