十能の能力者
「驚いたな........」
僕は現在町の真ん中でそう呟いていた。
町の店に少し興味があって来てみたのだが、
「こんなに沢山の店があったのか!」
ここにはマッサージ店の様なものがある、あっちには温泉もあるしそれに、デザート専門店みたいなところもある。
馴染みのある店が並んでいて喜びを隠せない。
これはやっぱあれだな、海外に行ったときに日本の店や料理があったら行ってしまったり頼んでしまう現象だな。
「まだ昼だけど温泉に行ってみるか。」
皆が仕事をやっているこの時間に一人で温泉。
考えるだけで少し罪悪感があるが楽しみだ。
そうして僕は温泉をやっている店まで足を運び、営業中の札を確認した後中に入る。
中を見てみると、
「お!牛乳とかも売ってんだ!」
牛乳かは分からないがきっとそれに近しいものだろう。
やっぱり温泉上がりには牛乳が良いんだよなぁ。
この世界でもきっとそれは変わらないのだろう。
そして僕はちゃんとお金を持ってきていたので家族用の温泉を予約しに行くのだった。
どうやら男女混浴の温泉しかなかったらしく僕はその大浴場ののれんをくぐる。
この世界の人間はあんまりプライバシーとかが無いのだろうか。
まぁ、一人でゆっくり入りたかったがこの時間ならあんまり人もいないだろう。
そう考え服を脱ぎ、タオルを腰に巻いた後、がらがらがら、と扉を開ける。
一見誰もいないようにも見えたが、目を凝らしてみると一人の女性........が目に入った。
髪は金髪で多分人間。
でも、会話する必要がないのですぐにその女性から視線を外して体を洗いに行く。
こんな広いのに僕とあの人二人だけだと気まずいな。
そんなことを考えながら体を洗い終わり、湯に浸かろうとする。
でも、
「あれ?貴方って新しく十能に入ったっていう健人、さん?」
そんな言われると思わなかったことを急に言われ、僕は目を丸くする。
でもすぐに冷静になり、
「あ、あぁ。一応そうだが........ってことはあなたも十能の人なのか?」
湯に浸かりながらその人に目を向けるが、吸血鬼の様な歯と赤い目。
翼は無いがもしやこの人って.........吸血鬼、なんだろうか。
「そうだよ!私も君と同じ十能のミリアって言うの。あと、健人くんの想像通り種族は吸血鬼だよ!」
「お、おう。何で分かったんだ?僕の考えてること。」
急に考えていることを当てられたので僕は少し動揺する。
「それはね、私の能力がそうゆう能力だからだね。」
そうか、だったらきっとミリアの能力は思考を読む能力か。
面倒くさいな、思考を読まれるというのは恥ずかしいし、いい気はしない。
僕がそんなことを考えていたので、ミリアはそれを察して、
「ごめんねっ!初めましてだから少し能力を使って思考を読んじゃったけどもう使わないから!安心して?」
「そうか、すまないな。」
吸血鬼か..........何かの本で読んだことがあるが、身体能力が高く全体的に何でもできる種族らしい。
そういえば、
「ミリア、吸血鬼って太陽に弱いのか?」
吸血鬼と聞いてずっと疑問に残っていたことを聞いてみるが、
「なんかそれ、めっちゃ言われるけど全然そんなことないよー!何なら、日向ぼっことか好きだし。」
そうなのか。
まあ夜行性なら昼間に温泉に来ないか。
そう自己完結した後、もう話すことは無いと思い湯船から出ようとしたのだが、
「ちょちょちょ!ちょっと待ってよ!」
そう言われてしまった。
まだ話すことなんかあっただろうか。
「どうかしたか?」
「私、貴方の事結構気になってたんだよね!実は騎士団のトモキ君との試合見ててさぁー、めっちゃ凄かったよ!」
「見てたのか........ってか1ついいか?」
「え?いいよ?」
許可をもらったので安心して聞ける。
そう思いミリアにその質問を問いかける。
「ミリアって何歳なんだ?」
その質問をした瞬間、ミリアの顔は少し赤くなって頬に手を置き、視線を背ける。
「レディーに向かってなんて質問するの!?」
え、えぇ?
