185.謁見
俺たちはレガリア帝国宰相のブルックリン宰相の後ろに付いて行き、皇城内を進む。中を進むのは俺とアレクシアのみ。護衛役として付いて来たメリア将軍たちは待機室とやらに案内されてしまった。
そっちにはマリリンを付けたから何かあったらわかるのだが、それでも心配だ。
それに、皇城の通路には両側に一定間隔に兵士が並ばされている。全員腰にある剣に手をかけ、いつでも抜く事が出来る体制で俺たちが通り過ぎるのを見ている。
「ここが玉座の間になる。ここで皇帝陛下と謁見して頂く。開けてくれ」
「はっ!」
ほえ〜。これまた豪勢な扉だなぁ〜。大人の兵士2人がかりで扉は開けられる。そして開けられた扉の中をブルックリン宰相はスイスイ進んでいく。
俺たちも例に習って後を付いていく。中には左右に分かれてこのレガリア帝国の重職を担う人たちが立っている。
鎧姿の人もいれば、魔法師っぽいローブを着た人もいて、文官のような格好をした人もいる。そしてその中には戦争の時に戦った勇者君たちも混じっていた。もちろんその中には
「……香奈」
香奈も混じっている。隣には麻里ちゃんもいる。前に見た時より少しやつれたか? ちゃんと飯食ってんのかな? ちゃんと眠れているのだろうか? 気になってしまう。
「レイ?」
おっと、どうやら立ち止まっていたようだ。アレクシアが不思議そうな顔をしながら振り向いてくる。今は謁見に集中しよう。話そうと思えば後で話せるしな。
俺はアレクシアに何でもないよと伝えて、アレクシアの一歩後ろで立ち止まる。あくまでも代官はアレクシアだからな。俺が出しゃばるような事はしてはいけない。
それにしても、バシバシ殺気を飛ばしてくるな。この程度どうって事は無いが目障りだ。少し抑えてもらおう。
殺気を飛ばしてくる鎧姿の男たちに向かって俺も殺気を飛ばす。鎧姿の男たちは咄嗟に剣に手をかけるが、俺がさっきより少し強めに殺気を飛ばすと、剣を掴んだままガクガクと震え出す。
隣の文官や魔法師の人たちは気が付いていない。鎧姿の男たちにだけ飛ばしているからな。反対側の人たちで気が付いた人は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。こんな小僧にビビっててところか?
1人爆笑しているが……ってあいつ戦争の時に屋敷に奇襲しかけた奴じゃないか。後で師匠に聞いたが、名前は確かガルガンテ・ケルシオス。師匠と同じSランクの冒険者だ。それにハクの過去の話にも出て来た奴だ。要注意人物だ。
うん? 俺を物凄く睨んでくるのは……あれは勇者君と一緒にいた魔剣君か。なんであんなに俺を睨んでいるのだろうか? 前の戦争で切られた事を恨んでいるのか? 謎だな。
そんな風に周りを見ていると
「皇帝陛下のおなり!」
と声がする。その瞬間、周りのレガリア帝国の幹部たちは片膝をついて頭を下げる。アレクシアも同じ様にしている。俺も習って頭を下げる。
頭を下げていると、上からしわがれた声で「面をあげよ」と声が聞こえてくる。頭をあげると、玉座には、痩せ細った老人が座っていた。……あれがレガリア皇帝か? 何だか覇気が無いな。病気なのだろうか?
「……お主が、代官か?」
「はい。アレクシア・ナノールと申します。お見知り置きを」
「ブルックリンよ。此奴らを丁重にもてなせ」
「はっ」
皇帝はそう言うだけで帰って行ってしまった。本当に体調が悪いのだろうか?
「申し訳ないが父上は少し体調が優れない。代わりに皇太子の私が話をしよう。先ずはレイヴェルトと言うのはそなたか?」
「はい。私がレイヴェルト・ランウォーカーです。皇太子殿下」
「ふむ。戦争ではそなたには散々な目にあわされたが、今は全て流そう。そなたたちには友好のために来てもらっているからな。その証として、ルシアーナ。前に」
皇太子が指示を出すと、勇者たちがいる列から1人の女性が前に出てくる。茶色の髪が肩下ぐらいまで伸びていて、サラサラと揺れている。綺麗な人なのだが……。
「レイヴェルト様。ルシアーナ・レガリアと申します。宜しくお願い致します」
そう言ってスカートを持ちながら微笑んでくるけど、俺には泣いている様にしか見えなかった。政略結婚で嫌だからか?
「アレクシア殿には妻が増えて申し訳ないが、仲良くしてやってくれ。これでも器量は良い方だ。よろしく頼む」
「……わかりました皇太子殿下」
アレクシアは特に何も言わずに頭を下げる。
「それでは夜の友好のためのパーティーまでまだ時間はある。ルシアーナ。レイヴェルト殿と親睦を深めるがいい」
「わかりました、お兄様」
こうして、謁見は終了した。俺たちは謁見の間を退出した後は、俺とアレクシアの部屋に案内された。どうやら2人で一緒の部屋を使わなければならないらしい。それに今はルシアーナ様もいる。3人で部屋に入るが誰も一言も話さない。
それに他のみんなが心配だ。マリリンから何も連絡が無いので大丈夫だとは思うが。1人で考え事をしていると
「……イ、……レイ!」
「うわっ! な、何だよアレクシア」
至近距離でアレクシアの顔があって驚いてしまった。ずっと俺の事を読んでいたみたいだ。
「何だよ、じゃ無いでしょ! あなたがルシアーナと話さなくてどうするのよ!」
そして怒られてしまった。アレクシアの隣には恐縮そうに座るルシアーナ様の姿がある。それもそうだな。政略結婚でも、彼女には後悔して欲しくないからな。
「すみません、ルシアーナ様。少し考え事をしていて。もう知っているとは思いますが、俺の名前はレイヴェルト・ランウォーカーと言います。よろしくお願いします」
「あ、はい。私も先ほど挨拶をしましたが、ルシアーナ・レガリアです。それから私の様なものに敬語で話さなくても良いですよ」
そう言いながら少し自嘲気味に笑うルシアーナ。それなら普通に話すが、色々と抱えていそうだな。
そう思っていたら、扉がノックされる。今は俺たち3人しかいないため、俺が代わりに扉を開ける。するとそこには
「あっ、突然すみません」
と頭を下げる香奈がいて、後ろには不安そうにいる麻里ちゃんが立っていたのだ。




