31 魔族襲撃
「この娘――鍵はいただく」
「させるか!」
アキトは横からラリスに拳を繰り出す。するとラリスは右手を左から右へ凪払う仕草をした。刹那、アキトは横に吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた。
「ぐがっ!」
アキトはぶつかった衝撃で背中に激痛が走り、息が出来なくなり地面に倒れた。
「アキト!」
「アキトさん!」
フランクは即座に杖を出しラリスに拘束魔法をかける。
「ぐっ!」
ラリスの体が硬直し花を話した瞬間、フランクは一気に詰め寄り花の手を引っ張ると、自分の胸に抱き、後ろに飛び退きラリスから距離を取った。
「くそ!」
ラリスは拘束を力ずくで外すと、フランクと花へと一気に跳躍した。
だがその時だ。銃声が鳴り響いた。
バァーン!
刹那、ラリスの腕から血しぶきが散る。
「がっ!」
腕を押さえ銃声のした方へと首を巡らせると、額から血を流したアキトが銃を構えていた。そしてラリスに向かってまたもや銃を撃った。ラリスは玉を避けながら後ろに後退し、ばっと両手を思いっきり広げた。
「邪魔するなー!」
その瞬間、花達は見えない何かに思いっきり吹き飛ばされた。そして壁にぶつかりそうになる寸前、丸い結界によって3人は衝撃から免れる。
「!」
ラリスはその魔法を繰り出した者がいる場所――ゼロ部隊の建物の壁が壊され、大きく開いた穴の向こうの外へと視線を向ける。そこにはゾルダンがいた。
「ゾルダン様!」
ゾルダンは火魔法をラリスに向かって繰り出す。だがラリスはまた手を横に振る仕草をした。すると火魔法が何かに衝突し、かき消された。それを見たゾルダンが目を細めて呟く。
「風を操るか」
ラリスはゾルダンへと手を突き出すような仕草をする。だがゾルダンも即座に結界を目の前に張り防御の形を取った。すると衝撃破だけが結界を通してゾルダンに伝わってきた。ラリスはそれを見て舌打ちする。
「ち! 俺の風を読むか。面倒なやつだ。あれがあいつらが言っていた希代の賢者か」
その時だ。暗黒の球体が勢いよくゾルダンに襲いかかり飲み込んだ。だが次の瞬間はじけ飛び消滅させる。
「あれをかき消すか。さすが希代の賢者だけある」
「!」
ゾルダンはゼロ部隊の建物の屋根を見上げ眉根を寄せる。そこにいたのはゼルドだ。
――ち。強いやつが来たのう。
キッと睨むゾルダンにゼルドは鎌を出現させると大きく左右に振った。すると鎌から無数の黒い狼魔獣が飛び出しゾルダンへと襲いかかってきた。
「あの狼魔獣はこいつが出していたのか!」
ゾルダンは足下に魔法陣を展開させ、同じく白い狼魔獣を出現させると、黒い狼魔獣に襲いかからせる。ゼルドも鎌を振り狼魔獣を次々と繰り出す。
「あの鎌、使役を生み出せるということは魔鎌じゃな」
その時だ。ゼルドが一気に間合いを詰めゾルダンへと鎌を振り下ろしてきた。だがゾルダンは一瞬でその場から消えゼルドの後ろに転移すると、火炎魔法を繰り出した。火炎魔法はゼルドへとヒットし燃え上がるが、ゼルドはすぐにかき消す。
「やはりこれしきでは倒れんか」
「希代の賢者は一筋縄ではいかないようだ」
ゾルダンとゼルドはそう呟くと、また一気に攻撃をしかけた。
ゼロの建物の中でもラリスとフランク達の戦闘は続いていた。
フランクが花を守るため結界を張り防御に徹し、アキトが銃で連続で攻撃をしていた。それに対し、ラリスはアキトの銃弾を難なく避けながら風魔法を連打するように繰り出していた。だが先ほどのように襲いかかってくることはせず、アキトの攻撃を避け、ただ風魔法を淡々と繰り出すだけのラリスに、フランクは疑問を抱き始める。
――なぜ単純な同じ攻撃ばかりしてくる?
どうみても時間稼ぎをしているようにしか見えない。ゾルダンはどうなのかと目をやると、狼魔獣の奇妙な動きに目が止まる。
――なんだ? あの動きは。
そこではっと目を見開く。
――これは!
「ゾルダン様!」
ゾルダンも同じく気付く。だが遅かった。ゾルダンの周りに網状の結界が張られた。
「しまった!」
ゾルダンを囲むように狼魔獣が動きながら魔法陣を描いていたのだ。その魔法陣こそ、
「檻結界の類いか!」
短時間の間檻の中に閉じ込め、魔法を無力化し使えなくする単純な魔法だ。対処法は、時間が過ぎるのを待つか、力尽くで檻を破壊すれば簡単に解除出来る。そのため、お年寄りや女性、そして腕力がない賢者対象に時間稼ぎで使われることが多い魔法だ。
――ぬかった! まさか初歩的な拘束魔法をしてくるとは!
魔法陣からいくつもの編みの目がゾルダンを囲むように一気に円形を形取り閉じ込めた。こうなってしまったら当分の間その場から動くことが出来ない。
「やっとか」
ラリスが待ってましたと声を上げる。ゼルドが一気にフランクへと間合いを詰めると鎌を持ち振り下ろす。すると結界が簡単に消滅した。それに驚いたのは、フランクとゾルダンだ。
――あの結界を意図も簡単に鎌一本で消滅させただと!
