第8話
封筒を受け取ってみると、すでに開封された形跡がある。
「ああ!僕あてのものを勝手に開けないで下さいよ!」
「重要と書いてあったから早く確認した方が良かっただろうし
勉強の邪魔をしては悪いと思ったから、代わりに確認してやっただけじゃないか」
悪びれもせずルヌーが言った。
「そんなの、勝手に開封していい理由になりませんよ!」
そう言っても、経験上無駄だとわかっている。
この人は本気でそう思ってやっているのだ。
「もう……今度からは絶対にしないで下さいね」
「文句はいいから中を見てみろ」
やはり、フユキの抗議なんて聞いていない様子だった。
ルヌーと議論をしようとすると、のらりくらりとかわされてしまうので話し合いが進まない。
天然なのか意図的なのか、イマイチ掴みきれないが、ルヌーのペースに乗せられないように気をつけないと振り回されてしまう。
封筒の中に入っている、薄い紙を取り出した。
航空宇宙局のコーポレートカラーであるダークブルーの紙を開くと、『航空宇宙局附属学校 上級クラスへの進級許可について』という文字が目に入った。
フユキは中級クラス(高等部)で優秀な成績を収めたため、進級試験免除で上級クラス(大学部)への進級が決定したという通知だった。
しかも、フユキの希望するパイロット養成コースへの進級が認められた。
2週間以内に進級の手続きを完了させないとこの特典は失効される。進級試験を受けるか退学するかの選択をしなくてはならない、という内容だった。
「やった!」
通知書を握りしめて声をあげた。
試験免除という事よりも、パイロット養成コースに進めることが確定したことの喜びが大きかった。
「すっごーい。フユキって頭いいのね」
ジュンが尊敬の眼差しでフユキを見つめた。
「パイロットになるために僕は月都市に来たんだからね。養成コースに入るのが第一の目標達成ってとこかな」
この通知を受け取るまでは不安だったが
中級クラスでは常に成績上位をキープしていたので推薦でも進級は狙えると思っていた。
こうして手にすると今までの努力が報われたと実感できて嬉しい。
嬉しいのは変わりないのだが……問題がひとつあった。
「明日にでもその手続きを完了させたら、1ヶ月半は暇だよな」
と、ルヌーがにこにこ笑いながら話しかけけてきた。
そう。
これがフユキの大きな問題だった。
進級試験が免除され、しばらくゆったりして時間を過ごせる余裕なんてきっとない。
「何をそんなに暗い顔をしている」
ルヌーは、フユキの頭を小突いた。
「さっさと手続き終わらせてくるんだぞ。リストを渡しておくから、外出ついでに買い物を頼む」
ほら、始まった。
フユキは心の中でつぶやいた。
出会った当初は『あの有名な音楽家であるルヌー・グレーシャムとお近づきになれるなんて、大ラッキー!』と舞い上がっていたが
フユキがピアノのコンクールで受賞した経験があると知られて以来、何かとこき使われる羽目になっているのだ。