他愛ない話
まったく
これはどういうめぐり合わせなんだろう。
席替えはくじ引き。
女子のほうが4人多い。
だから、女子同士が並んで座るペアが、
2組出来る。
あたしは2年3組の生徒だ。
原田みよも2−3の生徒。
そして今、隣にいるのがその原田みよだ。
「後は自由時間だ。うるさくするなよ」
担任の広尾が言った。
そんなこと言ったって、
席替えの直後。
教室はざわめいている。
広尾は時々注意して、あとは何かの書類のチェックをしていた。
あたしは。
黙っていた。
「よろしくね、香田さん」
原田みよは、そんなあたしに話しかけて来た。
でもあたしは無視した。
こいつの声なんか聞きたくない。
そばにだっていたくないのに。
運命の女神様まで
あたしを嫌ってるのかな。
だからといって男神だって
味方についてるとは思えないけど。
聞こえなかったと思ったのか、原田みよは
「香田さん、よろしくね」
と、ほぼさっきの言葉を繰り返した。
あたしは目線をそっちに向けた。
原田みよは、にこっと笑った。
近くで見ても、おとなしそうで、
ぱっとしない女。
でも、暗いという感じでもない。
と
ふと思った。
にしても。
「変わってるね、あんた。
あたしと話しててもいい事ないよ」
むしろ悪いことばっかりだ。
あたしに向けられる嫉妬の、とばっちりとか。
「私、香田さんとはいつか話したいと思ってたの」
「は?」
一体、なにを言い出すかと思えば、そんなこと。
なんでまた。
わけわかんないな。
「香田さんてさ、綺麗だし、頭いいし、憧れてたの」
なにそれ。
社交辞令のつもり?
女のほめ言葉なんか、しらじらしくて、虫唾がはしる。
どうでもいいけど。
あたしは、一刻もはやく
あんたから遠ざかりたいよ。
でも。
こうして女の子と話すのは、久しぶりだったからか。
妙に新鮮だった。
変に、気持ちが分裂している。
それから原田みよは、あたしにいくつか質問した。
あたしはそのどれにも答えなかった。
程なく、沈黙が落ちた。
その沈黙が、原田みよには居心地悪そうに見えた。
だからといって、あたしから話し出す気にもなれない。
でも、黙ってぼんやりしてるのも、
突っ伏して外界を拒絶するのも
できない。
ふてくされたような態度で。
ツンとして見せてるけど。
沈黙が苦手なのは
あたしもおんなじだ。
仕方なく、あたしは
塾でもらった歴史の冊子を開いた。
かばんの中に入りっぱなしだったんだ。
「それ、歴史?」
原田みよは言った。
「……」
「ね、小野妹子って、へんな名前だと思わない?」
「……」
「女のひとの名前みたいだよね?」
「……」
「遣唐使だっけ?」
「…遣隋使だよ」
あ。
原田みよは、にこっとした。
あたしは、なんとなく負けた気がした。
「ねぇ、香田さん」
「…なに」
もう、いまさら無視するのも、
負け惜しみみたいだから、仕方なく答えた。
「大阪冬の陣、夏の陣って
順番が逆な気がしない?
春夏秋冬なのにさ」
「べつに。冬が来たら春が来て、
つぎの夏が来るんだから自然でしょ」
「そっかぁ」
原田みよは思案顔で首をかしげた。
不覚にも、ちょっと可愛いと思った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます☆