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第三話 事情(side雲雀)



「玉藻、お前の部屋の扉に名前かけてあるから適当に荷ほどきしとき」


「あの?」


 部屋を指さして説明したつもりが、こいつは知能が足らんのか?

 俺に疑問を投げかけるように視線を送ってくる。


「あ? なんや?」


「ここに置いてくれるんですか?」


「しゃーなしやけど、しきたりやし、破ったら俺が親父に殺される」


「え?!」


「いや、大袈裟に言いすぎたわ、すまん」


 こいつはどうも調子が狂う。

 聞いた話ではまともに人間関係築いてきてないからなんやろうな。


「旦那様、ありがとうございます」


「……ちょいまち。旦那様はやめぇや。雲雀さんとかあるやろ」


「ああ! じゃあ、雲雀さん、って呼びます」


 玉藻はにこり、と笑った。

 火傷のせいで右側の動きはぎこちないが、なんや、かわい……って、そんなんちゃうで!!


「玉藻、俺はそこでだらしない顔しとるアホを下まで送ってくるから留守番しといて」


「はい!!」


「えー、兄さん、だらしない顔のアホって誰~?」


「お前や、お前。いくで」


 玉藻は、元気に返事すると、「いってらっしゃいませ」と玄関で頭を下げる。

 玉藻は中卒って聞いてる。

 そんなやつが、こんな行儀いいとは思えん。

 いや、さっきの「此処にいていいのか」発言も気になる。


 なんなんや、あの女。





「鴉」


「はい?」


 エレベーターを降りたホールで弟を呼び止める。

 相変わらずだらしない顔しとるわ。


「玉藻についてなんか情報知っとるか?」


「……兄さんにも当然行ってるはずやけど」


「……興味ない案件すぐシュレッダーにかける癖やめるわ」


 あかん、悪癖のせいで情報全くない。

 鴉に聞くのが一番やが、兄貴に聞けって言われたらお説教が待ってるな。


 鴉は、黒の愛用のリュックから分厚い資料を取り出した。


「狐谷玉藻さん。十八歳、栃木出身」


「栃木? あの村やなくてか?」


 俺らの出身は京都の大江山の麓の集落である。

 俺らの一族はかの有名な『酒呑童子』の末裔とされており、それゆえ、集落では小金持ちで代々当主は集落の長を務めるし、ちょっと変わったしきたりで、玉藻は俺のとこに来た。


 あの集落はよそ者を入れやんはずやけど……


 鴉は、俺に近づいてきて、ひそっと、声を潜めた。


「父親は、あの『玉藻前』に殺されたって話」


「いや、待て待て。玉藻前も酒呑童子と同じくらいの大昔の妖怪やぞ」


「しかも、ママさん、旦那が妖怪とセックスしてるときに産気づいて自力で産んだとか」


「……いかれとんな」


「しかも、娘は玉藻前の依り代らしいよ」


 えー、親父が妖怪と浮気してて? その最中に産気づいて自力で産んで? そしたら妖怪の依り代が生まれちゃった! って??


「あいつの母ちゃん大丈夫か」


「事実っぽいよ。父さんが九尾が憑いてるっていってたから」


「じゃあ、なんや。俺はあいつにとって矛になればいいんか、盾になればいいんか」


 鴉はにっこり笑った。


「それは、兄さん次第じゃない?」


 じゃあ、俺は、あいつを愛さずに脅威として殺すも、あいつを愛して、愛して愛して愛して俺だけのもんにして囲うも、自由なんやな。


 上等やわ。



「ああ、兄さん」


「うん?」


「最近、殺生石が壊れたらしいよ」


「は?」


 殺生石とは、妖狐、玉藻前を封印したといわれる石や。

 いったい誰が? 自然に壊れるもんなんか?


「……気を付けてね」


「どいつもこいつも。俺はそろそろ禿げるぞ」


「わはは」


 ……なんもないとええけど。


ーつづくー

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