第二話 生贄制度(side雲雀)
先祖が妖怪であろうが、人間であろうが、俺には『普通』ではない能力がいくつかあった。
それはこの一族で稀に出る能力らしいので特別扱いをされないのが一番の救いやった。
俺は特別扱いが嫌いや。
『俺を何も知らんのに』と腹が立ってくる。
別に理解されようとも思わんけど。
結婚だ、なんだのしきたりも、正直鬱陶しい。
俺は一人で生きていきたい。
なのにしきたりは二十歳になった俺に花嫁を寄越してきた。
鬼王家は特異な能力を使える男児が二十歳になると村から若い女を花嫁として寄越してもらう代わりに、それなりの支援をする、というしきたりがあった。
「兄さん。例の花嫁さん連れてきたで!」
陰鬱な俺とは正反対の明るい末っ子、鴉。
鴉は普段は俺と同じように東京にいるが、フットワークが軽いのでよく実家や友人のつかいっぱしりになっている。
そして、京都から東京まで顔の右側を包帯で隠した陰鬱な女を連れてきた。
年は俺とあまり変わらないだろう。少し下くらいか。
「お名前は玉藻さん!」
「……狐谷玉藻です、よろしくお願いします」
「……狐の玉藻か。醜女のくせに随分大層な名前やな」
狐で玉藻といえばあの玉藻前を思い浮かべてしまうのは自身が縛られたくないと思いながらも妖怪と人間の境目を曖昧に生きているからだろう。
「兄さん、醜女はひどい」
「じゃあ、包帯を取れ。どうせ醜いから隠しているんやろう」
「……その通りです」
そう言って、俺への生贄は包帯をスルスルと外していく。
やはり、醜かった。
右の額から上頬までは真っ赤に爛れ、目は半分も開いていない。
「生まれつきか?」
「いいえ、十二の時母に」
鴉は生贄の隣で絶句していた。
虐待か。
俺の一族はそういうのとは無縁だったが、どうして俺はこんな捻じれた性格になったんだろう。
「お前のことはなんとも思わん。愛しもしないし、同情もしない。こんなものただのしきたりで、契約に過ぎん」
ただ、一人。
理解してくれる奴が現れたなら。
「だが、万一、俺がお前を愛してしまった時は、その傷を治してやる」
やはり、同情はしたのだろうか。
玉藻の傷を早く治してやりたいと願ってしまった。
ーつづくー