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 最寄りの駅に着くとちょうど汽車が入ってきた。田舎だけあり乗るのはリクだけだ。

 ボストンバッグを上の棚に置き席に座ると窓の外へと視線を向ける。窓から見える景色は、頂上に雪を被った3000メートル級の山が連なる山脈と緑豊かな畑と木々が広がっているだけだ。そんな何気ない田舎の風景をぼーと眺めながら今朝見た夢を思い出し物思いにふける。


 そうハナの夢だ。


 両親には見なくなったと言ったが、本当は今も頻繁にあちらの世界の夢を見ている。いや夢ではない。ハナの視線で見て体験している映像を共有しているものだ。


 それに気付いたのは6年ぐらい前だ。


 いつもあまりにもリアルな夢で、さも自分が体験しているような感覚に陥るものばかりだったため、小さい頃はその意味が分からず両親によく話していた。だが成長していくうちにこれは違うのではないかと疑問が沸き始めた。すべてがいつも続きのような感じなのだ。それに夢の世界は見る物すべてが初めて見るものばかりでこちらの世界よりも近代的なのだ。高い建物――高層ビルが建ち並び、見たことがない車や汽車(電車)が走り、皆『スマホ』という機械を持っていて簡単に情報や連絡が取れているのだ。これは便利だと思う。

 そう、何もかも違うのだ。


 だがあちらの世界には魔法がない。これは不便だと思う。


 そしてこのすべての情報が、ハナが見ている視点からだと気付いたのはある出来事がけっかけだった。


 それは栗皮色の髪をした女の子が自身を鏡に映し、服を選んでいる映像を見た時だ。

 顔が母フレリアンに似ていたことから、自分と入れ替わったハナなのだとその時初めて分かった。そこでハナが体験し、見たものを自分が夢で見ていたのだと確信する。


 すべてが合点がいった瞬間だった。


 その後は過激なものが多かった。

 ハナが下着姿で鏡の前で服を選ぶ姿は、恥ずかしいやら見たいやら――。まあ思春期の少年の若気の至りというものだろう。それも何年も見せられれば慣れるもので、今は何とも思わなくなり、ただ成長したなと思うだけだ。だがそんなことを親や祖父に言えるわけがなく説明するのも面倒なため見なくなったと言ってある。


 なぜハナと共有しているのか分からないが、自分とハナが入れ替わる代償としてハナの魔力が自分へと移動したのを考えると、同じ魔力が何か関係しているのかもしれないと思っている。だとすればハナも自分が体験していることを夢で見ていることが考えられる。だとすれば下手なことは出来ないと警戒するようになった。いつかハナを迎えに行かなくてはならないのだ。その時に色々黒歴史を言われてはたまったものではない。だから真っ当な人生を送らなくてはと思い、今に至っている。


 道を外すことなく真っ当に生きるようになった点はハナに感謝をしているリクだ。


 そんなことを考えながら2時間汽車に揺られ学校がある駅に着いた。

 駅から学校まではすぐだった。寮も隣接しているので立地条件は整っている。

 ふと周りを見ると、ぞくぞくと大きな荷物をもった学生が門をくぐって中へ入って行く。みんな地方から来た一年生なのだろう。


「さあ。がんばるか」


 リクは新しく始まる学生生活に期待をし門をくぐった。




 入学式も無事終り、次の日から楽しい学生生活が始まるかと思いきや、これがけっこう厳しかった。

 やはり軍事高等学校だけある。


 最初は朝から晩まで体力作りだった。これが思っていたよりきつい。ましてやリクは祖父ゾルダンのお手製の重りを両手両足に付けているのだ。見た目はアームバントのようだが、1つ5キロもあり、それが両手両足に4つ、合計20キロもある。それをずっと付けているのだ。これが体重測定には反映されない代物で、祖父は自慢げにすごいだろと言っていたが、はめている者からしたらたまったものではない。今は慣れて普段はいいが、体力作りとなると、やはりきついもんはきつい。


 ちなみに、これはリクでは外せない代物だと祖父は自慢していたが、最初から簡単に外せるとは口が避けても言えない。あと、膨大な魔力を抑えるために祖父が作った魔封じの指輪もはめているのだが、これも簡単に外せることも内緒だ。


