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コトハノサイ  作者: 新納弘華
第二章
7/15

荒木

「遅い、遅すぎるよ、二人とも」

 荒木とコトハがスーパーに着くとサトルが口をとがらせていた。

 荒木にとってコトハと多少気まずさが残っているのでここでサトルに機嫌が悪くなっては困る。

「わりぃ、わりぃ。好きなお菓子一個買ってやっから、そう怒んなって」

 荒木がそう言いながら一緒に店内に入るやいなや、サトルは嬉しそうにお菓子コーナーに向かった。

 単純、単純。実に微笑ましい。

 子どもは物で釣るに限るねー、と荒木が笑顔で頷く。

 荒木は同意を求めて横を歩くコトハを見ると、

「サトルのやつ、荒木が見えない角度でおよそ年相応とは思えないようなニヤケ顔だったけど、あれは間違いなく確信犯だよ。一本やられたね、荒木」

 コトハは荒木を少し小バカにするような笑みを浮かべながらそう言った。

 どうやら普段通りのコトハに戻っているらしい。

 気まずいなんて思っていた自分が少し恥ずかしい荒木であった。

 それにしてもサトルのやつ……。

 荒木は男子高校生が同年代の女の子とスーパーに買い物って何とも言えない、とつくづく思った。

 最低でも複合施設でさえあればいくらかマシだったはずだ。

 家にある食材だけでは三人分も作れないので、適当に歩きながらも荒木は財布と相談して献立を立て直す。

 コストパフォーマンスが良くてみんなで一緒の料理をつつくみたいな感じが良いな。

 そして荒木は目に入った安売りの野菜に後押しされるように決断した。

「鍋でもいいか? もちろん、肉は入ってないやつだけど」

「僕は何でもいいよ。時間も手間もかからなそうだし、いいんじゃないかな」

 荒木は一応の同意を得たので材料を次々にカゴに詰めつつ、コトハの顔色を窺う。

「お肉入ってない鍋、そんなに嫌か?」

「…………荒木は僕のことをどんな風に思っているんだ」

「わがままな食いしん坊とか?」

「……、」

 荒木はコトハの無言の笑みに促され、冗談をやめる。

「まだよくわかってないってのが本音」

 荒木は会って半日もたっていない少女にとても親しみを感じるのだが、彼女はどうにもつかみにくい。

 しかし、その答えにコトハは目を見開いた。

 そして少し間を置いてから彼女は言った。

「そうだよね、こうして話していると忘れちゃいそうになるけど、僕たちって今日初めて出会ったんだよね」

 彼女はほんの一瞬だけ寂しそうな顔をした。

 荒木にはコトハがたびたび見せるその顔がどういった意味をもつものなのかどうしてもわからない。

 荒木はコトハとの間に、見ているものが違う、そんな差異を感じずにはいられなかった。

 直接聞いてもコトハは教えてはくれないだろう。

 それでも、それを少しでも埋めることはできないだろうか。

 そこで荒木がコトハに質疑応答を要求したら、快く頷いてくれた。

「じゃあ最初の質問。得意料理ってあったりするんですか?」

「ふふ、何その質問?」

 照れながらも彼女は続けた。

「そうだね、ロールキャベツかな」

「ロールキャベツか、いいね。ていうか、やっぱり肉食べたいんでしょ…?」

 コトハに無言で威圧されました、はい。

「まあコトハが作った料理なら食べてみたいな」

「……考えとく」

 そこからしばらく荒木とコトハの質疑応答は続いた。

 時には笑ったり、驚いたりしながら言葉を投げかけ合った。

 できるだけゆっくりと歩きながらお互いを理解していく。

 するとサトルがもう飽きてしまったのか、お菓子を手にして二人の方に走ってきた。

 サトルはお菓子をカゴに入れると、思い出したかのように荒木に質問を投げた。

「そういえば荒木お兄ちゃん、自転車は?」

「……、あ」

 コトハを追いかける時におそらくおいて行ってしまったのだろう。

 そういえばカタノが呼び止めるようなことを言っていた気がするが、これだったのか。

 クロスバイクを忘れて走り出してしまうあたり、やはり荒木はバカなのである。


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