5 有名な親を持つと大変①
「思い出した! コンラートって、エドワール・コンラート! 騎士団総団長様と一緒だ」
あーばれた。
「お前まさかあの、エドワール総団長の息子か?」
「待て。ってことは、前巫女のフレリアン様の息子で、大賢者ゾルダン様の孫か?」
「え? なにそれ? そうなのか? エドワール総団長の奥さんって巫女様なの?」
ユリウスの言葉にダンが驚き叫ぶ。それにはリクとユリウスは一瞬何を驚いているのか分からなかった。だがユリウスが気付いた。
「ああ、そうか。そこまで知ってるのは知り合いのみだったな」
エドワールの結婚は皆の知るところだったが、相手が誰だということは一部の親しい者しか知らないことだった。ユリウスの父親はエドワールの知り合いだったため知っていたのだ。
「リク、本当なのか?」
ダンが確認するように詰め寄る。コンラートという名前など1人しかいないのだ。言い訳のしようがない。観念してリクは頷いた。
「ああ。お願いだ誰にも言わないでくれ」
「まじか。なんで言わなかったんだよ」
「ていうか、本当に子供いたんだ」
ユリウスの言葉にリクは眉間に皺を寄せる。
「どういう意味だ?」
「え? 知らないのか? まあ本人は知らないのは当たり前か。元々国の巫女様との結婚は公表されないだろ? そして子どもが出来たことも」
ああ、そう言えばそう言ってたなとリクは遠い記憶を掘り起こす。だからリクとハナが入れ替わったことも皆にばれていない。そしてリクが本当の子どもではなく養子だということも一部の者しか知らない極秘シークレットだ。
「だが、フレリアン様がやめた理由が結婚して子供が出来たからだという噂が飛び交ってはいたんだ」
そんな噂があったとはぜんぜん知らなかった。今までずっと身分を隠し田舎の学校に行っていたので知らないのは当たり前かとリクは納得する。
「でもまさかお前がなー。ってことは賢者様の孫で巫女様の子だということは、魔力も強いはずだろ? やっぱりリクも『両使い』ってことだよな」
「まあ……一応両方出来るけど……あまりな」
濁すように言うと、2人は違う解釈をしたようだ。
「子供が必ず魔力を受け継ぐわけじゃないからな。膨大な魔力を受け継いでいたら魔法コースに行くよな」
「確かにそうだよな」
いやいや絶対に行かないと心の中でリクは反論する。
「お願いだから俺の身内のことは内緒にしてくれ。色々と面倒だからな」
「確かに。ばれたら大変だよな」
「分かった。誰にも言わない。約束だ」
そしてダンは2人を交互に見ながらしみじみ言う。
「有名な親を持つと大変だな」
「その通りだ」
「ほんとに」
リクとユリウスは頷くのだった。
入学して1ヶ月が過ぎ体力がついてきた頃、やっと剣術の授業の時間が追加された。
そして剣術を教える教師がリク達のクラスにやってきた。肩まで伸びた銀髪のストレートヘアー、少しつり上がった切れ長の目、左頬に一筋の傷跡が印象的な壮年の男性教師を見て生徒達は驚きの表情を見せる。
「初めまして。剣術をお前達に教えることになったダミアン・グノーだ」
そこで生徒達から「おー!」と歓声が上がる。何も分からないリクは隣りのユリウスに尋ねた。
「なあ。あの先生すごいのか?」
「お前知らないのか? ダミアン・グノー。『神聖の騎士』の名を持つ剣豪だぜ」
「ああ……なんか聞いたことがあるような。確か父さんが知り合いだったかな」
「そりゃそうだろう。お前の父親は騎士団総団長だからな。同じ戦場を渡り合っているはずだ。ちなみに俺の父親も知り合いだぜ」
その時だ。ダミアンは机を手でドンと叩いた。すると今までざわついていた生徒達は話すのをやめ静まる。
「まあ驚くのも無理もないが、毎回私が教えるわけではない。私が教えるのは月1回だ。後は私が信頼を置いているそこにいる者達が教える。覚悟しておけ」
ダミアンはそう言いながら壇上の横に並んでいる二人の教師に視線を向け合図をすると、二人が壇上に上がった。そして簡単な挨拶をし、名前と剣士の階級1級を言うと、生徒はまた驚きの歓声を上げる。
1級と言えば剣士では一握りしかいない。ほとんどがなりたくてもなれない階級だ。ちなみにその上の最上位の特級がダミアンだ。
そんな驚きを隠せない生徒達に静まるようにとダミアンは、教壇の机に大きな音をたて両手をつく。すると生徒は驚き静まりかえる。
「ではまず質問だ。この中で剣を扱ったことがないやつはいるか? その者は手をあげろ」
すると誰一人手を上げなかった。それを見たダミアンは口角を上げる。
「今年の1年生も優秀だな。教え甲斐がありそうだ。ではまず皆の力を見せてもらおうか。百聞は一見に如かずと言ったものだ。では今から体育館に移動するぞ。すぐ動け」
皆一斉に立ち上がると、足早に部屋を出る。移動する間も生徒は驚きの声を上げていた。
「まさか神聖の騎士に教えを請うなんて夢みたいだ」
「本物の神聖の騎士様だ」
「俺、憧れだったんだよなー」
皆信じられないと歓喜の声をあげているが、有名な親を持つリクとユリウスだけがしらっとしていた。そんな二人を横目で見てダンは肩を窄める。
「お前らだけなんか違うな。俺なんかこれでもすげえ感動してるんだけどな」
「別にダミアンおじさんとはよく合ってるし」
親戚のおじさんの感覚で言うユリウス。
「……おじさんねえ……」
「今日初めて知ったみたいなもんだから、すごいと言われてもなー」
まったく顔色変えずに淡々と話すリク。
「はは。さすがだな」
リクの両親、祖父も『神聖の騎士』以上の人物なのだ。そりゃ驚かないわなとダンは思う。
「もしかして俺はすごい二人を友達に持ったのではないのか」
二人を横目に見ながらダンはぼそっと呟くのだった。
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