第11話
一体何の用なんだろう?
心当たりがあるフユキはうっすらと冷や汗が出てきた。
ルヌーとジュンを匿っていることがバレたとしか思えない。
不安げな表情を浮かべているフユキを気にかけているエディだったが、赤毛の男に退室を促されてその場から立ち去って行った。
(どうしよう。きっとそうだ)
どきどきしながらその場に立ちつくしているフユキだったが、そんな様子を気に留める様子はなく、1枚のキーカードをフユキに渡した。
「このキーカードとIDカードと生体認証キーが組み合わさっているドアがあるので、そこで使用するように。
キーカードは1度使用したら無効になるよう設定してあるので、返却の必要はない」
そう言って、キーカードの上にハガキ大の建物内の見取り図のようなものを載せた。
「この事務所を出て、左に行くとそのドアがある。
これはその先の内部の地図だ。お前さんが行くべき場所には印をつけておいた」
地図を手にとってみると、そこには航空宇宙局内部で機密レベルの高いエリアが示されている。
フユキの行くべき先は、航空宇宙局管理責任者がいる事務室のようだ。
それを確認して、完全にバレていると確信した。
頭の中はパニック状態になっていたが、言われた通りの場所へゆっくりと向かっていた。
(どうしよう。なんて説明するのがベストかな?)
色々と考えが浮かんでは消えて行った。
考えがまとまらないままエレベーターに乗って地下10階に降りると、警備スタッフと思われる人物が複数名ずらっと並んで出迎えられたのにはぎょっとした。
地下に行けば行くほどに機密度があがっていくため、その出入り口の警備は厳重にされているのは当たり前のことではあるが、想像以上の光景にフユキは圧倒されていた。
自分がここにいるのは場違いだ。
そう思いつつ、どきどきしながらエレベータを降り、自分のIDカードを警備員の1人に差し出した。
ここにやってきたのは手違いであると言われ、追い返されることを期待していた。
フユキのカードを受け取って、端末でデータ確認をすると
「どうぞ」
と、先に進む道を開けてくれた。
(帰りたい!! 今すぐ家に帰りたいっ!)
心の底で叫びつつ、警備員たちの間を抜けると、高い天井の通路へと足を進めた。
この先は、天井も床も白く、迷路のように通路が入り組んでいるようで少し歩いただけでも方向感覚が曖昧になる。
ここで迷ったらとんでもないことになりそうだと思い、受け取った地図を見ながら、慎重に先に進んでいった。
しばらく行くと、最高レベルのセキュリティで守られているエリアへ続く入り口への扉が見えてきた。
出入りを管理していると思われる人が2名。
そのうちの1人がフユキに歩み寄って、IDカードの提示を求めた。
「こちらのドアの解錠はご自身で行ってください」
そう促されて、キーカードの読み取りと指紋認証を行う端末操作を行った。
ここで実はドアが開かないオチがあるかもしれない、などと思っていたが、あっさりとドアが開かれた。
その先はまるで別世界だった。
月都市では珍しい緑の空間が広がっていた。
庭園と思われる区画や、噴水や小川がり、緑がある。
とても深い地下にある場所とは思えない。
ぼんやりと突っ立っているフユキに
「どうぞ」
と警備員に促されて我に返り、慌ててその先に足を踏み入れた。
フユキが中に入るとドアがすぐに閉ざされて、ロックされてしまったようだった。
「なんなんだ……ここ」
月都市の地下とは思えない光景に驚きながら先に進むと、ガラス張りの壁に囲まれた建物が見える。
その入口と思われる扉に前に、1人の男性が立っていた。