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異世界美少女おじさんは、スローライフを満喫したい  作者: かげるい


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第6話 料理人エリナ誕生

 十匹以上の魚を持って村に戻ると、村人たちが驚いた顔で迎えてくれた。


「エリナちゃん、すごい釣果ね!」

「こんなにたくさん!」

「今夜は魚料理パーティーね!」


 村の女性たちが、興奮気味に集まってくる。


「はい。みなさんで食べましょう」


 にこやかに答える。

 魚を村の共同台所に運び、料理の準備を始めた。


 村の女性たち数人が、手伝いを申し出てくれた。


「エリナちゃん、私たちも手伝うわ」

「ありがとうございます」


 マリアとアンナ、それから他の女性たち三人。

 みんなで、魚を捌いていく。


「エリナちゃん、本当に包丁さばきが上手ね」


 アンナが、感心したように見ている。


「前世で……じゃなくて、なんとなく身体が覚えてるんです」


 危ない。

 つい、前世って言いそうになった。


 魚を三枚におろし、骨を抜き、切り身にしていく。

 この作業は、何度やっても楽しい。

 料理は、前世からの数少ない趣味だったから。


「今日は、色々な料理を作りましょう」


 俺の提案で、魚を使った様々な料理を作ることになった。


 焼き魚。煮魚。魚のスープ。そして――


「フライ、作れませんかね?」

「フライ?」


 マリアが、首を傾げる。


「魚に衣をつけて、油で揚げる料理です」

「ああ、揚げ物ね。でも、あまりやらないわ。油がもったいないから」


 なるほど。

 この世界では、油は貴重品なのか。


「じゃあ、今回は特別に。私が油代、出しますから」

「え、いいの?」

「はい。みなさんに、美味しいもの食べてもらいたいので」


 稼いだ銀貨の一部を使って、油を購入する。

 どうせ、お金は使わないと意味がない。


「エリナちゃん、優しいのね」


 アンナが、嬉しそうに言う。


 油を熱して、衣をつけた魚を揚げていく。

 ジュワジュワと、良い音がする。

 香ばしい匂いが、台所中に広がる。


「いい匂い……」


 女性たちが、鼻をヒクヒクさせている。


 揚げたての魚を、皿に盛る。

 きつね色に揚がった、美味しそうな見た目。


「できました」


 試しに一つ、みんなで味見する。


 サクッとした食感。中はふっくらとした魚の身。

 塩だけのシンプルな味付けだが、魚の旨味が引き立っている。


「美味しい!」

「こんな料理、初めて食べた!」

「エリナちゃん、天才!」


 女性たちが、大絶賛してくれる。


 ――良かった。


 前世の料理スキルが、この世界でも通用する。

 それが、嬉しい。



 ◇ ◇ ◇



 夕方、村の広場に長テーブルを並べて、料理を並べた。


 焼き魚、煮魚、魚のフライ、魚のスープ。

 それに、村人たちが持ち寄ったパンやサラダ、チーズなど。


 即席の宴会が始まった。


「みなさん、今夜はエリナちゃんが釣った魚で、宴会です!」


 村長が、大きな声で宣言する。


「エリナちゃんに、感謝!」

「かんぱーい!」


 村人たちが、一斉に杯を上げる。

 俺も、水の入ったコップを掲げる。


 ――なんか、照れくさいな。


 でも、悪い気はしない。

 こうやって、村人たちに喜んでもらえるのは、嬉しい。


 宴会が始まると、村人たちは料理に群がった。


「この揚げた魚、最高!」

「煮魚も美味しい!」

「エリナちゃんの料理、プロ級だよ!」


 口々に、褒めてくれる。


 子供たちも、美味しそうに魚を頬張っている。

 トミーも、満面の笑みで食べている。


「エリナお姉ちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして」


 頭を撫でてあげる。


 そのとき、村の若い男たちが近づいてきた。


「エリナさん、本当に料理上手なんですね」

「いつか、俺たちにも作ってくれませんか?」

「結婚したら、毎日こんな美味しい料理が食べられるのかな」


 ――結婚の話、また出た。


 苦笑しながら、適当に受け流す。


「まだそういうの、考えてないんです」

「え、でももったいないですよ! エリナさんみたいな美人で料理上手な人、他にいませんよ!」


 ――いや、中身おじさんなんだけど。


 そう言いたい気持ちを押し殺して、笑顔を保つ。


「ありがとうございます。でも、今は冒険者の仕事に集中したいので」

