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奏界のエデン  作者: 雪菜
第一章

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第10話 お人好しのルクレティア

 人混みをかき分け、野次馬の最前列にいるルクレティアの隣に並んだ。


 注目を集めているのは、露店の一つだった。

 

 テントの下には木箱に山と積まれた譜面石。木組みの棚には銃やら盾やら剣やらが並べられている。横長の台の奥にはルクレティアと同じ年頃の少女を模した機械人形ドールが立っていた。彼女とは違い、機械にふさわしい光沢のあるパーツから造られた、正真正銘の機械人形。


 立て看板には、合成所"シグルド"と書かれている。店名の横には刻印武器、売ります。譜面石買取も可、と追記されていた。


 シオンと同じものを目で追っていたらしいルクレティアが、疑問の声を上げる。


「合成所って、確か刻印武器を作ったり、売ったりしてくれるお店よね?」

「うん、そうだよ。持ち寄った武器に刻印を刻んでくれたり、刻印武器そのものを売ってくれたりとか、店によって対応は違うけどね。あとは、資格を持っていない調律師が鑑定した譜面石を買い取ってくれるのも、利点になるかな?」


 武器に刻まれている刻印は、聖術で譜面石を融解させ、定着させたもの。そうすることで、武器にエーテルを注ぎ込むだけで元の譜面石に込められていた楽譜コードの術を再現できるようになるのだ。その原理上、刻印武器一つにつき扱える聖術は一種類だけとなってしまうが、それでも十分に強力だ。


 合成所自体は珍しくないけれど、きちんとした建物に店を構えずに露店でというのは初めて見る。


 しかし、注目を集めているのはそこではなかった。


 見物客が意識を向けているのは、台の向こうで踏ん反り返る店主らしき男に食ってて掛かっている、少女の方だろう。


 年齢はシオンと変わりなさそうだった。


 右側頭部で一つに結わえられたキャラメル色の髪は癖があり、くるりと波打つ毛先が肩の辺りで揺れている。金緑色の瞳は鋭く、見るものに凛とした印象を与えるだろう。腰に巻かれたベルトに収まった銀色のハンドガンがその雰囲気を助長じょちょうさせるかもしれない。

 シオンからは横顔しか見えないけれど、白のえり付きブラウスにレモン色のスカートを合わせた格好は女の子らしくて可愛らしい。


 しかし。


「いくら何でも、前金で一万ゼニーはぼったくり過ぎだ!  頭が沸いているんじゃないかっ?」


 喧騒をしん、と静まり返してしまうほどの怒声は、少女というよりも少年みたいな口調だった。それに、言葉選びがちょっぴりよろしくない。


 少女の剣幕に、店主も負けてはいない。木椅子に体を乗せたまま、三十路半ばくらいの男はうっとうしそうに口の端を歪めた。


「ぼったくりだって? こっちは、無資格の素人が鑑定した譜面石を高値で買い取ってやろうって善意を見せてるんだぜ? その分、手数料がちぃとばかり嵩むのは当然だろうが」

「どこがちぃと、何だ!? 前金込みで正規の買取店の十倍だぞっ?」

「なら、その正規の店に行ったらどうだ? ま、無資格の自称調律師が持ち込んだ譜面石を買い取ろうなんて酔狂な商売人が俺以外にいるとも思えねぇがな!」


 小馬鹿にしたように笑う店主に、少女は顔を真っ赤にして、悔しそうにまなじりを吊り上げている。


 薄っすらと背景が読めてきたシオンに対して、ルクレティアは不思議そうに首をひねっている。愛らしい顔に難しげな色を浮かべていた少女は、自力で答えを出すことを諦めたのか、こちらを見上げてきた。つぶらな瞳が無言で説明を求めてくる。


楽譜コードの込められた譜面石は、二の大陸アルテウスでしか採掘できないのはティアも知っているよね?」

「ちゃんと覚えているわ。アルテウス以外で採掘できる譜面石はただのエーテルの結晶で、楽譜が書かれていないから、夢幻機関に組み込むために工場プラントで用途に合わせて楽譜を複写するのでしょう?」

「そう。でもって採掘された時点で楽譜の書かれていた譜面石は刻印武器に組み込むことが多いんだけど、そのままだと刻印に転化させる聖術を掛けたときに、石に溜まっていたエーテルと反発が起きて、砕けてしまうんだ」

「砕けてしまったら、刻印にはならない、わよね?」


 目を瞠るルクレティアに、頷きを返す。


「うん。だから調律師が鍵器アーティファクトを使って石に蓄積されているエーテルの量を調べて、それから楽譜を弄って術と調和するように調律してやるんだよ」

「それって、調律師なら誰でもできてしまうものなの?」

「刻まれている楽譜を鑑定して、そこから術の種類は保ったまま音律を弄る必要があるから、相当な腕が必要になるよ」


 発見した譜面石の楽譜がすでにマリステラに報告されているものか、まったく未知のものか。楽譜の鑑定は調律師の必須技術だけれど、調律はできれば一流と認められるはず。


「話を戻そうか。あの子はアルテウスで採掘された譜面石を買い取ってもらいたいんだと思う。でも、資格がないから正規の買取店じゃ価格がつけられずに買い取ってもらえない。だからあの露店で売ろうとしているんだろうけど、買取手数料とは別に前金の支払いが必要で、揉めているみたいだね」


 譜面石の価格は術の種類によってアステルト教団が定めている。しかし、買取の商人は素人なので楽譜が正しいものなのか判断できない。なので、偽物を掴まされないように国家資格を持つ調律師の鑑定が必須となる。譜面石の売買で調律師の同伴は常識だ。


 教団が許可を出している買取店で鑑定を誤れば、国家資格を剥奪されてしまう。なので、詐欺まがいの行為はできない。


 機械人形ドールが置かれていることから推測するに、この露店は調律師の鑑定をせずに実際に刻印に転化させることで譜面石の価値を図っているのだろう。

 しかし、その工程に至る前に手数料が別途必要なようだ。


「……それじゃあ、調律師のきちんとした鑑定があれば手数料だけでいいのかしら?」

「どうだろう? 手数料をぼったくりたいだけかもしれないし、資格を持つ調律師相手でも前金を要求しているのかも?」


 悪どい商売だね、とシオンが続ける前に、ルクレティアが未だに揉めている両者に近づいて行った。止める暇もなく、言い合いをしている少女と店主に横から口を挟んでしまう。


「あの! 国家資格を持っている調律師が鑑定をしても、前金は必要なのかしら?」

「あん? なんだあ、嬢ちゃん」

「部外者が、いきなり何だっ!」


 怒りに燃えた眼差しが双方から向けられてもルクレティアは動じない。無邪気に首を傾げるだけ。


「わたし、腕のいい調律師を知ってるの。今ここにいるわ。その人にも鑑定してもらうのはどうかしら?」


 振り返った藍色の無垢な瞳が見つめる先は、当然シオンだ。目が合うと、ルクレティアはにっこりと微笑んだ。

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