 そんな体力作りだけの授業が1ヶ月続いた。1ヶ月も立てば体力も付き、自然と友達も出来た。


 ユリウスとダンだ。


 最初の頃はどこの出身で、どこの中等部で、趣味は何かとか話は尽きなかったが、1ヶ月も立てば話も尽き、家庭の話とかになってくるものだ。そしてダンが話し始めたのがきっかけだった。


「そういえば、ユリウスってあの剣士のヨハン・ジェルマンの息子だよな?」


 ユリウス・ジェルマン。色白で茶褐色のショートヘアで爽やかなちょっと天然が入った彼の父親は、剣士では豪剣で有名なヨハン・ジェルマンらしい。


「おかげですげえ期待されて困ってるよ」


 今まで相当言われて来たのだろう。うんざりだと言わんばかりにユリウスは嘆息しながら言う。


「物心つく前から剣術を教えられてきたから普通の者よりは出来るけど、父親ほど豪剣ではないんだよなー。出来れば俺は剣術よりも魔法の方に行きたかったんだよ。だがそんなこと許されないだろ? しかたなく剣術コースを選んだってわけ」


 以外な言葉にリクとダンは目を瞬かせる。じゃあ魔法が出来るのかと聞くと、この天然さんは手をパタパタ振りながら爽々と否定した。


「俺、魔力はほとんどないから。でも知識だけは小さい頃から本をあさりまくったおかげで人よりはあるぜ」


 リクとダンの目が据わる。魔力がないのに魔法コースを受けようとしたのか。


「知識があっても魔力がなければまず受からないぞ」


 ダンがため息まじりに言うとリクも同感だと頷く。そもそも魔法コースは魔力がなければ受からないことをユリウスは知っているのか?

 果たしてユイリスは、


「そうなのか? やっぱり駄目かー。仕方ない。自己流でやるしかないな」


 と応えた。やはり知らなかったようだ。なのに諦めてもいない。さすが天然さんだ。

 呆気にとられている2人に今度はユリウスが質問してきた。


「ダンの怪力もすげえよな。あれって遺伝か?」


 この前の授業でダンがいとも簡単に3メートルはある巨大な岩を拳で割ったことを言っているのだろう。

 ダン・キルジャー。褐色の肌に180㎝と背は高く、髪は角刈りで、体格も均等のとれた筋肉質ではあるが、それほどマッチョというわけではない。


「遺伝といえばそうなのかな。親父も怪力で俺より身長が高く、190㎝あるからな」

「親父さん、すげえな」

「ダンのは怪力もあるが、魔力を拳に貯めてるのが大きいよな」


 リクが見たままを言うと、ダンとユリウスは驚いてリクを見る。


「よくわかったな。その通りだ」

「すげえな。『両使い』かよ。ってか、リク、そんなことまでお前分かるのか?」


 そこでしまったとリクは横を向く。


「……分からないが、なんとなくそうかなと。勘で言ってみた」


 とっさに誤魔化す。魔力が分かるのは魔力がある者だけだ。分かると言ったら魔力があるということを言っているようなものだ。剣士になる者はほとんどが魔力を持たない者が多い。そのため剣士で魔力がある者は『両使い』と言われ、珍しいため注目される。目立ちたくないリクは学校では魔力がないことにしていた。


「なんだ勘かよ。だよなー。俺ら剣士を目指す者は魔力がない者がほとんどだからなー。分かるわけないよな」


 どうにか疑われずに済んだようだ。


 魔力があることは誰にも言わず、家族のことも隠している。祖父は偉大な大賢者、父親は有名な騎士団総団長、母親は元国の巫女と3人とも国では超有名人なのだ。そんな祖父と両親の息子だと知られれば注目の的になることは間違いないのだ。そんなことはもっぱら御免だ。だからこの1ヶ月の間、身元がばれないように家族の話は極力避けてきた。ここで墓穴を掘るのは避けたい。肩肘をたて顎に手を置き窓の外を見る。

 しかし安堵もつかの間だった。


「そういえばリクの名前ってリク・コンラートだったよな」

「コンラート? どこかで聞いたような」

「そうなんだよなー。どこだっけなー」

「……」


 それ以上考えるなとリクは窓の外を見たまま願う。


「思い出した! コンラートって、エドワール・コンラート! 騎士団総団長様と一緒だ」


 あーばれた。





こちらを見つけていただきありがとうございます。

毎週木曜日の午前0時更新予定です。

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