いざ決闘
能力.................僕はそれを使っている人をまだアンナ一人しか見たことがない。
使ってみたい。
別に力が欲しいってわけじゃない。ただ能力というものに憧れを抱いているのだ。
そしてアンナは昨日僕に言った。
僕が弱いのは嘘と。だとするならば僕は戦闘経験なんて皆無だしあり得るのは能力だけ。
でも、それがどんな能力かが分からない。
使い方も分からないし、100%僕に能力が宿っているとも言い切れない。
まぁ一旦、
「能力を使えるやつに聞いてみるのが一番早いか。」
そう考え僕はそのソファから起き上がる。
結局昨日はトモキって奴に絡まれて面倒くさくなってソファで寝たんだったな。
「健人ー!おはよー!」
元気な声が聞こえてくる。
「あぁ、おはよう。」
「私、アンナ姉ちゃんにメイドのことで呼ばれてるから行ってくるね!」
そうか、そういえばそうだったな。
「分かった、行ってらっしゃい。頑張ってな。」
そう返すと笑顔で背を向けながらイリアは部屋を出る。
そして僕はすぐさま時計を見る。
「8時か。」
決闘の時間は12時。
それまでに能力が使えるようになっていたい。
トモキは騎士団と言った。
だから能力は使えないと考えていい。
そしてガルデは昨日能力者に20人近くいて苦戦したと聞いた。
なら、
「能力を覚醒させることが出来れば勝てる。」
そう確信する。
「能力の使い方ー?」
時刻は10時、今僕はアンナの部屋にて能力の使い方を聞いている。
「そうねー、私は気づいたら手足の様に使えていたからアドバイスは出来そうにないわね。」
「そうか、ありがとう。」
「ごめんねー、力になれなくて。」
少し申し訳が無さそうに言うアンナに、
「まぁ人間、危機に瀕したら力は覚醒する。火事場の馬鹿力ってな。」
だからこそ、心配だ。
それでもしも覚醒しなかったら?
でも負けても僕にはトモキに負けたという事実しか残らないから負けたっていいんだが、
「あんな奴には負けたくねぇよなぁ?」
そう誰にも聞こえないくらいの声量で呟きながらアンナの部屋を後にするのだった。
僕は一旦部屋に戻り色々と思考していた。
決闘、アンナが見に来るなら恥は晒せない。
でも危機に瀕した状態で能力が覚醒しなければ負け確定。
だがそれ以外勝ち目はない。
「賭けだな。」
そう、賭けだ。
いや、何なら僕にはその選択肢しか残されていない。
なんてったって実力ではきっと勝てないからな。
そうして僕は覚悟を決めるのだった。
「お、来たか。」
部屋の扉をノックされる。
開けるとそこには意外な人物がいた。
「アンタが決闘場まで案内してくれるのか?トーマスさん。」
「えぇ、案内させてもらいます。」
「そうか、頼む。」
そして僕はトーマスさんと共に決闘場まで向かう。
その道中メイド長らしき人とイリアが廊下を歩いているのが見えた。
そして僕に気づいたイリアは、
「お、健人じゃん!今から決闘を見に行くところだったんだよ!」
そんなことを言われた。
イリアも来るのかよ...........
