第1輯
私のクラスには、廊下の真ん中を堂々と歩く男子がいる。彼は、車のように右側通行に縛られたくない、という。車を運転したことがなくたって少し考えたらわかることなのに、彼は、日本で車が左側通行だということを知らないのだ。
「カエルくん、きみってけちなんだよね」
「どうして?」
「だって、かわずというじゃないか」
うちの監督は、野球をよく知らない英語教師だった。パスボールという概念がなかった。それでキャッチャーが球を逸らしたのは全部僕のせいにされた。
七を言えない体質なんです。子供のころから。英語でも、中国語でもダメなんですね。困ったことですか? なんでしょうね……思い返してみれば、七対子で上がったことは一度もなかったなあ。
身だしなみのなっていないことは、他人に不快な気持ちを催させるので、公共の福祉に反し、罪である。これが法制化されてから、俺の知り合いが三人逮捕された。次は俺かもしれない。おちおち外にも出られない。
「トングを、貸してください!」
驚いた。彼はどうして、私がいつもトングを持ち歩いていることを知っているのだろう。
ご先祖様は、帰りも胡瓜の馬で帰りたい、と言った。きみたちだって帰省のときにゃ行き帰り新幹線やろが。
「狙って食べてください。オムライスを食べると減点です。カルボナーラを食べると得点二倍です。一分経つとフィーバーモードに突入します。フィーバーモード中はすべての得点が二倍になりますが、減点も二倍になりますのでご注意ください。くれぐれも、オムライスは食べないように」
虎杖の茂った道なき道に分け行っていくと、ふと、目の前に小さな小屋が現れた。土手っ腹に大きな穴が空いていて、中が丸見えになっている。そこにいたのは、狐狸のたぐいではなくて、れっきとした人間、それも私と同年代の若者であった。
けっ。なんか、バットマンみたいなやつに割り込みされた。注意しても聞いてくれなさそうだ。俺のあとに並んでいる人はいないし、一人くらいずれたって俺はべつに構わないのだから、まあいいのだが。
一目見て、本多忠勝のような女性だと思った。女性に対してこんなことを思う僕は変かもしれない。しかし、とにかく、本多忠勝のような女性なのだ。
荘子の絵を枕の下に敷いて寝た。でも、胡蝶の夢は見られなかった。
彼女は和歌山に行ったきり帰ってこない。彼女のようなタイプに限って、和歌山に惹かれることはない。なにかあったのかもしれない。
このあたりでピクサーの、あのデスクランプみたいなキャラクターを見たとのタレコミが入った。
換気扇を投げたら、ブーメランみたいに戻ってくると思ったんですよ。そしたら、ええ、戻ってはきませんで、おたくの窓に……
我が寺と、山を下りた麓にある来張寺とは、平安時代のころから折り合いが悪く、火をつけたつけられたの話は挙げればきりがない。
「あなたはラリーを続けようという意思が見えない。会社で協調性がないと言われて、テニスを始めたんでしょう? このままじゃ変われませんよ」
一人暮らしなのに、ずっと誰かに見られている気がしてならない。それが、しかし、なぜか、気味の悪い見られ方じゃなくて、心地よい見られ方なのである。
止まない雨はないように、擤まない洟もない。僕は擤んで本当によかった。
ドンジャラは二つのものでできている。ドンと、ジャラだ。ドンは好きだが、ジャラは嫌いである。ドンジャラは、ドンであってジャラであるから、相殺して、ドンジャラは普通だということになる。
「アール・ヌーヴォーみたいな物腰だね」
取引先のお偉いさんにこう言われた。褒められたのか、なんなのか、なんなのかなあ。