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世界をかけた戦いの開幕

(アンナ)

私たちは今、リョーマ帝国の近くに位置するモロダ村に来ている。

何故一気に魔王........いや、健人のいるリョーマ帝国まで行かないのかと言うと、一気に行くと体制を整えることが出来なくなってしまうからという理由がある。

だからこそリョーマ帝国に一番近いモロダ村から歩いて出発するのだ。

リョーマ帝国までは明日には着くらしいので、この先の森で野宿することになるのだが、私は今すぐにでも健人の元まで行きたい。

そんな感じで健人のことを考えていると、私の隣に一人の男性が歩み寄ってくる。

「アンナ王女!俺がこの命を懸けてもお守りしますよ!」

そう言ってくるが、私は彼のことを知らない。

いや、思い出したかもしれない。

「君って、確か西のタイガ王国の能力者の.........」

そこで名前を言おうとしたがどうも思い出せない。

私に名前を覚えてもらえなかったのが恥ずかしかったのか彼は慌てて、

「ダイキっすよダイキ!!俺の名前!覚えてないっすか?一応瞬足のダイキって言う二つ名があるくらい強いんすけど。」

ダイキってのは思い出したが、そんな二つ名あったんだ........

でも私はそんなことどうだっていいんだ。

健人のことで今は頭がいっぱいなのだ。

そしてその数秒後の事だった。

私の真横で瞬足のダイキと名乗った男が何かに十数メートルほど遠くに飛ばされて、それを一早く察知したミリアが私をお姫様抱っこしてとんでもないスピードで後方に運ぶ。

「大丈夫ですか!?アンナ様!」

「えぇ、大丈夫だけど......あれは何なの?」

今、目を凝らして後ろから見てみると、十メートルを優に超える大きさのキングゴブリンが居た。

その手には引っこ抜いた大木を持っていて、私たちの先頭で暴れている様子だった。

キングゴブリンは能力者でなければ20人は討伐に必用とされている。

能力者だと人にはよるが、5人ほど必要と言われている。

そんなことを思考していると、

「すいませんアンナ様、私行ってきます。」

それだけ言ってミリアは行こうとするが、気付けばゴブリンの姿は消えていた。

先頭まで足を運ぶとそこには予想もしなかった人物がゴブリンの死体の上に佇んでいた。

「ト、トモキ!?」

そう、トモキが居たのだ。

しかも無傷、そしてトモキは笑みを浮かべて私の方に歩み寄り、そう言った。

「アンナ様........俺、能力が覚醒したんすよ。その能力は........」

一拍を置いてトモキは言う。

「能力を創造する能力、です。」

それに私は驚きながらも嬉しくあった。

それは何故か。

それは、私はトモキの頑張りをよく見ていたからだ。

きっとトモキは裏で頑張っているつもりなのだろう、でも、トモキの頑張りはずっと私の目に映っていて、それと同時に期待もしていたからだ。

だからこそ私はトモキの頭に手を置き、

「おめでとう。」

と、そう言ったのだ。

それにトモキも急に涙目になり、

「はいっ!」

と、そう返すのだった。




そしてその後は何もなく、夜になり野宿の準備をしていた。

寝袋などはちゃんと皆の分持ってきていたので問題はないのだが、私は皆が寝ている中、一人で夜空を眺めていた。

また私は健人のことを考えている。

今まではこんなに誰か一人のことを想ったことは無かったのに、健人のことになったらずっと考えてしまう。

そんなに考え続けても仕方ないって分かっているのに。

だからこそ思考するのをやめて眠りに着こうと思ったのだが、

「健人君のこと、凄く愛しているんですね。」

「え!?あ、愛!?」

突然そんなことを言われてしまったものだから、動揺してしまう。

誰だと思い、声のした方を向くとそこにはミリアの姿があった。

「そうじゃないんですか?ずっと考えてるの聞こえてきましたから。」

そ、そうか。ミリアは思考読めるもんね。

「まぁ、そうかもしれないわね。健人が魔王かもしれないって聞いて私もここに着いてきているし。」

その返事にミリアは少し驚いたような顔をした後、またいつもの顔に戻って、

「そうなんですか、健人君。そうゆう風には見えませんでしたけどね。心の中はなんかこう、ガチの面倒くさがり屋みたいで、でもアンナ様やイリアちゃんのために頑張っているみたいな。」

