ドワンゴ主催・新棋戦の名称を考えよう
本作の登場人物は、
『こちら、駒桜高校将棋部』
http://ncode.syosetu.com/n8275bv/
『こちら、駒桜高校将棋部〜Outsiders』
http://ncode.syosetu.com/n2363cp/
のメンバーになっています。
こんにちは、私の名前は、葉山ひかる。
駒桜市立高校の新聞部員。よろしくね。
実は私、将棋部にも所属してるの。幹事。で、今日は、そのミーティング。
各校の代表者が、喫茶店八一に集合してるってわけ。
「だいだい、こんな感じか?」
つんつん頭の少年が、私たちに尋ねた。
彼は、箕辺辰吉くん。
駒桜市将棋連盟の会長。棋力は微妙だけど、人望はあるってタイプね。
「僕はいいと思うよ」
このタキシードを着た、ちょっと変わった少年は、佐伯宗三くん。
日本人とポーランド人のハーフなんだって。趣味は手品、チェス、将棋。
どれもインドアね。スポーツはしてないのかしら?
「ほかのメンバーは?」
だれも異義を出さない。こんなもんよね、学生のミーティングなんて。
仕事を終えた私たちは、コーヒーを飲んでサンドイッチをつまんだ。
あれこれしゃべっていると、箕辺くんがいきなり話題をふった。
「今度、ニコニコ動画主催の新しい棋戦が作られるだろ?」
となりに座っていた白髪の少年は、知ってるよ、とうなずいた。
彼は、捨神九十九くん。ピアニスト高校生。美形だけど変人。
髪はぼさぼさだし、着ているものは変なレインコート。
でも、将棋は市内最強だったりする。
「名前を募集してたね。えーと、今月の10日までだっけ?」
捨神くんの確認に、箕辺くんはうなずいた。
「なんか、いいアイデアないか?」
「僕もちらほら考えてたんだけど……あんまりパッとしないかな」
「例えば?」
「人王戦っていうのは、すぐ思い浮かぶよね」
人王
それを聞いたまわりの面子は、しばらく沈黙した。
「アハッ、やっぱり変だった?」
捨神くんは、自嘲気味に笑った。
「変じゃないと思うっスよ? なんでダメなんっスか?」
独特の語尾で、ファッショナブルな少女がしゃべった。
彼女は、大場角代さん。
服装からして、お察しくださいって感じ。
悪い子じゃないんだけどね。私は仲がいいわよ。
「大場さんは、人王でいいの? パッとしなくないかな?」
捨神くんは、尋ね返した。
「ソフトの王様が電王っスから、人の王様は人王でいいと思うっス。あれって、次回電王戦の出場者を決めるんじゃなかったっスか?」
電王戦っていうのは、ドワンゴが主催している人間vsコンピューターの、非公式棋戦。現在まで、4回行われていた。前回でオシマイ、という話だったのが、どうも復活するらしいの。ドワンゴも、あおり屋だから。
「どういう方式でやるんだっけぇ?」
かわいらしいショートの子が尋ねた。
彼女……じゃなくて、彼は葛城ふたばくん。
いわゆる男の娘ってやつだね。女の私よりキレイとか、もやもやする。
「たしか、新棋戦の優勝者と、次回電王戦トーナメントの優勝ソフトが、2番勝負で戦うんだよ。しかも、2日制」
と捨神くん。
「2日制って、どうやるんだ? ソフトは一晩中、動かしてもいいのか?」
箕辺くんが尋ねた。
「ダメなんじゃないかな? 人間は睡眠が必要だよね?」
佐伯くんは、否定的。
「だけど、ソフトの電源を切ったら、人間だけ考えれて有利じゃないか?」
箕辺は、首をひねった。
佐伯くんも、うーん。
「そのへんは、まだ考えてないんじゃないかな?」
「Hmm……いわゆるゴテゴテというやつですわ」
と、金髪のお嬢様。
彼女は、エリザベート・ポーンさん。ドイツからの留学生。
「日本人は、そういうところをなりゆきに任せるからいけませんのよ」
「アハハ、これも文化だからね」
捨神は、そう言うと、コーヒーを飲んだ。
「で、ほかの人の意見は? 佐伯くんなんか、どう?」
捨神くんは、佐伯くんに尋ねた。
「日本人のセンスは、よく分からないから……」
「外国人のセンスでもいいよ」
「カドカワが主催するなら、角の字を入れた方がいいんじゃないかな?」
なるほどね、と捨神くんは答えた。
「角ちゃん、それに賛成するっス!」
大場さんが便乗。
さっきと言ってることが違うんだけど。
「でも、角を使うって難しいと思うよぉ」
葛城くんの言うとおり。
角ってさ、将棋をしてる人には分かるけど、一般人がみたら普通は「かど」なのよね。曲がり角とか。それを名前に使っても、イメージが湧きにくいと思う。