「そうですか……残念」


 男たちは、少し寂しそうな顔をして去っていった。


 ――面倒くさいな。


 美少女の外見は便利だけど、こういうデメリットもある。

 男たちから、恋愛対象として見られる。


 でも、俺は恋愛する気なんてない。

 中身がおじさんなんだから。


「エリナ、人気者ね」


 マリアが、ニヤニヤしながら言う。


「そんな……」

「でも、焦らなくていいのよ。あなたはまだ若いんだから」


 若い、か。

 見た目は十六歳。

 でも中身は三十八歳。


 ――複雑だ。



 ◇ ◇ ◇



 宴会が終わり、夜も更けた頃。


 片付けを手伝ってから、マリアの家に戻る。

 疲れた。

 料理を作って、みんなと話して、気を使って。


 でも、楽しかった。


 自分の部屋に入り、ベッドに倒れ込む。

 身体は疲れているが、心は満たされている。


 ――これが、人に喜んでもらえる幸せか。


 前世では、こんな経験はほとんどなかった。

 仕事で誰かに感謝されることはあっても、それは形式的なもの。

 心からの感謝ではなかった。


 でも、今日は違った。

 村人たちの笑顔。子供たちの喜ぶ顔。

 それが、本当に嬉しかった。


 ふと、窓の外を見る。

 月が、綺麗に出ている。


 ――そろそろ、風呂に入りたいな。


 この世界に来てから、ちゃんとした風呂には入っていない。

 井戸の水で身体を拭くか、川で水浴びするくらい。


 前世では、毎日風呂に入っていた。

 それが、当たり前だった。


 でも、この世界では贅沢なんだろうな。


 ――そうだ。


 水魔法を使えば、温かいお湯を作れるかもしれない。


 本を開いて、温度調整の項目を探す。

 ありました。


 「水魔法の応用:温度操作」


 水の温度を上げたり下げたりする魔法。

 マナを使って、水の分子を振動させることで熱を発生させるらしい。


 ――これだ。


 早速、試してみることにした。


 部屋の隅にある桶に、水を汲んでくる。

 そして、手を水に浸けて、意識を集中する。


 マナを感じる。

 そして、水に熱を込める。


 最初は何も起こらなかった。

 でも、じっと集中していると――


 ――温かくなってきた。


 手のひらに、温かい感覚。

 水の温度が、じわじわと上がっていく。


「おお……」


 成功だ。

 水が、ぬるま湯になった。


 もっと集中する。

 もっと熱を込める。


 そして――お湯になった。

 熱すぎず、ぬるすぎず、ちょうど良い温度。


「やった!」


 これで、温かいお湯で身体が洗える。


 早速、服を脱ぐ。

 上着、スカート、下着。

 全部脱いで、タオルを手に取る。


 お湯で濡らしたタオルで、身体を拭いていく。


 首筋。肩。背中。


 温かいタオルが、疲れた身体を癒してくれる。


 ――ああ、気持ちいい。


 胸を拭く。

 柔らかな感触。

 タオルが、敏感な部分を刺激する。


「んっ……」


 思わず、声が漏れる。

 やっぱり、この身体は感度が高い。


 慌てて、手を止める。

 顔が熱い。


 ――落ち着け。


 深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。


 そして、お腹、太もも、足と、丁寧に拭いていく。


 最後に、髪を洗う。

 お湯で濡らして、指で優しくマッサージする。

 長い金髪が、指の間をすり抜ける。


 全身を洗い終えて、清潔な服に着替える。


 ――すっきりした。


 やっぱり、ちゃんと身体を洗うと気持ちいい。


 これからは、毎日この方法で身体を洗おう。

 水魔法、本当に便利だ。


 ベッドに横になる。

 清潔な身体で、清潔なシーツ。

 最高に気持ちいい。


 ――幸せだな。


 心の底から、そう思う。


 前世では、こんな些細なことで幸せを感じることはなかった。

 でも今は、こういう小さな幸せが、とても大きく感じる。


 目を閉じる。

 今日も、良い一日だった。


 明日も、きっと良い日になる。



 ◇ ◇ ◇



 翌朝。

 村の広場に行くと、昨夜の宴会の話題で持ちきりだった。


「エリナちゃんの料理、本当に美味しかったわ」

「また作ってほしいわね」

「次は、いつ作ってくれるの?」


 村人たちが、口々に言う。


「え、えっと……」


 少し困る。

 毎日料理を作るのは、さすがに大変だ。


「あ、そうだ!」


 アンナが、手を叩いた。


「来月の収穫祭で、エリナちゃんに出店してもらいましょう!」

