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◆余談◆

落ちる


落ちる


白雪姫


深い眠りにつきまして

向かうは願いのあるところ


◇◆◇


憂鬱な1日が始まった。憂鬱なんて言っても、何か悪い事があるわけではない、ごく普通にいつも通りにしていればいい。それが今日私に与えられた使命だから。


昨日の夜街中の糸車を燃やし終えた。全てシナリオ通り。この世界の理の通りに事が進んでいる。白雪の件があり、運命の日である今日何かまた不吉な事が起こるのでは無いかとみんな内心はドキドキしていることだろう。もし、塔に魔女が居なかったら、糸車が無かったら・・・。

私は眠らなくてすむが、この世界を歪めてしまうかもしれない事になりかねないのである。それでも、もし眠りにつかなくてよくなるのならそれも悪くないのかもしれないな、などと考えている自分が居るのも事実だ。


確かに白雪を助けるとは言った。私は今日、日没に合わせて城の敷地内にある高い塔に登り糸車に指を刺して呪いにかかり深い眠りにつかなくてはならない。結果が見えているのにも関わらず、指を刺すことはしなくてはいけない事柄だ。できることならその様な事はやりたくなどない。私だって14歳。まだまだ若くてこれこらである。目を覚ますのは15年後、となると起きた時には29歳である。若い時代に楽しみたいと言うのに、深い眠りにつきただただ時を待つだけ。人生を棒に振るのと変わらないと思う。わざわざ自分からわかって指を指しにいくなんてのもバカな話であるし、そんな塔そもそも近づかずに1日を過ごせば関係ない。私も昔はそう思っていた。


だが、そうもいかないらしい。これは母である先代茨姫の話。母には夢があり、それをする為に茨姫としての職務を放棄しその日は塔にはいかず何処かへ逃げて様子を見る予定だった。しかし、不思議な事に日が落ちる頃には体が勝手に動きだして自然と塔へ足が向かってしまう、そして触りたくもない糸車に手が伸びてしまい指を刺してしまうという。結局のところ抗う事は出来ないのだ、私は。大人しく、運命の通りに進むのが妥当なのである。無理に抗っても無駄な事、きっと私が嫌がる事をわかって事前に聞かされていたのだ、小さい頃からずっと・・・。


今更抗おうなんて気はない、白雪の様に後々面倒になっても嫌である。だからといって自分の運命を運命として受け入れられるわけでもない。


嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ


運命なんて糞食らえ、本当は眠りになんてつきたくない。理由をつけて逃げたい。逃げられ無いことはわかっている。それでも、無理だとわかっていても、逃げたい、運命から、こんな人生から逃げたい。いっそここで今すぐ命を経ってやろうか。無理だ、私にそんな勇気はない。それにどうせ死なせてはもらえないのだ。運命に反するから、理に反するから、今の私は不死身である。


なんだかんだ言っても私は生きていたいのだ。どんな文句を言っても本当は生きたいから、逃げるわけでもなくここでこうしていつも通りの日常を送っている。朝ごはんを食べ、読書をし、散歩をする。いつも通り、いつも通りの日常。白雪の事を自分の言い訳にして、寝ないといけないんだと思い込ませる。白雪の事が無ければ逃げていたかはわからないが、私は最低だ。白雪を自分の言い訳に使っているのだから。どうしようもない。本当に最低で性格の悪い私。だから私は自分が大嫌いだ。


◇◆◇


ランチを済ませ特にすることも無いので本でも借りようと部屋を出たところで従者に引き止められた。


「スオン様、お客様が見えております。客室にお通ししましたので早めにいらして下さい。」


「客?こんな日に、誰かしら。」


どの国でもそうだが、運命の日に訪ねて来るものなど普通は居ない、ましてやその当の本人を訪ねて来るなど常識が無いにも程がある。そんな常識外れの行動をとるような知り合いがいた覚えもないと思ったものの、従者の出した名前で納得がいった。


「道化師様でございます」


◇◆◇


「一体、何の用かしら?」


「運命の日の当日にこの様な訪問誠に申し訳なく思います。しかし急ぎでお伝えしておかないといけないことがあった為伺わせてもらいました。」


恐らくは白雪の事であろう。白雪の事で私が行くことになったのも昨日の今日である。道化師の中では決まっていたことかもしれないが、表面として私か了承したのが昨日なのだから今日来ても仕方が無いといえば無いのである。深い眠りに落ちる前にコイツの顔を見ることになるのは若干不満ではあるが、多分重要な話であろう。今日のは昨日とは別の道化師の様だが・・・。


「お時間無いところ、本当に申し訳ない。急ぎて伝えたい事と言うのは不思議の国に関わる事です。」


あぁ、白雪の話では無いのか。


「それで?」


「不思議の国に行くにあたっての注意事項を伝えていなかったと思いますして。」


道化師はそういうと、一息溜めてからから言った。


「絶対に、自分の本当の名を教えないで下さい。」


・・・名前?


