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記憶の運び屋  作者: 輝 静
母を信じた少女の記憶
7/10

母を信じた少女の記憶 後編1

 国を跨ぐ際の移動手段は三つだ。馬車や操縦車を使う陸路。魔力を込められた木から作られた箒や魔法糸で編まれたカーペットを使う航路。そして、船を使う海路だ。


 航路は自身が魔法が使えるか、魔法が使える者にお願いして運んでもらう。運び屋は前者である為、比較的安価で速さもある箒で移動する。


 箒に跨がず、横で座り、箒を浮かして空を飛んでいく。

 航路、特に箒の欠点は、事故率の高さである。雨を凌ぐことが困難で体力が削られやすく、強い向かい風が吹くと、飛ばされぬよう箒を進める為に自身の魔力を多大に消費する事だ。

 故に、比較的天候が安定している間に一気に飛ばすのが定石である。


 運び屋は航路の門から入国審査を受け、箒を預けて国に入る。配達人のように飛行許可証を持たない運び屋が町中で飛行することは禁じられているのだ。


 コンクリートで整備された道。街頭と街路樹が等間隔で並び、鉄でできたグレーチングを時折踏み、カンっと音を鳴らす。

 入国門近くに立ち並ぶ、観光客をターゲットにした店の活発な呼び込みが町の賑わいの一端を担っている。

 当然、その呼び込みの対象に運び屋もいる。しかし、運び屋は耳を貸さず、ただまっすぐ進行方向のみを見て、人混みを器用に避けながらズンズン進んでいく。


 そうして、一つの店の前で足を止めた。

 白を基調とした建物。周囲の店と比べても大きく、高級感溢れる内装をしている。

 店内には多くのドレスやタキシードが立ち並んでいる。

 運び屋は店に入り、受付に座る女性に一礼する。


「はじめまして。ホップ・ハート様より依頼を受けました運び屋です。イベリス・ハート様はご在籍しておりますでしょうか」


 受付の女性は少々お待ちくださいと、店の奥の階段を登っていった。


 店内にいた者は、運び屋の方を見て、各々口にする。噂に聞く記憶の運び屋だと。本物であるのか、偽物であるのか、運び屋の姿形は伝承でしか伝えられていない故、確証が持てていないようだ。運び屋の一寸動かぬ表情、身体を見て、ある者は人形のようだと口にした。


「上がって問題ないそうです。どうぞ、ついてきてください」


 案内された先にいた、ピンク髪に緑色の目をした女性は、運び屋の方を見ず、布を裁断していた。


 運び屋はキャスケットを脱ぎ、胸元に添えて一礼する。


「はじめまして。ホップ・ハート様より依頼を受けました運び屋です。お母様であるイベリス・ハート様にホップ・ハート様の記憶を届けてほしいとのことで参りました」

「そうですか。どれほどの時間を要しますか?」

「外的時間ではさほど要しません。火にかけた水が温まるよりも早く終わるでしょう」

「そうですか。では、すぐに始めましょう」

「その前に注意事項がございます。今回、ホップ・ハート様より預かった記憶は一月分です。人間の記憶容量の関係上、記憶を与える際、イベリス・ハート様の優先順位の低い、いわば不要な記憶を一月分いただくことになります。また、その記憶の所有権は私に移ります。記憶譲渡後、記憶に関しての質問は一切受け付けません。ご納得がいただけるようでしたら、ご署名の方をお願いします」


 イベリス・ハートはそれから一時間服と向き合った後、ようやく針を置き、ペンを手にした。


「糸端を勝手に回収してくださるようなものですか。それはありがたいですね」


 イベリス・ハートの承諾を得て、運び屋は革手袋を外した。


「では、始めます。手を合わせてください」


 イベリス・ハートの手が触れ、運び屋にイベリス・ハートの記憶が流れ込んできた。

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