許可をもらったので聞いたのだが、ダメったのか。
女性経験があまりなかったが故に失敗してしまったようだ。
「ま、まぁいいわ!私は90歳よ!」
そう言いながら頬を膨らませるミリアに、僕は思ってしまった。
90歳でこのテンションなのかよ........すごいな。
「あ、ありがとう。吸血鬼にしては若いんじゃないのか?」
そう僕が言うとミリアはまた頬を膨らませて、
「むぅー!吸血鬼にしてはとは何だ!してはとは!そこはお世辞でも普通に若いって言うんだよ!」
はぁ、もうこいつとの会話やめたい..........
そう切実に思う。
「そういえば、何を話したかったんだ?」
話が変わっていたことに今気付き、一旦話を戻す。
「あぁそうだった、実はあなたと一戦交えたいと思っていてね!」
戦いの話か.........僕の能力は最強とアンナには言われたが、戦いはそんなに好きじゃない。
しかも女の子に攻撃なんて日本で生きていた僕からすると出来るワケが無い。
なので僕はミリアに、
「ごめんな、僕は別に戦いが好きってワケじゃないんだ。だから戦うことは出来ない。」
でも、と僕はそう付け足して、
「今日の夜どうせ戦えるんだろ?じゃあそこでまた会おうぜ。」
そう返す。
もう流石に話すことは無いだろうと思い今度こそ湯船を出る。
そして帰り際に僕はミリアに告げる。
「僕は最強だ。だからこそ、ほかの奴にも伝えておくといい。あんまり興味本位で戦うのはお勧めしないぞ?」
と..........
「はぁ、」
僕は今、着替え終わって牛乳らしきものを飲んでいる。
味は牛乳とまったく同じだ。
なんか食べ物とかに関しては結構日本と似てるのかもしれないな、そう思った。
そういえば、ミリアにああは言ったがあれでちょっとは戦う気が失せるといいのだが。
そう思っていた僕がばかだった。
大浴場の方から声が聞こえてきて、だんだん近づいてくる。
そしてその声は聞き覚えしかなくて、
「健人ー!最強ならなおさら戦ってよぅー!」
「げ
「げっ..........」
まじかよ、そして僕はそこで一瞬で最適解を考える。
「よし、」
そうして僕は全力でダッシュする。
何処にダッシュするか?そんなの単純だ。
城に全力ダッシュに決まってる。
とにかく僕は最短ルートで向かった。
後ろからは追いかけてきている様子は見えない。
良かった、吸血鬼と戦うとか嫌すぎるからな。
でも、夜になったら絶対戦わないといけないのか。
嫌だぁー!
そんなのひどいよ。
そう頭の中で考えながらも城にたどり着く。
でも、
「な、なんでお前がここに!?ミリア.........」
そう、ミリアがいたのだ。
まぁそうだよね、吸血鬼だもんね。
ただの人間の僕に追いつくなんて簡単だよね。
ずっと俯きながらぶつぶつとそう呟いている僕にミリアは、
「ね!一回でいいからさ!戦おっ!」
そう言われる。
そして僕はそんなミリアを無視しながら自分の部屋を目指して歩を進める。
人間のトモキ相手だったからこそ攻撃を避けれたりしたが、ミリアなんかと戦ったらきっと瞬殺されてしまう。
思わず肩をすくめてしまう。
そして横にいるミリアを無視して自分の部屋の前まで来た。
部屋の前に着いたと同時にすぐ扉を開ける。
そうすると中に、今いてほしくない2人の姿が見える。
「イリアと、アンナ........何でここに.........」
もうそこで考えるのをやめてしまった。
そしてその後、ミリアの姿を見たアンナはミリアを部屋の中に招き入れ、女子3人の会話に着いていけずそこからの記憶は、気付けば僕の頭から無くなっていたのだった。
「あれ?寝てたのか。」
気付いたらソファで寝ていたようだ。
今は夕方の6時か。
はぁ、ミリアのせいでめっちゃ疲れた。
この状態で十能の序列決めに参加しないといけないのか?
