愚かな新婚夫の悩み 4
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夕方、クリフ様が帰っていらした。
玄関に出迎えに向かったわたしは、クリフ様が両手に抱えるほど大きな花束を持って帰ったことに目をぱちくりとさせる。
「お帰りなさいませ、クリフ様。そちらは……?」
「君へのお土産だ」
そう言って巨大な花束を渡されたわたしは、その重さに軽くよろめきながらもさらに困惑した。
クリフ様は機嫌がいいみたいで、にこにこと微笑んでいる。
「ええっと、ありがとうございます。とても綺麗で……」
花束は本当に綺麗だったが、戸惑いの方が大きくて純粋に喜べない。いったいどうして花束? 今日、お仕事に行っていたのではなかったのかしら?
……そう言えばお母様が、男性は後ろめたいことがあると花束やプレゼントを買ってくるって言っていたような……。
まさか初恋の女性に会っていたのだろうか。いや、そんなはずはない。だってクリフ様は忘却の魔法で初恋の女性を忘れてしまったのだから。
それにしても、重い。
花束がこんなに重たいものだと知らなかったわ。どうしよう、腕がぷるぷるしてきた。
わたしが必死になって花束を抱えていると、見かねたドロシアがわたしの手から花束を奪い取る。
「旦那様、奥様へのプレゼントを買って帰ったことは褒めて差し上げますが、何事にも限度がございますよ。巨大な花束で奥様を押しつぶすつもりですか」
「お、重かったか⁉ すまない……」
わたしは男性と女性の力の差をまざまざと思い知った。クリフ様はこの花束を重いと感じなかったらしい。
おろおろしているクリフ様を見て、ふと、結婚前のやり取りを思い出した。
……最初にデートしたときに歩く速度が違って置いて行かれそうになったこともあったわね。
クリフ様は機嫌よくおしゃべりしていたから、わたしが隣にいないことに気づくのが遅れて、真っ青になっていた。
あの時もおろおろしながら「すまない!」と謝罪してくれて、それ以来わたしの歩く速度に合わせて歩いてくれるようになった。
そんな、優しいけれどちょっと不器用で気の回らないクリフ様がわたしはとても愛おしかった。
わたしのために焦って慌てて、おろおろしてくれるクリフ様が、今も愛おしい。
……これ以上気持ちが大きくならないように気をつけようって思っているのに、どうしてクリフ様は、もっと好きになってしまうようなことをするの?
ドロシアが花束を部屋に生けてくれるというから任せて、着替えるというクリフ様を見送る。
階段を上りかけたクリフ様が、思い出したように振り返った。
「夕食まで時間があるが、お茶でもどうだろうか」
夫婦になれないとおっしゃったのに、一緒に過ごす時間は作ってくれるらしい。
……本当、ずるい人。
夫婦になれないと言うのならもっと突き放してくれればいいのに。
そう思いながらも、お茶に誘われたのはやっぱり嬉しくて、わたしは頷いてしまうのだった。
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