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4 桜田弥奈子の焦り(悲痛な叫び)

 鳳凰学院2年A組は決して仲の良いクラスではなかった。

 イジメこそなかったもののグループが完全にできあがっていてその中だけで完結してしまうクラスだった。


 その日も普段と何も変わらない日だった。

 4時限目の授業が終わって弁当を開く子、購買部に行く人、食堂に行く人と皆、昼食に気を取られていた。


 早い子は弁当を食べ終わろうとしている頃、赤い光が教室を満たした。

 何事?!と思って周りを見回すと足元にすっごく複雑そうな魔法陣のようなものが赤と白の2色で光っていた。

 下からゆっくりと上へと上がっていき、赤い光が上がることに足から消えていった。


 私は自分の足が消えていくことに怯え、足を椅子の上に上げようとしたけれど、一度消えた足は椅子の上に上げることはできなかった。 恐怖のあまり声が出なかった。

 痛みがあるわけではなかったけれど自分の足が消えていく恐怖に皆が恐慌状態になった。

 ただ身動きもできずに固まっているだけだった。


 胴まで消え、肩まで消え、口が、鼻が、目までも飲み込まれて教室とは全く違う場所が目に映り、私はお箸を持ったまま後ろへとひっくり返った。

 私はとっさに後ろ手をついたので頭をぶつけることはなかったけれど、立っていたクラスの男子が胸まで見えて、その上が見えないことに唖然として、マジマジと見つめていた。


 立っていた男子は胸から肩、顎、口、鼻と現れて伊與田三鷹(いよだみたか)君だと解った。

 私たち以外の人から歓声が上がったけれど私たち2年A組はそれどころではなかった。

 ぐるりと見て回ると白い法衣らしき服を着た人に囲まれている。

 その数はかなりの数で魔法陣の外側に立って、錫杖(しゃくじょう)のようなものを(かか)げていた。


 とっさに近くにいるクラスメイトを掴んだ。掴んだ相手が誰だったのかは今も思い出せない。

 クラスメイトは立ち上がり、法衣を着た人たちから少しでも距離を取りたくて、自然と気の弱い子が中心に、外側に行くほど気の強い子が輪になって立っていた。

 こういうときにはクラスメイトって結束するんだとぼんやりと思っていた。

 普段からもとこの結束を見せてくれたら私たちクラス委員が苦労することもなかっただろうにと、現実逃避で考えていた。


 2年A組の男子の委員長、白銀厚弥(しろがねあつや)君が一歩前に出たので、女子の委員長である私、桜田弥奈子(さくらだみなこ)も前に出た。


 それからは色々説明され、懇願(こんがん)され、この世界で勇者一行と一括りで扱われることになった。

 家に帰りたいと泣いている私たちに生き残りの50年前の勇者たちに引き合わされ、色々と話を聞いた。

 昭和生まれの人達だった。私たちのようにクラスメイトではなく、召喚された時は見ず知らずの相手で、年齢もバラバラだと言っていたのが印象的だった。


 そして是非とも一度魔法を使ってみるようにと50年前の勇者たちに勧められた。

 1人、また1人と魔法を使っては鑑定を繰り返してどんどん上がる魔法レベルが面白くて、私たちは魔法に夢中になっていった。

 

 王城の端っこのほうに今の世代の勇者一行が生活するための建物があり、其々(それぞれ)個室を与えられて生活することになった。

 其々侍従や侍女を個別に付けてもらえて日本より不便だけど、日本よりいい生活を送ることとなった。

 トイレは水洗だった。50年前の生産職の人がトイレとお風呂はこの世界のものでは我慢できなかったらしい。


 魔法レベルが上ってからの後日談だけど、2年A組の生産職が頑張って、温水洗浄便座に順に取り替えていたときには思わず笑ってしまった。

 




 このフェント王国の王城の端の建物に住んでいたのはレベルの低い最初の頃だけだった。

 レベルが一定の数値に来ると上がりにくくなり、50年前の勇者の人に相談すると、魔物を倒さなければレベルは上がりにくくなると教えてもらった。


 それから王都での生活をやめて、森の近くの村へ居を構えようと言い出したのは白石糸風夏(しらいしかな)さんだった。

 全員の賛同を得るのに1週間掛からなかった。

 けれど、実際に生き物を殺すのは怖くて仕方なかった。


 けれど、王城に居ては魔物が出たと報告が届いたときにはもうその村は全滅している。

 間に合わないのだ。なんとか一人でも多くの人を助けたい。必要なことだと皆理解していた。

 6人ずつのグループで6箇所。魔物が出やすいところに生産職の子が建物を建てた。

 


