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8 ハナ(木藤花)



 リクが軍事高等学校に入学してから3年後の日本。


 ハナこと木藤花きとうはなは、晴れて高校生になった。

 真新しい制服に着替え鏡の前で自分の制服姿ににやける。


「かわいいー」


 なんせこの制服が着たいがためにこの高校を選んだのだ。そのため勉強も頑張った。


「高校生活満喫するぞー!」


 そこでふと今日見た夢のことを思い出す。頻繁には見ないが小さいころから見ている夢――いつも自分がリクという男の子の視点になった夢だ。

 最近は軍の学校で剣術の授業の試合では無敵だったり、そうかと思えば嫌な授業は寝ていて怒られていたりと、成長しても相変わらずマイペースな感じだ。長く見てきたからか愛着がわき、どんな性格なのか分析までした。


 花の分析はこうだ。


 リクという男性は、花より3つ上で誕生日は同じ。過保護な両親がおり、父親は剣術にすぐれ、母親は優しい。祖父は魔法使いでいつもリクに教えていて、リクも祖父が好きだった。

 大きくなり力も魔力も強すぎるため、両手両足に枷をつけて制御している。そのことは仲のいい友達にも内緒だ。

 性格は照れ屋であまり自分から話さない。基本優しい。欠点はすこし女性に対して配慮が足りないところだろうか。よく言えば男女平等な態度と言えるが、女性に対しては一言余分なんだよなと思うことが多々ある。

 あとは左肩にアザがあるぐらいか。


 まあ男性としては合格ではないか。だが何故か顔だけは見ることが出来ない。一度窓にうっすら映った姿を見たことがあるが、黒髪ということだけわかっただけだ。小さいころからよく女の子にコクられていたのを見ると、顔は悪くないのではないのかと思っている。現に顔はいいのにと友達から言われているのをよく聞くからだ。

 夢なのだから自分が作っている都合の良い世界なのかもしれないが、それにしては毎回リアルだと花は思う。リクも成長して声変わりもしている。


 今日見た夢は学校を卒業して軍に入り配属先が決まったというものだった。父親がいる騎士団とは違い、世間にはまだ知られていない出来たばかりの新しい部署、特殊隠密部隊――通称ゼロに配属になったようだった。


「本当に毎回リアルな夢だな。なんか物語を見ているみたい。もしかして本当にいたりして」


 本当にもしリクがいたら――。


「うれしいかも」


 リクのことを考えると、つい笑顔になってしまう。


 いつからだろうかリクに会ってみたいと思うようになったのは。小さい頃はいつか会えると信じていた。だが夢の話だ。今となってはそんなことは絶対無理な話だと分かっている。でも、どこかで会えたらいいのにと思っているのも確かだ。

 そういえば最近なぜかリクは朝起きると紙に書いた手紙のようなものを見るのが日課だ。


『何かあれば俺が助ける。だから何があっても諦めるな。そのためにお前には防御魔法を教えておく。暗唱しろ。もしだめだと思ったらこの魔法呪文を唱えろ』


 これが誰に向けた手紙なのか分からないが毎回それを見る。最初自分に向けた言葉なのかと思ったが、内容が内容なだけにその考えを否定する。

 じゃあ誰に向けた手紙なのか?

 もしかしたら好きな女性に向けたものなのもしれない。そう思うと何故か胸が締め付けられる気持ちになる。

 夢で今一番気になることだ。

 そんなことを思いながら花は部屋を出て1階のリビングへと降りると母親が慌ただしく鞄を持って出かけるところだった。


「おはようお母さん」

「おはよう花」

「もう出かけるの? 今日は遅出じゃなかったっけ」

「それが急患が入ってしまったの。あ、花! ちゃんと戸締まりしてってね。たぶん今日はお母さん帰れないから」

「うん。わかった」

「じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 花の母親は医者だ。父親は単身赴任でいない。小さいころは祖母が面倒を見てくれていたが、今はもう他界していないため中学からはずっと鍵っ子だ。そのため家事全般はある程度出来る。祖母が亡くなったころは寂しくて毎日泣いていたが、今となっては一人のほうが気楽でいい。


 テーブルを見ると母親が用意してくれた朝食があった。花は椅子に座りテーブルのパンを無造作にかぶり付きテレビをつける。するとちょうど毎朝見ている報道番組の今日の星座占いがやっていた。花は自分の星座をチェックしながら朝ご飯を食べ、その後は寝癖ではねた髪を直し、いつもの出かける時間に家を出る。

 学校までは電車通学のため、最寄りの駅まで歩き電車に乗る。電車に揺られること20分。そして学校までは徒歩10分だ。進学校だけあり電車通学の学生が多い。学校の校門をくぐると友達の楓夏が後ろから走ってきた。


「おはよう花」

「おはよう楓夏ふうか

「ねえ花、放課後バスケ部見に行かない?」

「バスケ部? なんで?」

「きのうかっこいい先輩見つけたんだー。神野先輩と言ってすごい人気なのよ」

「私パス。そういうの興味ない」

「えええ。花まさかもう彼氏いるの?」

「いないわよ。別に彼氏ほしいとは思わないもん」

「ふーん」


 乗り気でない花に楓夏ふうかは不満そうに口を尖らせるが、はっと何か思いついた顔をすると、


「ねえ、花はどういう人がタイプなの?」


 と体を乗り出し興味津々の顔をして尋ねてきた。そこで花は考える。


「タイプかー。髪は黒髪で、背はまあ高いなら超したことないかな。がたいはマッチョは嫌だな」

「うんうん。それで?」

「あとは、剣術と魔法が出来て――」

「え?」

「あとは無口な人かな」

「……花」

「ん?」

「花って三次元が好きだったんだ」

「あっ……」


 しまった。ってか誰のことを言っているのだと花は顔を赤くする。それがまた楓夏ふうかの花が三次元おたくということに拍車をかけた。


「花、かわいい顔してるのにそりゃあ彼氏出来ないわ。そっち方面に走ったらもう彼氏なんて一生出来ないよ」

「あ、いや……違うんだって……」

「確かに格好いい王子様しか出てこないだろうけど、ちゃんと現実も見なよ」

「あ、だから違うって」


 反論するが、楓夏ふうかに話しかけてきた子がいたので話は中断してしまった。

 花は頬杖をつき、はあと嘆息する。

 確かに夢の世界の人なのだから三次元の人になるのかと思ったりもするのだが。それにしてもなぜ顔も見たこともないリクを想像してしまったのだろうか。たぶん今日の朝夢を見たからだろう。

 そこで改めて考える。今まで何人もの男性に花は告られたがすべて断ってきた。いや一人だけ付き合ってすぐ別れた人がいた。その男性は学校で一番かっこよく人気者だった。だが花は最初まったく興味がなく付き合う気が起こらず断るつもりだったが、友達に「ゼロから始まる恋愛もあるんだから、もったいないから1度付き合ってみなよ」と言われたため1度だけつきあったことがあったのだ。だがどうしても好きになれずすぐに別れたのだった。

 理由は頭の隅にリクの存在があったからなのではないかと今更ながら思う。どうしてもリクとつい比べてしまうのだ。


 リクならこう言うだろう。

 リクならこうしただろう……と。


 だが実質夢の中の人だ。自分が想像して作り上げた架空の人物なのだ。ただ妄想を膨らませているだけの存在だ。

 分かっているのにどうしても受け入れることが出来ない自分がいるのは確かだ。


「私ってもしかして重傷なのかも」


 はやり三次元が好きなのかなと頭を抱えるのだった。





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