「あれ?何で僕今ここにいるんだろう。」
虚無になってしまった。
でも流石に十能を抜けるわけにもいかない。
十能の戦力が少しでもなくなってしまってはいけないのだ。
そう考えている内に、誰かが部屋にやってきた。
「おーい健人くーん!迎えに来てあげたよー!」
この声は..........はぁ、もういいや。
「はいはいありがとうございます。じゃあ早く行こうぜ。」
そう素っ気なく言う僕にミリアは、
「あれー?健人君なんか元気無い感じー?」
そう言ってくる。
「ま、まぁな。ちょっと考え事しててな。」
「そうなんだ......あんま気負いすぎないでね?抱え込みすぎるとだめだよ?」
そう助言をもらうが.........原因お前なんだよなぁ。
そう考えながら歩いている内に、目的の場所に着く。
着いた瞬間僕は、
「またここでやるのか。」
そこは、トモキと決闘した時の場所だった。
まぁ、あんま目立たないように端っこにいるか。
そう考えていたのだが、
「ほーら健人行くよー!みんなもう集まってるみたいだし!」
腕を引っ張りながらそう言うミリアに思う。
こいつ力強すぎだろ!
そして僕はそこで初めて十能の面子を見る。
でもそこで僕はあることに気付く。
「なんか、九人しかいなくね?」
隣にいるミリアにそう聞くが、
「確かにね、私もみんな知り合いってわけじゃないから誰が居ないのか全くもって分かんないわ。」
そうか、全員知り合いってわけでもないんだな。
「あれ?みんな集まってるー?それじゃあさっそく始めよっか!」
後ろからアンナの声がこの決闘場に響き渡る。
「早速ルールの説明と行くね!ルールは単純、バトルロワイヤル。戦闘不能になるか降参していった順、つまり負けた順ね。それで順位は決まる。結託するもよし、逃げ続けて順位を上げるもよし。じゃ、みんな頑張ってね!」
そして始まる。
十能の序列を懸けた戦いが。
戦いが始まった瞬間、僕はすぐさま決闘場の端っこにばれないように気配を消して移動する。
「案外ばれないもんだな。」
僕はそう考えていたが違った。
ミリアをほかの能力者7人が結託して囲んでいたのだ。
僕とか眼中にないってわけか。
でも何故ミリアを結託して倒そうとしているのだろう。
そんな疑問を持っていたが一瞬にして疑問は消え去った。
何故ならミリアが7人の内三人を一瞬で倒していたからだ。
そうか、ミリアは十能の中でも群を抜いて強いんだ。
そしてきっとミリアは分かっていたのだろう。
だってミリアには思考を読む能力があるのだから。
だとしてもすごいな。
3人を倒した瞬間に一人が地面から大樹のようなものを生成させ、その大樹はミリアに向けて追尾する。
でも流石吸血鬼、その大樹に飛び乗って操作している人の背後に回って気絶させる。
残りは後3人、だがミリアには勝てないと悟ったのか僕の方に向かってくる。
「はぁ、面倒くさいなあ。」
そう言って僕も能力を発動する。
広範囲の風を生み出しあの時の様に吹っ飛ばす。
芸が無いけどまあいいっか。
色々応用が利きそうな能力だが応用を使う日が来るのだろうか。
そうして僕とミリア二人になるが、
「どうしよう、降参しようかな。」
そうも考えたが、観客席の方を見るとイリアとアンナが笑みを浮かべながらこちらを見ているのが見えた。
「まあ、出来るとこまで頑張りますか。」
そう呟いて、僕はミリアと相対する。
「じゃあ行っくよー?健人ー!」
そう言った瞬間ミリアの姿は一瞬にして消え、気付けば僕の背後で音がしていた。
その音を聞いた僕は自分の真左に少し威力を弱めた風を生み出し右に吹き飛ぶ。
何とか倒れずに踏ん張って立つが、
「あんな速さで毎回来られたら流石にきついぞ?」
遠くにいるミリアに聞こえないだろうがそう言う。
ダメだ、勝てるビジョンが見えない。
予測で攻撃を放ってみるか?いや、きっとそれも避けてくるだろう。
あぁ、ダメだ。
クッソ、僕にもミリアのような身体能力があったら..........