 それからは付与された職業関係なく魔物を刈って刈って刈りまくった。

 血に(まみ)れるとレベル100なんてあっという間だった。

 1日でも早く魔王の居場所を知りたいのに、魔王はまだまだ弱いのか生まれていることは解るのに、他の魔物の反応と区別がつけられなかった。





 皆の心に傷は残ったけれど、魔王はあっさり倒せてしまった。

 一つだけ魔物とは違う魔力をクラス全員で目指したらそれは魔王で、魔物よりも弱いくらいで苦戦するような相手ではなかった。

 これなら異世界転移者が1人居たら十分倒せる強さだった。


 それでもクラスの皆が居たから挫折せずにレベル上げができたし、色んな不安も慰め合うことができた。

 魔王を倒してしまった後は其々望む場所に家を貰い、生涯勇者年金みたいなものが支払われ続けるらしい。

 この世界の人達は召喚術という非道な魔術は使うけれど、知ればこの世界の人達が異世界召喚をするのは仕方ないとも思える。

 人はいい人たちなのだ。嘘を見抜ける魔法を持った麻生田(おうだ)君が判定しても異世界召喚者に対する嘘は見つけられなかった。




 今回の勇者の中には異世界召喚者の中で初めての異世界転移ができる若葉弘悦(わかばこうえつ)君がいるから戻りたい時に日本に戻ることもできる。

 クラスの皆と話し合って、高校の卒業資格だけは全員で取ろうということになった。

 私はこの時考えが足りていなかった。


 総理と話し合って、鳳凰学園に戻ることはマスコミに騒がれるので無理だと言われた。それは納得できたので折衷案(せっちゅうあん)として、令和7年2月から2年A組36人は廃村になっている、廃校になった学校へ通うことになった。

 簡易共同宿舎がプレハブで建てられているのを見て、生産職の子たちが作ったほうが良い建物が立ったよねと苦笑した。


 春休みどころか夏休みも冬休みもなく詰め込んだ授業が進められ、令和8年には大学受験ができるように1年で高校の勉強を終わらせることになった。

 元々進学クラスだったので、赤点や追試という人は誰もいなくて、授業を受けたら卒業させてもらえることになった。

 勉強から離れていたの分だけ復習にちょっと苦労したのは御愛嬌(ごあいきょう)だ。

 大学進学希望者は必死になって勉強した。

 


 高校の卒業式の日、総理が出席してくれて総理から「たとえ誰かの命がかかっていても魔法を絶対使わないでください」と言われ、書類を取り交わすことになったのだけれど、若葉君だけは転移の魔法を使うため書類の取り交わしはなかった。


 若葉君は1日に一度フェント王国(召喚術をした国)へ転移して、国王や宰相と情報交換をして帰って来る。

 魔物が出たときには数が少なければ若葉君1人で刈って、魔物の数が多い時は高卒組が順番に対応して一稼ぎしているらしい。


 高校を卒業することになって三分の二のクラスメイトがフェント王国へ帰る決意をして、三分の一の子が大学へと進学することになった。

 この時、既に私たちは20〜21歳になっていた。




 

 私たちが廃校の学校に通っている間に、総理とフェント王国の宰相と国王が話し合って、内緒で50年前の勇者たちの中で日本に帰りたいと言っている人を受け入れてもらえることになった。


 50年前の勇者たちは皆フェント王国からの勇者年金を貰っていたので、生活費はたっぷりと持っていたので、魔法は絶対に使わないという契約と、魔法が使えなくなるアンクレットを生産職の灯束明花里(とうたばあかり)さんが作成したので、はめてもらうことになった。

