175.竜王の咆哮
「ここなら良いだろう」
「ここは?」
レビンさんの素材を賭けて戦う事になった翌日。王都の近くで戦うわけには行かないからと、レビンさんに連れてこられたのは、大陸の外にある無人島だ。……こんな場所があったなんて。
「ここは空を飛べる種族しか来られないからな。大陸を囲むようにいくつかの島がある。属性王はそれのどこかに住んでいる」
そうだったのか。俺たちでは海を渡る事は難しいからな。大陸の中で1番船が発展しているシーリアですら海の魔物相手では沈められてしまう。俺も見た事は無いのだが、全長30メートルほどの海蛇とかがいるらしい。怖いな。
「このあたりならドンパチやっても大丈夫だ。たまに竜同士の喧嘩もしているからな。周りにいくら被害が出ても誰も文句は……竜たちは言ってくるだろうが、まあ、大丈夫だ」
そう言い俺の方を見るレビンさん。いつもと違った本気の目だ。それだけで背筋が寒くなる。周りを押し潰さんばかりの殺気。……かなり本気のようだ。
「ちょうど良いタイミングだった。俺もお前がどれだけ強くなったか測ろうと思っていたところだ。七魔将も後2人復活すれば、奴らと本気の全面戦争になる。残り2人は黒竜王と魔姫だ」
黒竜王はわかるが魔姫っていうのはなんなんだ? よくわからんな。
「まあ、今は良いだろう。お前の本気を見させてもらうぞ、小僧!」
レビンさんはそう言った瞬間、体に雷を迸らせる。すると両手両足が竜化、頭から角が生えて尻尾も生えている。半竜化か! 地面を踏みしめ跳んでくるレビンさん。
「雷装天衣! 雷帝の武器庫!」
竜化した右腕で殴りかかってくるレビンさんを、両手に剣を出現させ受け止める。俺は二刀の剣でレビンさんの右腕を弾き、左手の剣で切りかかる。レビンさんは体を逸らして剣を避け、今度は左腕で殴ってくる。
俺はそれをしゃがんで避けるが、それを予想していたレビンさんは回りながら尻尾を振ってきた。俺は尻尾を剣で防ぐが、体勢が悪かったので吹き飛ばされる。
まあ、吹き飛ばされるのは俺も予想が出来ていたから、俺も飛ばされる方に跳んでいたので力を逃がす事は出来たが。
俺が転がるようにレビンさんから離れるが、レビンさんは直ぐに迫ってくる。そしてバチバチと雷を纏わせた右足でかかと落としをしてくる。これはまずい!
「おらっ!」
「くっ」
俺は直ぐにその場から飛び退くと、レビンさんは右足を地面に叩きつける。その瞬間、地面が割れ雷が地面に炸裂する。
ドォンッ! 大きな音が鳴り響き地面を揺らす。なんであんな威力が出るのかわからないが、その隙にレビンさんの周りに武器を出現させる。そして
「降り注げ!」
全部で100本ほどの様々な武器がレビンさん目掛けて降り注ぐ。レビンさんは全てを受けるが、この程度でやられる人では無い。俺は再び両手に剣を出現させ、レビンさんに切りかかる。
俺の思っていた通り、レビンさんは所々傷付いているが、普通に立っていた。以前は傷すら付かなかった事を考えば少し進歩したか。
「少しは成長したじゃねえか!」
レビンさんもどこか嬉しそうな声を出しながら殴りかかってくる。その拳を剣で防ぎ、切りかかると腕で防がれる。
このままでは押されると思った俺は一旦距離を取るため、武器を放つ。レビンさんは降り注ぐ武器を殴り蹴りして撃ち落としていく。その間に槍を発動させて魔力を込める。
そして右肩に担ぐように槍を持ち限界まで腕を引く。その槍をレビンさん目掛けて
「穿て、雷天の神槍!」
俺の放った神槍は、バチっと音を鳴らしたかと思うと、既にレビンさんに迫っている。レビンさんは両腕を交差させて何とか防ぐが、そのまま吹き飛ばされる。遅れてやってくる暴風。大気を焦がし地面を抉る程の雷。そして
ズドォン!
