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奏界のエデン  作者: 雪菜
第二章

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第7話 覚醒

――時間は、少しだけ巻き戻る。


 ロゼリアは、目の前の光景に困惑していた。


 ルクレティアが気を失って床に倒れている。聖歌を歌い終えた直後に意識を失くし、倒れてしまったのだ。

 ぐったりとまぶたを閉ざしたルクレティアは、ピクリとも動かない。


 ルクレティアに創造の書(ラグナロク)を歌わせるなんて、計画にはなかった。


 ロゼリアは途方に暮れてしまう。


 ルクレティアを連れて来たのは、エリックがシオンと話したがっていたからだ。そのあいだ、この部屋に閉じ込めておけばいいだけで。ロゼリアは彼女を案内したらすぐに立ち去るつもりだった。

 魂の竜(エインヘリヤル)を手に入れた時点で、ロゼリアの目的は達成しているのだから。


 創造の書(ラグナロク)に纏わる事実なんて、話すつもりはなかった。ロゼリアには関係のないことだから。しかし、どうしても許せなくなったのだ。見つめてくる瞳があまりにも無垢で。どうしようもなく、自分が醜く、惨めに思えてしまって。


 考えてしまったのだ。ルクレティアの言うように、シオンが本当に彼女を慈しんでいたら? 


 もはや人間ではない彼女ですら、他人に愛してもらえるのに。両親に疎まれ、たった一人の味方だった姉を殺してしまったロゼリアは――。

 

 だからルクレティアに、真実をぶつけた。彼女のシオンへの信頼を踏みにじってやりたかった。その結果、事態は思いもよらぬ方向へ転がろうとしていた。


 ぴくりとまぶたが震えた。絹糸のような銀髪がさらりと揺れ、華奢な体躯がみじろぐ。


「ルクレティア……?」


 身を起こした彼女と目が合う。瑠璃の双眸はどこかぼんやりとしていた。


「わたし……どうして……」


 紗の掛かった瞳がゆっくりと焦点を結ぶ。


「わたしを目覚めさせてくれたのは、あなた?」


 その問いで、ロゼリアは漠然と状況を悟った。


「……フェリシア、なのか?」

「わたしのことを知っているの? 見たところ、帝国じゃないみたいだけど……もしかして、空の世界?」 


 窓の外を流れていくちぎれちぎれの雲を見つめた少女――フェリシアは、ロゼリアへと視線を戻して不思議そうに尋ねてくる。


「あなたはだれ?」

「私は……」


 ロゼリアは言葉に詰まる。ふと、フェリシアが瞳を瞬かせた。かくりと首を傾げる。


「あら? もしかして神曲聖歌アステルト・ノートを持ってる?」


 ぎくりとした。腰に巻かれたポーチにはルクレティアから奪った魂の竜が入っている。ロゼリアが答えずにいると、フェリシアがそっと目を閉じた。


「この気配は……」


 ぱちり、とまぶたが持ち上がり、瑠璃の双眸が嬉しそうにきらめく。


「わかったわ、魂の竜(エインヘリヤル)ね!」


 その瞬間。


 ポーチの中の赤い譜面石が光をこぼし、ふわり、と宙に浮いた。まるで意志があるかのように。きらきらと輝いた石はフェリシアが手を差し出すと、その中に収まった。


 ロゼリアは息を呑む。


「な……っ!」

「知らなかったの? 神曲聖歌アステルト・ノートは歌い手を選ぶのよ。あなたは嫌われてるみたい」

「返してもらう」


 銃に手を伸ばすと、フェリシアがクロークの裾を揺らしてふわり、と近づいてきた。じっと見上げてくる瞳が憂いを帯びる。


「あなたの目からは、深い憎悪を感じる。魂の竜(エインヘリヤル)で何をするつもりだったの?」

「あなたには関係のないことだ。魂の竜を返してもらう」


 銃口を突きつけてもフェリシアは怯みもしない。おかしそうに笑む。


「そんな武器もの、脅しにならないわ。この身体には意味のないものだもの」


 ロゼリアはハッとする。


 ルクレティアには人ではないと告げながら。すっかり失念していた。歯噛みすると、フェリシアはにっこりと微笑んだ。


「いいわ。わたしを目覚めさせてくれたみたいだし。お礼をしないとね。起きて、魂の竜」


 フェリシアの声に、譜面石が一層強く輝いた。狭い室内に緋色の輝きが満ちると、


「フェリシア~~!」


 光が収まったときには小さな赤い竜が宙にぷかぷかと漂い、そいつはフェリシアの胸へと飛び込んだ。


「会いたかったよぉっ! ごめんよ、オイラ、オイラ……っ」

「泣かないで。大丈夫よ。ちゃんとわかってるわ。それよりね、あの子の望みを叶えてあげようと思うの。手伝ってくれる? わたしに加護をちょうだい」

「うんっ」


 こくこくと頷く竜を放し、フェリシアはたおやかに笑う。


「誇るといいわ。わたしの聖歌うたを聞けるんだもの。あなたはオルラントで一番幸運な女の子よ。たぶんね」


 悪戯っぽく瞳を細めたフェリシアはすう、っと息を吸い込んだ。

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