そしてそのままフランクに鎌を振り下ろす。だがフランクもすぐに杖を繰り出し防御する。
「ほう。止めたか」
フランクは左手をゼルドへと突き出し呪文を唱える。
「【ブリルウエイカ】!」
刹那、ゼルドが後ろに吹っ飛んだ。
「やったか?」
するとアキトが叫ぶ。
「副隊長! 後ろ!」
振り向けば、ラリスがフランクの死角になる斜め横から攻撃しようとしていた。
――くそ! 対処できん!
フランクに届きそうになった時だ。ラリスの顔を弾丸がかすめる。その拍子にラリスは後ろに飛び退いた。
「くそ! うぜえ!」
ラリスはフランクとアキトへ手を翳し風魔法をくらわせる。
「!」
アキトは吹っ飛び、窓から部屋の外へと飛ばされ、フランクは壁に激突した。それを見た花は悲鳴混じりの声を上げる。
「副隊長! アキトさん!」
フランクは背中の激痛に堪えながら顔をあげ花を見た瞬間、目を見開き叫ぶ。
「ハナちゃん! 後ろ!」
「え?」
振り向いた瞬間、腕をゼルドに掴まれた。
「!」
刹那、青い閃光が走りゼルドの腕が肘から切り落とされ、腕力を失くした腕は花を離し床に落ちた。何が起ったのかと戸惑う花を今度は後ろから腕を引っ張られる。驚き見ればリクだ。
「すまない。遅くなった。大丈夫か」
「リク……」
自然と安心し安堵のため息が出る。するとフランクがリクを呼んだ。
「リク!」
リクは花を背中に隠し、剣をゼルドに向けたままフランクに応える。
「副隊長! 大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。そっちは任せた」
そこへ外に投げ飛ばされたアキトが戻ってきたのを確認し叫ぶ。
「アキト! 僕らはこっちをやるよ」
「はい!」
そして2人はラリスへと攻撃をした。
ゼルドは無言で切り落とされた腕をゆっくり拾い、切口へと腕を付ける。するとみるみるうちに腕がくっついていった。リクは目を細め睨む。
――再生能力が早い! やはり剣のみでは仕留めれないか。
「ほう。けっこうやるな。楽しくやれそうだ」
ゼルドは笑うと一気に間合いをつめ、リクへと鎌を振り下ろした。後ろに花がいるため避けることは出来ない。仕方なく頭の上で剣で受けとめる。
「!」
ゼルドは目を見開く。この鎌は普通の鎌ではない。魔鎌だ。普通の剣では鎌はすり抜ける。すり抜けないということは理由はただ1つ。
「そう言えばお前のは魔剣だったな」
前に1度剣を止められたことを思い出す。フランクの杖もそうだが、魔法を帯びたものには魔鎌の特性――物質をすり抜けることが出来ない。剣もそうだ。ゼルドの鎌には剣は意味を成さない。だが今目の前の魔剣は別だ。
「ならば本気でいくか」
「ハナ、壁側に下がってろ」
リクは花を後ろに下がらせ一歩前に出る。同時にゼルドの姿が消えた。
「!」
リクはすぐ反応し剣を繰り出し反撃をする。
花は邪魔にならないように離れようと動いた瞬間、
「捕まえたぜ」
後ろから首に腕を回され拘束された。フランク達と戦っていたはずなのになぜだと視線を巡らすと、フランクは肩を押さえ床に倒れ、アキトも血を流して倒れていた。
「副隊長! アキトさん!」
花の叫びにリクは気付き、ゼルドを押しのけ助けに向かおうとするが、ゼルドが前に立ちはだかった。
「お前の相手は俺だ」
「ちっ!」
リクは静かに呟く。
「青龍、解放」
そして剣を上へと振り上げた。すると青い龍が剣から立ち上ぼり一気にゼルドへと噛み付くようにぶつかる。そして壁をぶち抜き外まで追い払った。
その間にリクはラリスへと一気に間合いを詰め切りかかる。
「くるんじゃねえ!」
ラリスは風魔法をリクへと繰り出すが、青白い光がそれをかき消す。そしてリクは左手を突き出し拘束魔法をラリスにかけた。
「【縛】」
その瞬間ラリスは動けなくなり固まった。
「な! こいつ素手で魔法を!」
そしてそのまま左手で花を引っ張り胸に抱くと花の顔を自分の胸に押し付ける。そしてラリスを肩から斜めに切り付けた。刹那、青白い炎がラリスの全身を覆い尽くすように燃え上がった。
「うぎゃー!」
断末摩のような叫び声が辺り一面響き渡る。その後ラリスは、青龍の業火にもがき苦しみ最後は灰となって消えた。その間リクは花に見せないように頭を自分の胸に押し付けていた。
刹那、リクの目の前で一瞬何かが光った。咄嗟にリクは両手で剣を自分の顔の前に付き出す。
キーン!
金属音が鳴り響き衝撃が伝わってきた。ゼルドの鎌だ。
「!」
だがその瞬間、花を奪われた。
「ハナ!」
そしてゼルドが叫ぶ。
「【爆砕】!」
転瞬、リクは目を見開き青龍を地面に突き刺した。リクの回りに青い結界が一瞬で広範囲に張られるのと同時に大爆発が起きた。
爆発により、辺り一面爆風と瓦礫、砂ぼこりが凄い勢いで舞い上がった。
そして爆発が収まった時には、そこにはゼルドと花の姿はどこにも見当たらなかった。