だったら猶更負けられねぇ。
「あぁ、そうか。まぁほどほどに頑張るから応援しててな。」
そう言ってトーマスさんと共に歩みを進める。
やがてトーマスさんは立ち止まり、
「私が案内できるのはここまでです。この奥が決闘場になっております。」
「そうか、ありがとう。」
僕はそう感謝を述べて奥に進む。
光が差し込んできた。
そこにはコロシアムのような場所が広がっており、
「広すぎだろ。」
思わずそう呟く。
観客席のような場所の方に目をやると、アンナやイリア、そしてイリアと一緒にいたメイド長らしき人が座っていた。
そして真ん中には二人の騎士が佇んでいた。
一人はトモキ、もう一人は、
「ガルデさん?」
「おー、健人。決闘とは随分男前じゃないか!頑張れよー。」
そう言われる。
そしてトモキには、
「待ってたぜ?本当に待ち遠しかったんだよ。この時が。」
そんなことを言われる。
まじでだるい。
でも、もう覚悟は決めてある。
「よし二人共、俺が司会を務める。そしてここでの決闘のルールは、殺しはNG。致命傷になりうる攻撃は避けること、先に戦闘不能にするか降参させた方が勝者だ。」
「分かった。」
殺さず戦闘不能にするのは中々に難しそうだ。かと言ってこいつが降参するとも思えない。
だから狙うは戦闘不能にすること。
「準備はいいか?二人共。」
「大丈夫っすガルデさん。」
「あぁ、大丈夫だ。」
その僕ら二人の言葉を聞き終わると、
「いくぞ?始め!」
そして僕とトモキの戦いの火蓋が切られる。
始まった瞬間僕はナイフを取り出す。
そしてトモキは剣を構える。
戦闘経験皆無な僕は取り敢えず攻撃を喰らわないことを意識する。
トモキが近づい来て僕に向けて攻撃を放つ。
だが僕は危機一髪でそれらすべてを避ける。
攻撃を避け続ける僕にトモキは、
「避けることしか出来ねぇのか?チキンがよぉ!」
そう言ってさっきより早く鋭い攻撃を浴びせてくるトモキに隙を突いてカウンターを入れる。
「っぶね!?」
でもその攻撃をギリギリで避けるトモキ。
僕らは一旦退いて落ち着く。
このままじゃキリがない。僕がじり貧になっていくだけ。
カウンターを狙ってもトモキには通じなかった。
不意打ちを避けられたのだ、きっと僕の攻撃はトモキには届かない。
今、すごく思う。
目の前にいる敵をこの決闘場の壁まで吹っ飛ばせたら、と。
「そうしたら格好がつくのにな。」
でも、出来ないとわかっていても、イメージする。
この広い決闘場の壁まで吹っ飛ばすことが出来たら..........と。
(アンナ)
私は今押されている健人を見て驚いている。
「健人、負けちゃうのかしら。」
でも健人は強い。私の能力は嘘を吐かない。
「健人、負けちゃうの?」
少し悲しげな顔でイリアちゃんが聞いてくる。
そんなイリアちゃんを喜ばせようと私は、
「健人は絶対勝つわよ!健人は強いもの!」
そう言った数秒後、
「え?」
一瞬見間違いかと思った。
だって、トモキが決闘場の壁まで吹っ飛ばされていたのだから。
「え!?健人ってこんなに強かったの?」
イリアちゃんも思わずそう言葉を零す。
「能力.....?」
それもすさまじい威力。
この広さの決闘場の壁まで吹き飛ばすほどの威力。
私の国にも能力者は確認できている数で10人ほどいるが、その中の誰よりも強い威力。
さっき能力の発動の仕方を聞いてきたあたり、今覚醒したと考えた方がいいだろう。
いや、
「世界中探し回ってもこんなに強い能力を持った人なんか........」
そして私は健人の能力のことを考えながら二人の戦いが終わった合図を聞いて、健人の元へ足を運ぶのだった。
出来ると思わなった。いや、思ってもいなかった。
ただ目の前にいる敵を倒す想像をした。
でもその僕の思い描いたイメージ通りにトモキは吹き飛ばされていた。
「出来た.......だとしたら僕の能力は.........」
僕は敵を倒すイメージをしたとき、ものすごい風圧で敵を吹き飛ばすイメージをした。
「なら!」
僕の能力は..........風を操る能力、でいいのか?
僕がそう決闘場の真ん中で立ち止まりながら思考していると、
「健人ー!貴方、強いとは思っていたけどここまでだなんて!」
そう言われるが僕は今、自分の能力のことと急に来たアンナのことで混乱しているのでどう返したらいいか分からなかった。
それ故に、
「あ、いや、今さっき使えるようになってそれで、えっと......」
曖昧な答えになってしまった。
そんな僕を見てアンナはよほど面白かったのか、
「ぷふっ、健人ってそんな動揺するんだ。」
「いや、今さっき能力が初めて使えたから色々考えてたんだ。でも多分、僕の能力は........風を操る能力だ。」
「風を操る能力、ね。そうだ健人、ちょっといいかしら。」
そう言ってアンナは僕の腕をつかんで僕をどこかに連れていくのだった。
(トモキ)
俺は、負けたのか。
医務室で俺は目を覚ます。
アイツは無能力者じゃないのか!?
ガルデさんやアンナ様の話を聞く限りアイツは魔物をナイフで倒した。
だからこそ能力者でない限り負けないと思った。
なのに!!