そのミリアの言葉に私は安心しながらも、謎が深まっていた。

「だったら猶更、何で魔王になったんだろう。」

そう言葉を零す。

私がそう言うと、

「まぁ、そんなに考えても仕方ないですよね。会って聞いてみるのが一番ですから!それより、早くもう寝ましょ!」

ミリアは私にそう返す。

「そうね、そうすることにするわ。じゃあおやすみ。」

そして私は眠りに着こうとする。

勿論頭の片隅に健人のことを置きながら。

そうして私の意識は闇の中へ落ちていくのだった。




(イリア)

私は城に一人取り残されながら考えていた。

健人のことはあの祭りの日、初めて出会った時に記憶を覗いていた。

その時から健人が二つの記憶を持っていて変だとは思っていたが、もっと深くまで記憶の中を見ていく内に感じたのだ。

この記憶を知らない健人に、記憶を思い出させたらどうなるんだろう。

そう私が考えたせいで健人は魔王になってしまったかもしれない。

その現状に罪悪感を感じてしまう。

健人はいい人で、私に希望を見せてくれた人だ。

あのまま健人が私に光を見せてくれなかったら、私はどうなっていたんだろう。

そんなこと、考えたくもないくらいだ。

そこで私の頭に一つの案が浮かぶ。

「私にも何か、別の記憶があったりするのかな。」

興味本位に自分に能力を使ってみる。

自分にこの力を向けるのは初めてだった。

そしてその瞬間、私は覗いてしまったのだ。

その、自分に何故存在しているのか分からない衝撃の記憶を。



(アリィ)

私は、健人には教えていなかったことが一つある。

私の娘、イリアも千年間眠らせていたのだ。

エルフは長寿で、きっと大丈夫だと考えて健人と同じ日に記憶を消して眠らせた。

何故イリアも眠らせたか。

それは.......千年後、健人が起きた時に寂しくならないようにと私の独断で決めたことなのだ。

健人にはイリアと出会うと、放っておけなくするため、イリアと言う少女のことが気になるようにしておいた。

私の勝手な思いでこんなことをしてイリアには憎まれるかもしれない。

でも、それ以上に健人という一人の人間を助けたかったのだ。

だからこそ実行に移した。

そしてあの娘が自分に能力を使った時、私の人格がイリアの中に入るように操作した。

この能力をこんなに応用できるとは知らなかったが、成功していてほしい。

そう思いながら、私はその後息を引き取った。




(イリア)

そ、そうだったんだお母さん。

そう心の中で呟くと、

「本当にごめんね、イリア。」

そう頭の中に優しくて、そしてどこか懐かしいような声がした。

「お母さ、ん?」

私は思わずそう言葉を零してしまう。

それにも同じように優しい声で、

「本当に、ごめんなさい!!」

お母さんはそう言うが、私はそんなこと気にしていない。

何なら、お母さんの事情を知って私はお母さんのことを尊敬すらしているのだ。

なので私はお母さんにこう言う。

「そんなに謝らないでお母さん!私は何も気にしてないから!」

そう言うとお母さんは一瞬押し黙って、くすくすと笑う。

「こんなに良い娘になって..........そうね、分かったわ。それよりイリア、あなたに伝えないといけないことがあるの。」

お母さんの真剣な声に私は少し緊張してしまう。

「よく聞いて、今さっきあなたの記憶を覗いて健人のことを知ったの。お願い、止めに行ってくれない?」

「で、でもお母さん。どうやって?」

私には何も無い。

能力だってこれだけしかないし、身体能力が高いわけでもない。

それ故にそう聞いたのだが、

「あなたにはもう一つの能力があるの。あなたが使っているのは私の能力で、あなたにはちゃんとあなたの能力が存在しているの。」

え?じゃ、じゃあ.........私にも私だけの能力があるってこと?