そう僕が思考した瞬間、体から力がみなぎる。
それを感じた僕は、あることに気づく。
ミリアの動きがゆっくりに見える!?
これは、
「僕に、2つ目の能力が?」
そう考えざるを得ない。
だって遅くなってはいるがミリアは普通の人よりは早く移動してる。
そして僕の心を読んだのか、ミリアは立ち止まり僕にこう問う。
「貴方、2つ目の能力が覚醒したとでもいうの?」
僕はその問いに笑顔で、
「あぁ、そうみたいだな!」
そう言って今度は僕から攻撃を仕掛ける。
ミリアの様に全速力で背後を取り、蹴りを入れようとするが、ギリギリで避けられてしまう。
でもやっぱり!ちゃんと身体能力めっちゃ上がってる!
そして蹴りを外した僕にできたその隙をミリアが見逃すはずもなく、カウンターで蹴りを入れてくる。
それを左に避けようとしたのだが、
「ぐっ!?」
それを読まれてしまっていた。
そして僕はそのカウンターの蹴りをもろに喰らう。
まじか、今の能力で読まれたのか!?
だが、身体能力を強化する2つ目の能力でそれほどダメージは喰らっていない。
うーん、どうしたらいいんだ。
そしてそこである案を思いつく。
失敗したら隙が出来て今度こそ終わりの可能性もある。
でもやってみるしかない。
そう考えた僕は、自分の背後にさっき攻撃を回避した時とは違う、強い威力の風を配置する。
そして発動する。
出来るか?能力の二重発動。
(ミリア)
私は健人の心を読んでいた。
正直びっくりしている。
能力が2つあることもだが、二重発動なんてできるの?
でも、どんだけ速いスピードでも吸血鬼の私ならギリギリ見切れるはず。
そう考え私は健人を方をよく見る。
「来る!?」
でも..........私が考えているころにはもう遅くて、
「ミリア、今回は僕の勝ちだ。」
そう、背後からすでに声が聞こえていて、その強烈な一撃が私に突き刺さるのだった。
「はぁ、良かった。」
そして僕がミリアを気絶させた瞬間、1つの声が響き渡る。
「おめでとー!健人ー!すごいね!何?能力が2つ使えるの!?」
アンナが嬉しそうにそう聞いてくる。
何で嬉しそうなんだ、そう思いながら返事をしようとしたのだが、
「あ、れ?」
上手く体を動かせなくなり、地面に倒れる。
そして僕の視界は徐々に暗くなっていき、気付けば意識は落ちていた。
そこで僕は目を覚ます。
周りを見渡すとここが自分の部屋だということが分かった。
そして、
「イリア、居たのか。」
ずっとここで僕のことを見てくれていたのだろうか。
そう思っていたが次の瞬間思いもしない言葉が飛んできた。
「ねぇ健人。健人はさ、自分の秘密知りたい?」
そう聞かれてしまった。
「秘密?」
思わずそう聞き返すと、
「うん、秘密。私さ、実は健人が十能に勧誘される前にアンナ姉ちゃんに十能に勧誘されてたの。そして今日の序列決めに一人足りなかったでしょ。それは私なの。」
その思わぬ事実に僕は、
「そ、そうだったのか。」
そんな返事をする。
「それでね、私の能力は人の記憶に干渉する能力なの。だから戦闘向きじゃなくて戦いに参加しなかったの。」
「僕の秘密、か。まぁ、普通じゃないだろうな。だって何故か分かんないけど能力を2つ持ってるわけだしな。」
するとイリアからは見慣れない深刻そうな表情で、
「知りたい?自分の本当の記憶。」
「あぁ、知りたいな。僕の秘密。」
「そっか、分かったよ。じゃあ使うよ?能力。」
そのイリアの言葉に僕は、
「うん、頼む。」
そう言うとイリアは僕に能力を使う。
そしてその瞬間、僕の頭にたくさんの記憶が流れ込んでくる。
「なん、だ?これ.......」
そのあまりにも意味が分からない本当の記憶に、僕はそんな声を漏らすのだった。