母を信じた少女の記憶 後編2
風が気持ち良く、自然の良い匂いを運ぶ、開放感のある素敵な丘の上に愛する人との一軒家を建てました。
これから幸せな日々が始まる。そう思っていました。
とある嵐の日、一瞬目を離した隙に外に出て行ったホップを追って、彼も外に慌てて出て行きました。
何秒も、何分も、何時間も経って、びしょ濡れで泣き喚いたホップと警官が二人家に訪れました。
「夫は……」
警官は二人とも伏目になり、暗い顔をして首を横に振りました。
頭が真っ白になって、世界から切り離された気分でした。警官が何かを言っていて、耳に入っているはずですのに、言葉が理解できませんでした。
数日後、近くの川が流れている下流で男性の遺体が見つかりました。彼と同じ服を着て、同じ顔をして、同じ姿をした、動かないものになっていました。
それは、彼は、骨となり私の元に帰ってきました。
骨壺に入るくらい小さくなった彼を見て、ようやく私は彼を抱きしめて泣きました。一日中泣いて、頭が痛くなるまで泣いて、泣き腫らしたと思えばまた泣いて、眠れない夜を過ごす度に泣きました。
どうして彼がいなくなって、あなたがいるのでしょうか。あなたがいなければ彼はまだ、私の側にいてくれたのに。私は、彼との愛の結晶が欲しかったのであって、彼を失いたかったわけじゃない。
どうしてあなたがいて、彼がいないの。
あなたを抱っこした時も、抱っこしたあなたの笑顔より彼の笑顔に目が行った。彼が嬉しそうにあやしているのが幸せだった。
あなたがハイハイして、彼が喜んでいるのが幸せだった。
あなたが喋って、彼が涙するのが幸せだった。
あなたが歩いて、彼がはしゃぐのが幸せだった。
あなたを起点に彼が幸せを見せるのが、何よりも幸せだった。それなのに、どうして彼を殺したの。
彼を奪ったあなたが憎らしかった。世話をしないと死んでしまうのが憎らしかった。見ていないと面倒を起こすのが憎らしかった。彼が愛したあなたを殺せないのが悔しかった。だから私はあなたから離れた。
私の世界にあなたはいない。
彼のいない家をあげる。お金もあげる。世話する人もあげる。だから、これ以上私から奪わないで。
──私を忘れて一人で生きて。
◇◆◇◆◇
「依頼は、完了しました」
「そう。本当に早いのね。ところで、この記憶の少女は私とどのような関係があるのですか?」
「…………記憶に関しての質問は一切受け付けておりません」
「そういえばそうでしたね」
「では──」
「ああ、もし可能でしたら、下にいる者にいつも通りお金を送るよう言ってください。どこに送るのか、なぜ送るのか、よく分からないのですが、やらねばいけない気がするのです」
「依頼外の事は引き受けかねます」
「そうですか。そうですね。ご苦労様です」
イベリス・ハートはそう言い残し、再び服飾の仕事に戻った。
「機会があれば、今度は依頼者としてのご利用をお待ちしております」
運び屋は深くキャスケットを被り、店を後にし、振り返る事なく箒に乗って国を出て行った。
◇◆◇◆◇
運び屋は重い足取りで雨降る中ホップ・ハートの家へと向かう。
「運び屋さん! お帰りなさい! びしょ濡れですね、タオルどうぞ!」
運び屋は一礼した後、タオルを受け取って濡れた顔や服を拭いていく。
「運び屋さん、約束通りお母さんの記憶もらえるかしら。お金はちゃんと用意しているのよ!」
運び屋は拭く手を一瞬止め、伏目がちにホップ・ハートに視線を向けた。
「…………承知いたしました。依頼金の方もしっかりと受け取らせていただきました」
運び屋は依頼金を鞄にしまい、革手袋を脱いでホップ・ハートと手を合わせた。
運び屋から記憶を受け取ったホップ・ハートの笑顔と目の色は段々と失われていき、逆に徐々に表情に力が入っていく。
「お母さんの、不要な記憶、お母さんの、いらないもの、あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
運び屋は顔色一つ変えず、ホップ・ハートと手を離した。
「依頼は完了しました」
「………………運び屋さん、お母さんはあたしのこと、覚えていますか?」
「……記憶に関しての質問は一切受け付けておりません」
ホップ・ハートは静かにその場にへたり込み、床を見つめている。
「お母さんは……あたしを忘れて……あたしが嫌いで……」
「またのご利用をお待ちしております」
運び屋はそう告げて、雨の中家を後にし、また新たな依頼人の元に歩いていった。
◇◆◇◆◇
運び屋が去った後、ホップ・ハートは
アニメでよく三話切りとかあったので、三作目の話は今までより少しでも面白くしたいなと思って考えた話です。
たまにこんな感じの重めの話も入りますが、それでも少しでも面白いって思ってもらえたら、ブクマとかして見守ってもらえると嬉しいです。




