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記憶の運び屋  作者: 輝 静
母を信じた少女の記憶
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母を信じた少女の記憶 前編2

 あたしにお父さんはいない。物心がついた頃からずっとお父さんはいなかった。だから、お母さんがお父さんもしてくれている。


 いつもいつも忙しそうにしている。お母さんは仕事で遠くに行くことになった。いつ帰ってくるのか分からない。送った手紙は返ってこない。でも、いつもお金が届いてくる。お母さんからの返事だ。お母さんからあたしへの愛が送られてくる。

 いつの間にかお母さんの筆跡じゃなくなったお金を入れていた封筒も、あたしは大切にまとめて保管する。封筒の数だけ、お母さんはあたしを思ってくれている。


 大丈夫だよお母さん。返事がなくてもちゃんと分かっているからね。


 お母さん、あたしは元気にしているよ。お手伝いさんは相変わらずあまり話してくれないし、いつの間にか来て、いつの間にか帰っているけど、寂しくないよ。

 たくさんのぬいぐるみがあたしの家族だよ。お母さんにみんなを、みんなにお母さんを紹介してあげるね。


 お花を育てているんだよ。お母さんが帰ってきた時にプレゼントするの。いつもお仕事お疲れ様って、お母さんの疲れを少しでも癒す為にお花をたくさん育てているの。お母さんが好きなお花があったら嬉しいな。なかったら教えてほしいな。


 お友達もたくさんいるんだよ。学校帰りに遊んだりするの。とっても楽しいんだよ。お仕事落ち着いたら、お母さんともたくさん遊びたいな。楽しい遊び、お母さんにいっぱい教えたい。


 お買い物にも行きたいな。お母さんに服を選んで欲しい。お母さんの服はあたしが選んであげる。綺麗な服屋さんが出来たんだよ。お店から出る人、皆笑顔に溢れているの。お母さんの笑顔見てみたいな。あたしの笑顔、お母さんに見てほしいな。


 お母さん、あたしは元気にしているよ。元気にしているの。でもね、夜になるとちょっぴり寂しくなるの。雨が降るとね、寒くなるの。一人ぼっちになるとね、心が痛くなるの。

 お母さん、会いたいよ。一緒にご飯食べよう。一緒に寝よう。一緒に遊ぼう。一緒に出かけよう。一緒に笑おう。一緒にハグしよう。

 ──一緒に、暮らしたい。


 お母さんとたくさんの一緒に、今は難しいこと分かってる。だから、待てるよ。お母さんと一緒にができるまで元気で待ち続けるから、お母さん、心配しないでね。お仕事、頑張って。頑張ってるお母さん大好きだよ。でも、我儘かもしれないけど、手紙はお返事くれたら嬉しいな。一言でもいいから、お返事欲しいな。


◇◆◇◆◇


 運び屋とホップ・ハートは手を離す。


「記憶は受け取りました。依頼遂行の為、これからお母様の元に向かいます」

「ええ! お願いね、運び屋さん!」


 運び屋はキャスケットを被り、軽く会釈して家を出る。


 丘を下っていく途中で、気怠そうにホップ・ハートの住む家に向かう給仕服に身を包んだ女性とすれ違うも、何のアクションもなく、町へと入っていく。

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