「収穫祭?」

「ええ。年に一度の大きなお祭りよ。村中の人が集まって、食べ物や飲み物を楽しむの」


 マリアが説明してくれる。


「そこで、エリナちゃんの料理を出したら、絶対に人気になるわ!」

「そうそう! 魚のフライとか、みんな初めてだから驚くわよ!」


 村人たちが、興奮気味に話している。


「えっと、じゃあ、やってみます」


 断る理由もないし、むしろ面白そうだ。


「やった! じゃあ、準備しないとね!」

「私たちも手伝うわ!」


 女性たちが、盛り上がっている。


 ――収穫祭、か。


 楽しみだな。


 村人たちと一緒に、料理を作って、みんなに喜んでもらう。

 それも、スローライフの一部だ。



 ◇ ◇ ◇



 その日の午後、森で薬草採取をしていると、また人と出会った。


 今度は、見知らぬ冒険者らしき男性。

 二十代半ばくらい。剣を腰に下げて、革の鎧を着ている。


「おや、こんなところに可愛い子が」


 男性が、ニヤリと笑う。


 ――嫌な予感。


 この笑い方、明らかに下心がある。


「あの、何か御用ですか?」


 警戒しながら、距離を取る。


「いやいや、怖がらないでよ。俺はただの冒険者さ」


 男性が、近づいてくる。


「この辺り、魔物が出るから危ないよ。一人で森に入るなんて」

「大丈夫です。私も冒険者ですから」

「へえ、冒険者? そんな可愛い顔して?」


 男性の目が、俺の身体を舐めるように見ている。


 ――完全にアウトな視線だ。


 前世で、痴漢を見る目と同じだ。


「あのね、お兄さん。俺、そういうの興味ないから」


 つい、口調が男口調になる。


「え? 俺?」


 男性が、困惑した顔をする。


「あ、いや、私……」


 慌てて、訂正する。

 まずい。

 おじさん口調が出てしまった。


「……変わった子だな」


 男性が、首を傾げる。


「とにかく、一人じゃ危ないから、俺が護衛してやるよ」

「いえ、結構です」


 きっぱりと断る。


「そう言わずに――」


 男性が、手を伸ばしてきた。

 肩を掴もうとしている。


 咄嗟に、手を振って払いのける。


「触らないでください!」


 大きな声で言う。


 男性が、少し驚いた顔をする。


「おいおい、そんなに警戒しなくても――」

「あなた、ギルドの人ですか?」

「え、ああ、まあ」

「なら、こういう行為は規約違反ですよね。報告しますよ」


 冷たい目で、睨む。


 男性が、バツが悪そうな顔をした。


「……ちっ、面倒くさい女だな」


 舌打ちをして、男性は去っていった。


 ――ふう。


 緊張が解ける。


 やっぱり、美少女の外見はデメリットもある。

 こうやって、変な男に絡まれる。


 でも、中身はおじさんだから、対処法は分かる。

 毅然とした態度を取る。

 相手を威圧する。

 そして、逃げ道を塞ぐ。


 ――前世の経験、こういうところで役に立つとはな。


 薬草を集め終えて、森を出る。


 今日は、色々あった。

 でも、無事に終わった。


 村に戻って、マリアに今日のことを報告する。


「え、そんなことが!?」


 マリアが、心配そうな顔をする。


「大丈夫でしたけど」

「次からは、気をつけて。もし危ないと思ったら、大声で助けを呼ぶのよ」

「はい」


 素直に頷く。


「あなたは美人だから、変な男に目をつけられやすいの。本当に気をつけて」

「分かりました」


 ――美人は大変だな。


 前世では、こんな心配をする必要はなかった。

 でも今は、常に警戒しないといけない。


 それも、この身体で生きる代償か。



 ◇ ◇ ◇



 夜。

 ベッドに横になりながら、今日のことを振り返る。


 料理で村人たちに喜んでもらえた。

 収穫祭の出店が決まった。

 水魔法で、お湯を沸かせるようになった。

 そして、変な男に絡まれた。


 良いことも、悪いこともあった。

 でも、全体的には良い一日だった。


 ――この生活、気に入ってるな。


 スローライフ。

 のんびりと、自分のペースで生きる。

 誰にも縛られず、自由に。


 それが、俺の理想だ。


 そして、この世界では、それが実現できている。


 ――ありがとう、神様。


 また、心の中で呟く。


 この世界に来られて、本当に良かった。


 目を閉じる。

 明日も、平和な一日でありますように。


 そう願いながら、眠りについた。

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