 自由にどこにでも住んでもらうというわけには行かなくて、一つのマンションで住んでもらうことになったらしい。


 ある程度の行動の管理は覚悟していたのか、50年前の勇者たちから文句は出なかった。

「さすが昭和生れの人たちだね」とっ私たちは笑って話していた。

 ただ親の墓参りや故郷へ行くことを望んでいて、それを調べたり付き添ったりする人たちが異世界転移・転生者課の人が活躍したと若葉君が話してくれた。


 転生者に関しての話し合いは現在難航している。

 異世界生まれたということは、日本の知識があっても異世界人でしかなく、日本国民とは認められないというのが政府の結論だった。

 見た目も見るからに異世界人なので、それは仕方ないかなとも思う。


 転生者に実際会っている総理は受け入れてあげたらいいんじゃないか?と言ってくれているらしいのだが、何でもかんでも受け入れられないということなのだろう。

 これから長い長い話し合いが持たれることになるだろう。

 若葉くんに何かあったら転移・転生者は日本には帰ることはできなくなることはどう考えているのか、皆の意見を聞いてみなくてはならないと思っている。



 異世界召喚者大学進学組は就職活動をせず大学を卒業して、フェント王国へ帰る日、見回すと残留組の2年A組全員が揃っていて、顔を見合わせて思わず笑ってしまった。

 若葉君がいることがフェント王国へ行く決断をあっさりとさせてくれる。

 二度と日本に戻れないと言われたらフェント王国へ行く決断はもっと難しかっただろうと思う。


 私は森と海に近い小さな町の端っこに屋敷を建ててもらった。

 生産職の稚内碧海(わっかないあおい)君、灯束明花里さん、木内照大きうちしょうだい君、和了矢未来月(あがりやみくる)さん、月魄つきしろロベルト君(イギリス人と日本人のハーフ)が、日本の家屋と変わらない設備を手掛けてくれた。


 当然、電気もガスも無いのでそこは魔力だよりになるのだけれど、2年A組で魔力が足りなくて困るなんてことはありえないので問題はなかった。


 そして驚いたことに大学を卒業して戻ってきたら安河内聖(あがないたけし君)勝内美佳里しょうないみかりさんが結婚していて、子供も一人生まれていて、二人目を妊娠していたことだった。


「日本でもちゃんと婚姻届を出して両親同士も挨拶をしたのよ。子どもたちは日本でも出生届を出しているのよ」

「日本で学校に通わせるの?」

「ん〜今のところそのつもり。この世界ではまだまだ知識が足りないものね。若葉くんには申し訳ないんだけど、結構頻繁に日本に帰ってるの」


「知らなかったわ。若葉君何も教えてくれないんだもの!!結婚祝いや出産祝いしたのに!」

「若葉君は人の話はしないと決めているんだって。皆の秘密を色々知っちゃっているからね。総理や国王、宰相様の秘密も握っているかもしれないと私は思っているわ」


「・・・・・・それは迂闊に喋れないよね」

「言っとくけど、高卒組は蓑田みのだ君以外は結婚してるからね。深南田(みなみだ)君は子爵家の次女さんと結婚したよ。高卒組の一部の子は爵位を貰ってるし」

「えっーー!!」

「こっちで骨を埋める覚悟ができたってことなんだと思う。私たち夫婦みたいに日本と切れない人は鳳凰学園の生徒の中で結婚するんじゃない?」


「なるほど。でも、結婚早いね〜〜!!」

「馬鹿じゃないの?!遅いから!!日本の感覚を引きずってたら駄目だよ。はっきり言うけどこの世界で20歳超えたら行き遅れだからね」

「あっ・・・」


「男子はまだいいけど、大卒の女子はフェント王国の人と結婚するつもりなら、初婚の人との結婚はまず無理だからね。高卒組の女の子は殆どが子持ちだよ」

「えっ?!嘘!私、ど、どうしよう〜〜〜!!」


「鳳凰学園の大卒組の男子から探すのが手っ取り早いと思うよ。事情説明の必要もないしね。それか異世界転移・転生者対策課の人か」

「えっ?!」

「これまた言っとくけど、若葉君は人気者だからね」

「いや、誰も若葉君とは言ってないし・・・」


「若葉君が人気者だって言っているだけだよ。若葉君はフェント王国の公爵の爵位を貰っていて、それだけでも収入あるのに、勇者年金貰ってて、日本では内閣府の仕事の手伝いをしているから日本では内庁勤務扱いで給料もらっているからね」


「知ってる」

「なら早く告白しちゃいな。躊躇(ためら)っている間に誰かに取られちゃうからね」

「う、ん・・・」


 桜田弥奈子、フェント王国でただいま行き遅れ中です・・・。

鳳凰学園の失踪事件の日付を令和元年当たりにするべきでした。

魔王討伐で未来の話になってしまいました。

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