大場さんが便乗したのは、自分の名前だからでしょ。間違いないわ。
「角……角王か?」
箕辺くんは、あごに手をそえて、そうつぶやいた。
「角王は、さすがに意味が分からないよぉ」
葛城くんは、ばっさり。
「7大タイトルのうち、5つは王がついてるだろ? 王位、王将、棋王、王座、竜王……うん、やっぱり5つあるな。だったら、王の字は妥当だと思うんだが」
「これタイトルじゃないよねぇ? 非タイトル戦なら、NHK杯とか、朝日杯とか、分かりやすい名前になってるよぉ」
「じゃあ、角川杯では、いかが?」
ポーンさん、安直。
「電王戦絡みじゃなかったら、角川杯はありかもね。ただ、角川は、社名をアルファベット表記にしてるんじゃなかったかな? KADOKAWA杯になるよ?」
捨神くんは、表記変更を求めた。
「だったら、角の字が消えちゃうね」
佐伯くんが指摘したとおり、最初のテーマから離れちゃってる。
「角がなくても、KADOKAWA杯は響きがいいっスね」
あら、大場さんは、意外と乗り気なんだ。
自分の名前を入れたくて、ごり押しかと思ったけど。
私もなびきかけたところで、箕辺くんが口を挟む。
「ちょっと待て、KADOKAWAって、ドワンゴと提携したんじゃなかったか?」
あ、そう言えば……。
「今はKADOKAWA・DWANGOよ」
私は、横合いから口を出した。
こういうところは、ちゃんと情報仕入れてるんだから。新聞部員だもの。
捨神くんは、ふーんと溜め息を漏らした。
「KADOKAWA・DWANGO杯……ちょっと長過ぎるかな」
「略称は、カタカナでカドカワよ」
私は、さらに付け加えた。
「え、どうして?」
「ふたつの名前をミックスして、KAドKAワ」
捨神くんは、「へ?」みたいな顔をする。
【KA】DO【KA】WA・【ド】【ワ】ンゴ→カドカワ。
まあ、めちゃくちゃよね、これ。
だけど、すぐに分かってくれたみたい。
「アハッ、理解したよ。じゃあ、カタカナでカドカワ杯になるのかな?」
「Was? ……さすがにそれは冴えませんわ」
「なんでっスか?」
「わたくし、カタカナがあまり好きではありませんの」
私怨かい。
「ひとつ確認するっスけど、主催者ってカドカワなんっスか?」
「あれ? 違ったか?」
箕辺くんは、自信なさげ。
「ドワンゴだった気がするっス」
大場さんの指摘に、箕辺くんはアッとなった。
「そ、そうだ、ドワンゴ主催だ。カドカワは親会社ってだけだな」
「じゃあ、ドワンゴ杯になっちゃうねぇ」
さすがにそのまんま過ぎて、却下かしら。
「ほかに、角の入ったかっこいい名前はないのかな?」
佐伯くんは、スタート地点にもどった。
角川にこだわらないなら、角にこだわる必要もないんだけどね、本当は。
「角……中将棋にはあるかな」
と捨神くん。
「ちゅうしょうぎ?」
佐伯くんは、知らないみたい。私も知らない。
「将棋の拡張版だよ。駒の種類が増えるんだ」
「その駒のなかに、かっこいい名前はあるのかな?」
「角鷹っていうのがあるよ」
角鷹戦
うーん……どうかしら。
「名前はかっこいいけど、今回の棋戦となにも関係ないよねぇ」
葛城くん、なかなか辛辣なコメント。
「棋戦と関係ある名前のほうが珍しいけどな」
箕辺くんは、フォローを入れた。
「えへへ、言われてみればそうだねぇ。新人王くらいかなぁ?」
「やはり、Herrステガミの人王戦が、よろしいのでは?」
「ポーンさんが賛成してくれるのは嬉しいけど、見た目が悪くない?」
人王……たしかに、パッと見の印象がそこまでよくないかな。
「人を意味する他の漢字に置き換えたら、どうだ?」
箕辺くんの提案に、捨神くんはパチリと指を鳴らした。
「いいね! でも、あるかな?」
「こういうときは、ネットで調べるに限るっス」
私たちはスマホを取り出して、インターネット検索。
……………………
……………………
…………………
………………
「仁義の『仁』が『人』の意味を持ってるみたいね」
私は、ネットで見つけた検索サイトを読み上げた。
「そうなのか?」
箕辺くんは、意外そうな顔をする。
「おかしくはないっス。『あなた』のことを『御仁』って言うっス」
大場さんに言われて、全員納得。
たしかに、御仁って言うわね。最近は使わないけど。
「じゃあ、仁王戦にするか?」
仁王戦
……………………
……………………
…………………
………………
「ふえ? この単語、どっかで見たことあるよぉ」
「だな、これって仁王だぞ」
「アハッ、ほんとだ、偶然の一致だね」
すでにある単語だと、まずいかしら? そうでもない?