そう私が考えていると、

「イリア、あなたの能力をイメージしてみて。頭の中を空っぽにして、自分の欲しい力の事だけを考えるの。そうしたらきっと、見えるはずよ。」

私はお母さんのその言葉をよく聞き、頭を空っぽにする。

そしてイメージした。

健人を助けることが出来る能力、健人の力になることが出来る能力を。

すると、頭の中に文字が浮かび上がる。

「想いが強ければ強いほど願いが叶う能力?」

これが私の能力なの?

まだ私は疑心暗鬼だが、お母さんが言うんだ。きっとそうなんだろう。

そして私のその頭の中を覗いたのか、お母さんは言う。

「イリア、その能力を使って健人を助けてあげて。お願い!」

「分かった、私やってみるよ!」

そしてお母さんにそう言った後、能力を発動しようとする。

私は、健人に会いに行きたいんだ。

そして健人を止めたい、いつも通りの生活に戻りたい。

そう私が願った瞬間、私の体は淡い光に包まれていき、やがて視界が真っ白に染まっていくのだった。




(アンナ)

「え、な、なんで?」

目が覚めるととんでもない事態になっていた。

私の隣でイリアちゃんが、私の目覚めを待つかのように座っていたのだ。

「ど、どうしてイリアちゃんがこんなとこに!?これは夢?」

でも、心の中でイリアちゃんに会えてほっこりしている自分もいた。

「ゆ、夢じゃないよ!それはね、今さっき............」

そしてイリアちゃんはここに来るまでにあったことを色々説明してくれた。

「そんなことがあったんだ。てか、イリアちゃんのお母さんはまだイリアちゃんの中にいるの?」

私が興味本位でそう聞くと、イリアちゃんの中から大人の女性のような声がした。

「一応イリアの中に私はいるわ。でも、私の記憶と性格を持ったドッペルゲンガーのような存在だけどね。」

そして私はそのイリアちゃんのお母さん、アリィさんに聞く。

「アリィさんが能力を初めに覚醒させたって本当ですか?」

そう聞いてみると、

「えぇ、そうよ。まぁでも、能力はない方がいいと思っているけどね。あの時はそうするしかなかったから能力を作ったけど。」

そうなんだ........

「ってか、ここから先は危ないけど本当に大丈夫?」

と、イリアちゃんに心配するが、

「大丈夫だよアンナお姉ちゃん!お母さんの意志ももちろんあるけど、私も健人を助けたいってすっごく思ってるの!」

そうか、じゃあ心配はいらなかったようだ。

イリアちゃんは私が思ってるよりもすごく強い子なんだね。

私はそう思い、イリアちゃんに笑顔で言う。

「じゃあ、絶対健人を連れ戻そ!」




そして数時間後、また出発する。

私はイリアちゃんとミリアと横に並んでいるのだが、安心感が半端じゃない。

そういえば、今日は二日目で確か今日の昼にはリョーマ帝国に着く予定だったわね。

だったらあと二時間ほどで着くといったところか。

緊張してきた。

今まで私はこんな場に出向くことは少なかったから、心配だ。

そして私のその緊張を悟ったのか、ミリアとイリアちゃんが私の手を握る。

それに私は笑顔で返して、それを見た二人も笑顔になる。

そして誓うのだった。

皆の笑顔を守るためにも、絶対に健人には戻ってきてもらう、と。





「ん?やっとか。」

僕は今、そこで目を覚ました。

今の生物の魔力は年々少なくなっているせいで反応が微弱だったが、ちゃんと察知したみたいだ。

「人数は、百とかそんくらいか?」

魔王を討伐するには少し少ない人数だな。

まぁでもそれでいい、被害は少なくなればなるほどいいからな。

それにしてもどうやって負けようか。

魔王になった僕があっさりやられるのも違うよな。

死人を出さない程度に暴れて隙を突かれたフリとかすればいいのか?