と、空間を揺るがすほどの爆音。空高くまで昇る雷の柱。以前ほどは疲れなくなったが、あまり連発できるものでは無い。これでどれだけレビンさんにダメージを与えられたかだ。
もくもくと立ち込める砂煙。爆発した辺りは、雷が迸っている。が、これでレビンさんがやられるとは思えない。
あの煙の中からいつレビンさんが出てくるかわからないから、俺は両手に槍を出現させ、煙目掛けて武器を放つ。レビンさんが出てくるのを待つ程余裕があるわけじゃ無いからな。
そして、俺のその予感は的中していた。煙の中が光り出し、周りに浮いていた武器たちを雷が消し飛ばす。煙の中から現れたのは、全長20メートル程の竜が現れる。レビンさんが完全竜化した姿だ。
『行くぞ、小僧』
そう言ったレビンさんは空を飛び、周りに雷の球体を出現させた。全部20ほど。1つ1つが俺より大きい。その球体が俺目掛けて降ってくる。
「ぐっ! 何て威力だよ!」
1発1発がとんでもない威力を放つ。地面にぶつかると抉り、木々にぶつかると消し飛ばす。俺は武器を空中に展開しその上を跳ぶ様に避ける。その上、武器をレビンさんに放っているが、覆われている鱗に全て弾かれてしまう。
『避けなきゃ死ぬぜ? ドラゴクロー!』
レビンさんがそう言うと、爪に魔力が集まって行くのがわかる。そして腕を振るうと、爪から魔力の塊が放たれた。5本の爪の刃が俺に迫る。しかも1本1本がでかい!
俺は迫る爪の刃に武器をぶつけて相殺させる。50本ほどぶつけて漸く1本かよ! 全ての爪の刃を相殺させたと思ったら再び放ってくる。
流石にもう一回相殺させるのは難しい。俺はその場から避ける。空中に武器を出現させて避けるが、それを見越していたレビンさんは雷の球体の集中砲火を浴びる。武器を放って相殺するが、爆風で視界が悪くなる。
今は均等を保っているが、このままじゃあ。そう思った瞬間、煙が一気に晴れる。そして、その中からレビンさんが現れ
『フン!』
レビンさんは回転しながら尻尾を振ってきた。これはやばいと思った俺は直ぐに出せるだけの武器を目の前に出現させ壁にしたが、武器たちは粉々に消え去って行く。そして気がつけば尻尾は目の前に。
何とかその場から離れようとしたが間に合わず尻尾が掠る。その掠っただけで、俺は吹き飛ばされる。吹き飛ばされ、上下左右もわからないまま、痛みだけが体に走る。
「がはっ!」
俺は何十という木々を薙ぎ倒してようやく地面に倒れる。くそっ。なんてパワーだよ。今の一発で体がボロボロになりやがった。ゲホッゲホッ! 内臓もどこかやられたな。
『小僧! てめぇの本気はそんなもんかよ!』
大気を轟かせる様な咆哮が聞こえてくる。その声と同時に俺の上へと降り注ぐ雷。くそっ! 休む暇もねぇ! 俺は直ぐにその場から飛び退く。地面にぶつかり眩い光を放つ。危ねえな……ってやばい!!!
『おらっ!』
先程の雷とは比べ物にならないくらいの重量を持つ一撃。俺はその場から飛んで避けたが、地面にぶつかった衝撃で吹き飛ばされる。ぐうっ。やっぱりこの人から素材を取るのはかなり厳しい……。だけど、そんな事を考える暇も無く
『これを受けてみろ! 竜王の咆哮!』
レビンさんの口元に集まるとんでもない量の魔力。あれ不味すぎる! 何ても放とうとしてんだよ、あの人は!? 俺は直ぐに魔法を発動。
「くそっ! 複合魔法雷光ノ天装! 雷の閃光!」
レビンさんの口から放たれた咆哮に向かって、俺は光の球体をぶつける。ぶつかった瞬間爆発。辺り一面は真っ白に包まれた。
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