「人ではなく、王の字を変えてみてはいかがですかしら?」
ポーンさんは、べつのアイデアを出した。
「画数が少ないから冴えないのだと思いますわ」
人王……スカスカね。6画しかない。
名人が8画だから、一番少ない画数になりそう。
「王に近い意味のビジュアルがいい漢字ってあるかな?」
捨神くんは、ふたたびスマホを操作する。
だけど、箕辺くんの答えが早かった。
「皇帝の皇でいいんじゃないか?」
人皇戦
「なんて読むのぉ?」
「そ、それはだな……」
「ジンノウかジンコウな気がするね。ジンオウって読める?」
捨神くんは、スマホで確認。
「……あ、特殊な読みがあるね。ってことは、ジンオウでもいいんだ」
「Ich verstehe nur teilweise……ジンノウ、ジンコウではダメですかしら?」
「電王戦に合わせたほうがいいんじゃない?」
「Aha, das' überzeugend」
「あ、ちょっと待って」
佐伯くんは、スマホから指を離した。
「この漢字の組み合わせ、もうあるみたいだね」
マジで? 見たことないんだけど。
「『神代の神々に対して、神武天皇以後の天皇をいう。にんのう。じんのう。』あるいは、『中国古代の伝説上の帝王。天地人の三皇の一。』だって」
仁王は知ってたけど、これは知らなかった。
みんな考え込む。
「……2の意味なら、むしろかっこよくないか? 好都合だぞ」
「だねぇ、問題は、1の意味だと菊タブーに触れかねないことかなぁ」
「キクタブーってなんですの?」
「皇室関連のネタは自重しろってことだよぉ。要するに、羽生人皇とか森内人皇って名乗ると、『自分が天皇だ』って意味になっちゃうからねぇ」
将棋の話をしてて、なんで菊タブーが出てくるかな。
日本語は奥が深いわね。
「天皇の意味では、ニンノウかジンノウなんだよね?」
捨神くんは、佐伯くんのスマホをのぞき込む。
「そうだね。ジンオウはないね」
「じゃあ、読みが違うし、大丈夫なんじゃないかな。同字異義語ってことで」
「あるいは、仁義の仁に変えるか?」
仁皇戦
これは……ビジュアルはかなりいいけど……。
いちおう、ネットでチェックしようか。
「仁皇川っていう川しか出ないっス」
「そっか、大場の言うことが正しいなら、これでジンオウって読ませるか?」
箕辺くんは、後者を推し始めた。
「でもさぁ、人王と違って、人皇は画数が多いから、人でOKじゃない?」
ごめん、わけわかんない。
「ふたば、どの話をしてるのか分からん……」
箕辺くんに指摘されて、葛城くんはぺろりと舌を出す。
こいつ、完全に狙ってやがる。
「要するに、皇帝の皇は画数が多いから、人は人のままでいいんじゃないかなぁ」
箕辺くんは小考して、生徒手帳に両方を書いた。
人皇戦
仁皇戦
うわぁ……どっちもありそう。両方とも、いい線な気がする。
「パッと見でベターなのは、後者かな」
捨神くんは、複雑なほうを選んだ。
「うーん、これで意味が分かる人、いないと思うんだよねぇ」
「前者だって分からないっスよ?」
「でもさぁ、こうやってぇ……」
人皇vs電王
仁皇vs電王
「並べてみたら、前者のほうは、なんとなく分からないかなぁ?」
あ、そう言われてみると、前者は人類vsソフトって分かりやすい。
捨神くんも、この反論には一理あると思ったようだ。
あごに手をあてて、じっと考え込む。
「……人類vsコンピューターのコンセプトなら、前者がよさそうだね」
「単独の字面なら、後者なんだけどな」
箕辺くんの再反論に、葛城くんは納得しなかった。
「単独で使うなら、どっちも分かんないと思うよぉ」
「渡辺人皇……渡辺仁皇……たしかに、阿久津朝日と同じくらい、どっちも意味不明だな」
「それに、仁って皇室の通字だよぉ」
「ツウジってなんっスか?」
「先祖代々使う、共通の漢字のことだよぉ」
徳川家康の《家》みたいなものかしら。
「皇室の通字と天皇の皇じゃ、ちょっとマズいか」
これが決定打になったみたい。箕辺くんは黙った。
「……これ、ドワンゴに応募する?」
捨神くんは、片方の眉毛を持ち上げて、みんなを見回した。
「そうだな、ダメもとで応募しとくか」
「会長が代表でやるっス」
「たっちゃんよろしくねぇ」
せっかく考えたんだから、レッツ・トライ!
人皇
https://kotobank.jp/word/%E4%BA%BA%E7%9A%87-537317
以上、ドワンゴ主催の新棋戦に関するエッセイでした。
実際に応募してみたのですが、自信はないです。
いずれにせよ、開催を楽しみにしています。