そんなことを考えている内に、もうすぐそこまで敵は来ていた。

姿が見えると同時に、僕はそいつらに告げる。

「俺がこの世界の魔王だ。だからこそお前ら勇者を討つとしよう。」

そしてその刹那、僕の体は地面に向かって押しつぶされる。

だが僕はそれを感じた瞬間に透明な防御魔法を展開する。

「あっぶないな、急に攻撃するなんて。」

そう言いながら僕は立ち上がる。

取り敢えず手前の敵は全員風の魔法で30人ほど吹き飛ばす。

すると、何故か魔法が敵に当たる瞬間に消滅した。

「誰がこんな事を........」

見れば最前線に一人、見覚えのある人物が手を構え、能力で相殺しているように見えた。

「トモキ?あいつ、もしや..........能力が覚醒したとでもいうのか?」

それも僕の魔法を打ち消すほどの出力、普通の能力じゃない。

それだけは分かった。

「おい健人!お前、何でこんなことしてんだ!ぜってー目を覚まさせてやる!」

そう吐き捨てて僕の方に突進してくるトモキだが、明らかに速い.........

ミリアのようなスピード、これは手を抜けないな。

そうして僕の背後を取ろうとするトモキに牽制で雷の魔法を放ち、いったん後方に下がる。

「!?!?」

何故かトモキは後方に下がったはずの僕の背後にいて、トモキは手に持っている剣を振るが間一髪でそれを回避する。

「なんだなんだ?その能力は。」

そして隙を与えないようにトモキは見えない何かで僕の体を拘束する。

流石にヤバイと思い、身体能力強化でその何かを破る。

意味が分からない能力ばっか使ってくるな。

「これは極力使いたくなかったが.......」

そう言って僕は詠唱する。

その僕が作り出した魔法を。

「シャットダウン。」

僕がその詠唱をした瞬間、トモキは電池が切れたように倒れる。

シャットダウン、これは一日に一回しか使えない制限付きの魔法。

普通の魔法だったら詠唱が無くとも、発動することは容易だがこれは違う。

イメージが簡単ではなく、詠唱することでそれがやっと可能になる。

まぁ、詠唱って言っても一言言葉を発するだけなんだがな。

そして僕とトモキの戦いを傍観していた、いや、傍観することしか出来なかった奴らは、トモキが倒れたと知ると僕に弓や炎の魔法やらと色々使って攻撃してくるがお話にならない。

「これ、トモキにやられた方がよかったかもしれないな。」

そう小声で呟きながら敵の方へ視線を戻す。

すると、この場所で見ることがないと思っていた奴が二人いた。

「な、んで。」

僕は瞠目する。

何で、何でイリアとアンナがここにいるんだ?

アンナは王女、そしてイリアは戦闘向きの能力を持っていないのに.........

僕がそうやって思考を巡らせていると、アンナとイリアは僕の近くにまで来て、アンナが口を開く。

「ねぇ健人、もうこんなのやめましょ。」

そのアンナの一言で僕は止まってしまう。

なんでだよ、ここでアンナやイリアが来たらどうしたらいいんだよ。

でもまだだ、ここでやめるワケにはいかない。

だからこそアンナに言う。

「俺は辞めない、この世界を征服して破滅に追いやるんだ。これは全部俺の意志で......」

その刹那、アンナが怒号を発する。

「嘘を吐くのは辞めて!!貴方が口でそう言っても私には分かる、この能力があるから!!」

初めてアンナが怒るところを見て僕は一瞬押し黙ってしまう。

アンナの能力を忘れていた、真偽を見分ける能力。確かにそれがあれば僕が嘘を吐いていることくらい容易に分かる。

「だからお願い、帰って来て健人!!私の世話係、まだ終わってないわよ!」

泣きながらそう言うアンナに僕は思考を狂わされる。

僕は、僕は、どうしたらいいんだ?

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