「あんな能力聞いてないって........」
あの能力を喰らった瞬間、一瞬で意識が飛んだのが俺の最後の記憶。
ただ俺は、認められたかった!ただそれだけなのに。
それだけだったのに。
俺はそこで昔のことを思い出した。
親二人共俺のことを全然見てくれなくて、それに嫌気がさした俺は家を出て、そこで出会ったのがアンナ様だった。
アンナ様はちゃんと人の努力を見てくれる。
そして俺は血のにじむような努力をしてやっとここまで来たのに、あんな奴に一瞬で俺の地位を超えられて、みんなが俺を見なくなった気がして......
「大丈夫か?トモキ。」
その瞬間聞き覚えのある言葉が聞こえてきた。
「健、人?」
「ごめんな、俺はお前の人生を知らなかった。だからこそ最初嫌な奴だと思った。でも、お前真っすぐで根はいい奴なんだな。」
それを聞いた瞬間俺は思わず涙を流しそうになる。
久しぶりだ、この感覚。
「お前で二人目だ。俺のことちゃんと見てくれた奴。」
「そうか。」
そう短く返事をする健人に、
「俺が間違ってた、お前は強いよ。心も能力も。」
「ありがとう、しっかり休めよ。僕はアンナに呼ばれてるから、じゃあな。」
そう言って健人は去っていった。
俺はそれを見届けながらまた、目を閉じるのだった。
そうして僕はトモキと会話した後アンナの部屋に来ていた。
「で、なんの用なんだ?」
そう聞くとアンナは咳払いをした後こちらに視線を向け、
「貴方、十能に入らない?」
「十能?」
聞いたことがない単語に聞き返してしまう。
「十能はね、この国の能力者十人が集う組織でね、この国の最終兵器でもあるの。」
「最終兵器か。」
「貴方の能力はこの国最強、そう私は思ってる。初めての発動であの出力、これから特訓すればもっとすごいものになる。」
そう言われてもな。
最終兵器となると戦わないといけないわけだろ?
能力は欲していたがそんな危ないことにあんまり首を突っ込みたくはない。
だからこそ僕は、
「嫌だな。危ないことにあんまり関わりたくない。」
本心のままアンナに伝える。
でもアンナはよっぽど入ってほしいのか、
「お願い、貴方が居てくれないとこの国が亡ぶ可能性もあるの。そうしたらイリアちゃんだって........」
そう言われた僕は、
「分かったよ、入ればいいんだろ。でも、特訓とかはしない。これが条件だ。」
「えぇ、分かったわ。ありがとう健人!」
流石にイリアが危ないとなると入らざる負えない。
ってかなんでこんなにもイリアのことを想っているんだろう。
「まあこの国が危ないってんなら力を貸さなくもないからな。」
「早速だけど明日の夜、十能の序列を決めるための大会があるの。これはそれぞれの役割を決めるのに役立つから貴方にもちゃんと出てもらうわ。」
「分かった分かった。じゃあ今日は疲れたし早めに寝るとするよ。」
それだけ言って僕はアンナに背を向けた。
「えぇ、ゆっくり休んでね。」
「あぁ、おやすみ。」
自分の部屋に戻ると僕はベッドですやすやと眠るイリアが目に入った。
初めてのお仕事で疲れたのか熟睡している。
そしてその瞬間唐突な眠気に襲われてそのベッドに倒れてしまう。
「やべ、これ、寝ちゃう........」
そう言い残して僕の意識は闇に落ちる。
まただ、あの夢をまた見る。
でも今回は視界がクリアだ。
そしてあの女性の姿にしっかり目を凝らす。
背はすらっと高く、髪は水色。そして、
「エル、フ?」
その女性の姿を視認すると、
「また、力が入らない.......」
そして前回と同じように彼女はこちらに視線を向け笑みを浮かべる。
僕は彼女の顔を見た瞬間、一人の少女を思い浮かべる。
「イリア、なのか?」
それだけ言った後また目を瞑る。
「あの夢は何なんだ.........」
目を覚ますとあの夢を思い出しイリアの方に目を向ける。
僕が早く起きてしまったのかまだ気持ちよさそうに寝ているようだ。
まぁ、あの夢については考えすぎないようにするか。
きっとどれだけ考えても分かる日は来ないだろう。
そう考えた僕は今日の夜の十能の序列を決める戦いに向けて少し特訓する...........のもいいが町を歩き回ってみたいので外に出かける準備をする。
そして寝ているイリアに向けて笑顔で、
「行ってきます。」
そう言って部屋を出るのだった。