第18話 - 疑惑
お久しぶりです。台詞より文字の方が多めかな?
スペティさんと駄弁りつつもそれぞれに部屋を案内してもらった。
中は思っていたよりもはるかに広いようで、俺達それぞれに1部屋ずつ与えてもあり余るほどの量だ。
最初はアルスの案内で進んでいたが、アルス自身も分からない部屋が増えているらしく、結局途中でスペティさんに案内役が変わった。
『師匠・・・我が居たころよりも遥かに部屋の数が増えておりませぬか・・・?』
〈無論じゃのぅ。お主のいたころなんぞ、儂がこの空間を作り始めたころじゃから、小さくても当たり前じゃろうて〉
またもや師匠と呼んでいるアルスに、もう何も言う気がないのか、スペティさんはため息交じりに答える。
『さほど期間を開けたわけでもないはずなのですが・・・』
〈そうじゃのう・・・さほど期間は空いておらんから、まだまだ大きくする予定じゃぞ〉
一同絶句。
ただでさえ迷子になりそうなほど広いのに、スペティさんは迷宮でも作る気なのだろうか・・・。
『確か・・・このあたりに寝室が並んで・・・』
一度は住んでいたこともあるアルスでさえ、道が分からないほど入り組んでいるようで、寝室の場所が分からず困っているらしい。
〈無論、この辺りがおぬしらの部屋じゃ〉
『え・・・かなり変わってませんか師匠・・・』
大浴場や修行場、研究室にお手洗いなど一通り案内してもらい、みんなの足が棒になってきた辺りで、僕らは部屋へと案内された。
ドアを開けると、そこには高級感あふれる家具や装飾が施された、まるで豪邸の一室のような部屋が広がっていた。
天井からはシャンデリア、床や左右の壁は大理石、壁の一部には水晶やダイアモンドが埋め込まれていて、眩いばかりに光を反射している。
「ご、豪華すぎないか…」
俺は驚きのあまり、空いた口がふさがらなかった。
アルスたちも驚いていたらしく、後でスペティさんに聞いてみると、これでもそこまで大きくない部屋らしい。
僕らは廊下で別れた後、各々自分たちが与えられた部屋に入って行った。和真は俺の右隣の部屋、アルスは俺の向かいの部屋で、その隣がアラッド、ラウは俺の左隣の部屋で浴室付。ガルダは少し離れた防音仕様の部屋に案内されたらしい。
「あー疲れた・・・」
部屋に入ってすぐ俺はベッドに横になる。
ドッと身体に押し寄せる疲労感。
思い返してみれば、俺が人を捨てて竜になって、この世界に来てからあれやあれやと物事が展開していった。
自分の勝手で、親友まで巻き込んでしまったことに後悔はしている。
正直、和真が人を捨ててまで俺を取るとは思っていなかった。だから、俺は和真の事をアルスにも話さなかった。
和真が、人を捨ててまでついてくることを知っていたなら、アルスと相談していただろう。
でも、今更過去に戻れる訳もない。どんなに思い悩んでも、過去は取り戻せない。
でも、もし過去に戻れるなら・・・。
でも、今の生活が、嫌いなわけではない。確かに野宿だのなんだのと続けてきたが、竜になって楽しくない訳ではない。
色々あっても、親友と一緒に居られることはとてもうれしい。
だけど・・・。
複雑に感情が絡み合い、頭の中がごちゃごちゃしてくる。
嬉しさと苦しさとで、目頭が熱くなる。
そんなことを考えていると、ドアのノック音が聞こえた。
「龍人ー。いるかー?」
声の主は和真だった。
「あぁ、うん。ちょっと待って。鍵、開けるから」
俺は頭を左右に振って考えを振り払い、疲労で重くなった身体を無理矢理起こしてドアへ行き、鍵を開ける。
鍵は魔力を流し込んで開けるタイプで、外から開けるには、各々のドアに登録された魔力を流し込む。
魔力の濃度や型が、各々違うらしく、人で言う指紋や声紋のようなものがあるらしい。
内側からは魔力を流し込まなくても、ドアに軽く触れれば開くようになっている。
「あぁ、悪いな。寝るところだったか?ちょっと話がしたくて来たんだが・・・」
和真が俺を遠慮がちに見る。きっと俺の今の表情はいかにも複雑そうな顔をしているんだろう。和真いわく、俺は感情がすぐ顔に出るタイプらしい。
「うぅん。ちょっと考え事してただけだから大丈夫。立ち話もアレだし、入って」
俺は和真にあまり心配をかけないように、尚且つ、嘘にもならないように返事した後部屋に招き入れ、自分はベッドに、和真は椅子に座る。
俺の嘘はいつも見破られるので、つくだけ無駄なのだ。どうやら嘘も顔に出るタイプらしい。
「それで、どうしたの?」
俺は無言の状況が続く前に口を開き、問いかける。
どうも沈黙の時間は苦手だ。
「実は、な・・・」
和真が重々しく口を開いた。そしてこう続ける。
「数日前からアラッドの様子がおかしいなと思って・・・な、悪いとは思ったんだが、ちょっと後をつけてみたんだ」
「アラッドが・・・」
アラッドの様子がおかしい。そう、俺は一度アラッドがどこかに行こうとするところを見たことがある。
「しばらくつけて行ったら、アラッドの奴・・・見たこともない竜たちの方へ飛んでいったんだ・・・」
「なっ・・・!」
トイレ。そう聞かされていた俺は特に疑いもしなかった。しかし、実際はトイレではなく、敵かもしれない竜たちと会っていたことになる。
「それ以上は、アラッドに気付かれそうになったから分からないんだが・・・」
普通に考えたら、アラッドが俺達を敵に売ろうとしている。そう考えるだろう。
でも、もしかしたら俺たちの中に裏切り者が居て、そいつをアラッドがつけていた可能性もある。
ただ、一つ分かったことがある。そう、
俺達の中に、裏切り者が居る―――。
急 展 開
裏切り者は一体誰だ!?