「名前は貴方自身です。貴方の分身です。名前を相手に伝えてしまうと、もうこの世界には戻ってこれないでしょう。いや、名前はバレても戻ってこれな事もありません。正確にいいましょう、名前を教えてしまったら生きて戻ってこれないでしょう。」


「生きて戻ってこれないって・・・どういうこと?」


「こちらの世界からあちら、不思議の国へは肉体は行けず意識だけ飛ばす事になります。その為名前が意識の中での肉体の部分になり、名前により、こちらとあちらの世界の架け橋となるのです。もし名前がバレてしまい、あちらの世界で殺された場合はあちらの世界で死体として処理され、こちらの世界では永遠の眠りから覚めることがないということになります。なのであちらの世界では絶対に自分の本当の名を明かさないで下さい。」


「ちょっと、どういうこと!?殺されるかもしれないなんて、私聞いて無いんだけど!」


思わず席を立ち前のめりになりながら強く机を叩きつける。カップに入った紅茶がこぼれるのも気にせず、私は道化師の前に立ちはだかった。


「あまりにも、説明が足りないんじゃないかしら?」


「・・・私は昨日どの程度まで説明しているのか存じ上げません。そして、不思議の国についても私は深くしってはおりません。先ほど申した通り、あちらの世界で名前は己の存在そのものであるということ、それと・・・そうですね。何事にも注意深く、疑う心を持つ事、というところでしょうか。後は貴方が昨日聞いた程度の事しか私は知りませんので」


「・・・何よ、それ。」


つまり、私は捨て駒ってところなのかしら、白雪が助かれば私は死んでも問題ない・・・結局そういう存在でしか無い。そういうことだろうか。道化師もなんだかよくわからないし、これ以上問いただしても何か吐きそうな気もしない。


「まぁ、いいわ。死んだりなんてしないもの、絶対に。・・・絶対に生きて帰ってきてみせるんだから」


道化師は微笑みと言うには嫌らしい笑みを浮かべた後楽しそうに言った。


「そのいきですよ、姫。昨日時計はもらいましたね?」


「時計?・・・あぁ、あのイカれた変な奴ね。あるわよ。」


「その時計は、とても重要な物です。まず、こちらの世界からあちらの世界への道標となりす。あちらの世界に着いてからも何らかの役に立つはずですので、必ず肌身離さず持っていて下さい。いいですね?それが無いとこちらの世界には戻ってこれないと思ってくれて構いませんので」


このイカれた時計にそんなすごい力があるとは到底思えないが、そこまで言われるならしっかり持っておこう。金色に輝く懐中時計。頭の部分を、押すと開く仕組みになっている見た目はごく普通の懐中時計。ただ、中身はコンパスと時計と全円分度器を合わせた様な変な模様が描かれており、針も黒い先がスペードの様なのが2本と、まさにコンパスな赤と青のダイア型の針が一本。こんな物が役に立つなんて。


ポケットから出した時計を開きまじまじと見つめてしまった。それを見て察したのか「見かけによらずすごい魔力を持った時計ななですよ」と、道化師が口を挟んだ。


「わかったわ、言うとおりにする。」


その言葉を聞いて安心したのか、「それでは私はこれで失礼」と席を立った。


召使いの1人が扉を開き道化師が部屋を出る、その後ろ姿を見送るといきなり立ち止まり振り返ってこう、付け加えた。


「一つ言い忘れた事があります。あちらの世界には私達道化師の仲間が存在します。今どの様な姿で居るのか、私にもわかりませんが頼って見るのも悪くは無いと思いますよ?」


それだけ言うと、今度は本当に立ち去っていった。


外を見ると空は夕暮れ、日が暮れ始めていた・・・。


運命の時間まで、あと1時間。


◇◆◇


あなたは誰?


私は誰?


なぜここに?


………わからないの


どうして私はここに居るの?


ここまで読んでくれた方ありがとうございます!


いよいよ次の話からスオンが白雪を助けにいきます

今回はスオンの心の中と不思議の国での1つのヒントを書かせてもらいました

どうしでしたか?


私もこれが最終的にどうまとまっていくか、わかっていないのですが……少しずつ謎を解き明かしていく予定です


6話か7話位までは書き溜めた物がある為、更新は早いですがそれ以降のんびり更新となりますが、よろしくお願いします



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