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03 VS神様



 あれから大変だった。

 国の第二王子と息子が屋敷から抜け出したと思ったら婚約して戻ってきた為ダンディ父上は泡吹いて倒れていた。美人母さんは「素敵な婚約者ですねシリウス」とぽやぽやと嬉しそうな様子だ。俺が云うのもなんだが、ダンディ父上の精神的負担が凄そうな我が家である。

 そうして、あれよあれよと正式に婚約が成立してしまった。この世界の本番が魔法学園内でエンディングがヒロイン入学後の一年後だとすれば、ヒロインが王子ルートに進まなくて破棄にならなかったとしても、この婚約のせいで俺と王子がどうこうなる前に元の世界に帰れる見込みだ。……が、万が一があると思うと胃がキリリと痛む。


 そして明日は、王族と婚約したということで教会に呼び出されている。ダンディ父上が云うことには俺の魔力を診断するらしい。この世の人々は光・炎・水・風等と属性別に魔法を操れるらしく、今までの習い事にプラス魔属性を伸ばすための訓練も行うようだ。

 診断・訓練をするには俺の年齢は通常ではまだ若い方みたいだが、王族と婚約をした者は例外なく早期のうちに属性を確認し鍛え、力を伸ばしていくらしい。

 ちなみにこれから現れるであろうヒロインはこの四属性のうちの光だそうだ。光は世界中でも稀少な存在で、そんなヒロインにシリウス悪役令嬢は嫉妬をして彼女をいじめる展開があったそうな。


 ……光属性とかでは流石に無いと思うが、今まで気が滅入るイベント続きだったが、こういうのは正直わくわくする。子供の頃、何度魔法が使えたらと妄想した事だろうか。炎を操ったり水の龍をだしたりする妄想は常に子供の頃散々行ったものだ。自分の属性というのが何に当たるのか気になる。

 ベッドの上でごろごろと転がりながら少年心擽る妄想に浸っているとこれまた突然機械的なメッセージウインドウが現れた。


『▼ お前に魔属性は無いぞ。お前はこの世界のバグなのだからお前に適応される属性はない。“無”だ』

「無!」


 人の心を持たない自称神が現れたせいで、楽しみが一瞬にして崩れ去っていった。転生者という属性以外己が何も持って居ない事実に傷つく。どこまでも俺は不憫オブザイヤーなのか。

 ふて寝をしようとベッドに潜り込み息をつくが、自称神は「だが」とその後も言葉を続けた。


『▼ 数年後にお前が通うことになる魔法学園には魔力が無いと入学がそもそもできない。魔力が微塵も無いお前じゃ話にならない。そこで、だ』


 半透明のメッセージウインドウは形が白く輝きだし、ふわふわと人の形へと変化が始まった。

 シルエットの髪は長く、背丈は今の俺と変わらない。ポケ○ンの進化シーンみたいな輝きが収まるとそこに居たのは、長い銀髪の同じ年頃であろう少年が俺を見下ろす形でベッドの上に土足で立っていた。


「物語が完結するまで、この世界に俺も精霊として転移する事にした。見かけだけとはいえ精霊のフリをしながら人間に仕えるなんて屈辱だがな。お前は今日以降、精霊魔道士を名乗ると云い」


 王子とは違って目の前の銀髪少年は人を超越している作り物のような美を具現化したような人物だが、出てくる言葉全て癪に障りふんぞり返っている態度からこいつが今までテキストのみでやりとりしていた自称神だという事に疑いの余地は無かった。


「お前めっちゃ顔綺麗だったんだな」


 態度はむかつくが嫌味の言い様のない程の整った顔に、思っていた言葉がそのまま口から出てきた。そんな俺に神は一瞬呆気にとられたような表情を浮かべたが、すぐに両手を腰に当てて得意気にふんぞり返った。


「ふん、本来の私はもっと身長も高い圧倒的な美形であるが今のお前は子供であるから?子供の平均魔力量で具現化出来るであろう姿を調節して顕現させてやっているのだ。凄いだろう」

「神すげぇ」

「そうだ、私に出来ない事など無いのだ」

「じゃあ俺を元の世界に戻して」

「それは私ではできん」

「ッチィ」

「……」


 煽てる中でしれっとお願いしてみてもあっさりかわされた。

 舌打ちが聞こえていたようで神は静かに寝る体勢の俺の上に馬乗りになって、体重をかけてくる。痛い、見た目通りの子供みたいな嫌がらせをするな。


「というか精霊魔道士ってなんの属性になるの?」

「神だから全属性だ」

「神官腰抜かすんじゃね?」

「まぁそこら辺は上手くやってみせる」


 えらく今回も自信満々だけどそもそもの元凶全部こいつのせいなんだよなぁと、いつまでも俺の上に乗っている神を押しのけようとした際チカッと視界に空中に浮かぶ文字が見えた気がした。


 -大精霊-

【好感度】15


「……なんでお前にも好感度ステータスが表示されているんだ」

「好感度目視は乙女ゲーム転生者に与えられる共通スキルだ。こんなに美形で何でも出来る俺が攻略キャラ対象外なわけないだろう」

「しかも若干お前の好感度あがっているし」

「コミュニケーションで好感度ゲージ上昇は乙女ゲームの鉄則だ。ちなみにお前がこの世界で一番話しかけているのは私だから好感度も自然とあがってしまっている。つまりこのままだと私はお前に恋をしてしま、」

「ややこしいややこしい下げろ下げろ」


 男の婚約者が居る俺に、これ以上の冗談はやめてもらいたい。







 翌朝、属性診断前に大精霊を呼び出したと口にする息子にダンディ父上は「人型に具現化できるレベルの大精霊をうちの息子が……?」と腰を抜かし、何故か付き添いたいと朝から屋敷に迎えに来ていたジーンは「流石僕のお嫁さんですね」と嬉しそうにしていた。お嫁さん呼びは固定なのだろうか勘弁してほしい。

 そしていざ教会へ行き神官に属性診断をして貰うために、顔くらいの大きな水晶を前に手を出す。何も持たない俺が手を出した所でなんの変化もないが、暫くしてから俺の隣についている神がその水晶を一睨みした。


――パリィンッッ


「す、水晶が……破壊……属性なんて枠にとらわれない魔力という事か……。し、神童だ、シリウス様は神にもっとも近い存在かもしれないです!!素晴らしい!!魔法学園卒業後はぜひうちに――」


 木っ端微塵となった水晶を前に震え興奮する神官、最近様子のおかしい息子が神童だと褒められ混乱し頭を抱えるダンディ父上、「僕の婚約者は神にも愛されているだなんて」と感動し喜んでいる王子とそのお付き一行。混沌(カオス)と辞書で調べたらきっと今のような状況が書かれている事だろう。


「(しまった、神力送りすぎた。やりすぎた)」

「(お前確実にその“しまった”“やりすぎた”で俺の転生ミスったんだろ)」


 自分がどんな感じでミスられ異世界転生するはめになったのを垣間見た気がした。





――その時、神と俺は気づいていなかった。

 本来のシリウス・ヴァーン悪役令嬢は王子との婚約は無理矢理彼女が迫り既成事実を作った上で成立させ、魔法学園に入る際も風魔法の適性が彼女には確かにあったが、入学に至るまでの魔力量が圧倒的に足りていなかった。

 だが王族と婚約をしている事と宰相の娘のコネを使った入学であり、神童とも呼ばれていた事などもなく既に原作から大きくかけ離れている事実に只の男子高校生とうっかりミス連発の神はまったくそろって気づいていなかったのである。



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