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2 異世界転移・転生者対策課

 内閣総理大臣が記者会見室の壇上の上に立った途端、シャッター音がカシャカシャと鳴る。

 いつもなら官房長官が現れるのに総理が現れて、記者たちはざわめいた。

 総理がマスコミの一同を見回して記者たちの準備が整っていることを確認するように視線を流し、テレビ局のビデオカメラが緑色になっているのも確認している。

 手にしていた文書を台の上に置き総理が簡単に挨拶をして、一瞬ため息を吐きそうになってグッと(こら)えたのが見て取れた。


 記者一同は一体何が発表されるのかと(いぶか)しんだ。


「あーこの度『異世界転移・転生者対策課』という新たな対策室を発足いたしました」

 記者たち一同が「はぁ?」と口を半開きにしてぽかんとしている。

「あー・・・何を言っているんだ?と思われることでしょうが、一応真面目に異世界転移・転生者対策を(おこな)ってまいる所存でおります」


「本当に真面目に言っているんですか?」

 どこかの新聞記者が内閣総理大臣に質問を投げかける。


「あー・・・冗談ではなく真面目に設立いたしました。・・・今までの行方不明者の中に、常識では考えられない行方不明の人たちが多数おられることが判明しまして、そのぉーなんと言いますかぁー・・・何名かが異世界から戻ってきた人が居りましてぇ・・・」


「異世界から戻ってきたぁ?」

 ボソボソと「今日はエイプリルフールか?」等と笑っている者もいる。

 場の雰囲気は総理を馬鹿にしたような空気が流れる。


「えー・・・嘘を言っていると思われるかもしれませんがぁ・・・あー、真実でしてぇー・・・そのぉー・・・それでですねぇ・・・一部の行方不明者の方々は、異世界の人たちが本人に許可なく召喚術という魔法を行使して日本人を召喚しておるようなのです・・・あー(ちな)みに諸外国の方が転移しているという話は今のところ聞いておりません。理由は解りませんがぁー・・・日本人に限定されているようです」


 記者たちが顔を見合わせて口々に好き勝手なことを言い始める。

 テレビ局の記者がビデオカメラの隣で手を上げる。

「あー・・・そこの君、どうぞ」

「今流行りの若者向けのアニメや物語の話ではないのですか?」


「あー・・・違います。荒唐無稽と思われるのは私共も理解しておりますが・・・ゴホンッ!!、あー・・・2年前の鳳凰学園、2年A組の生徒さんたちが一斉に行方不明になった事件を覚えておられる方も多いと思いますがぁ・・・、あー・・・そのA組の生徒の1人が戻ってまいりました。あー・・・それも見つかったのはシンガポールの小さな町でです」


「生徒の名前は?!」

「いつ発見されたのですか?」

「病気や怪我はしていないのですか?!」

「なぜシンガポールで見つかったのですか?!」


 記者たちが一斉に総理大臣に話しかける。

 総理大臣が掌を上下に動かして静まるように(うなが)す。

 暫く思い思いに喋っていたが総理大臣が何も返事をしないことに気がついて静かになっていく。


「あー・・・生徒名は明かせません。保護の意味もありまして・・・。仮にその戻ってきた人をXさんとしますが、Xさんの未来もありますので実名が万が一解った場合も報道は控えてくださると信じております。でー・・・そのXさんが異世界召喚されたのだと言い出しましてー・・・魔法のレベル?が上がったとのことで自在に異世界と我々の世界とを行き来できるようになったと言いましてぇーえー・・・誠に信じられませんがぁ・・・事実確認をいたしましたので、嘘ではありません」


「事実確認?どういうことだ?」

 総理大臣は一同を見回す。視線が向いた場所から順にシャッター音とフラッシュが光る。

「それとシンガポールで見つかった理由というのがぁ・・・Xさんが言うには座標の設定が甘かったせいだと説明がありました。次からは座標は解ったので、Xさんが望む場所に転移できるようになったということです・・・えー・・・信じられないような話ですが、すべて真実です」


「えっ?!自在に異世界に行けるのですか?!」

「どなたか異世界に行かれたのですか?!」

「なぜ生徒の皆さんを連れて帰ってこないのですか?!」

「そうだ!鳳凰学園の生徒さんは不安に思っているでしょう!!」


「あー・・・異世界には異世界の事情というものがあるらしく・・・そのことはこれから異世界の方々と話し合っていかねばならないと思っておりますが、今のところ対話は平行線を辿っている状況としかお伝えできることはありません。あー・・・それから転移した鳳凰学園の生徒の皆さんについてですがぁーあー・・・生徒さん一人ひとりの意思確認したところ異世界でもう少し頑張りたいとのことでして・・・」


「それを認めたんですかっ?!」

「あー・・・一応我々は何度も何度も帰ってくるようにと説得したのですが、地球では体験できないことが異世界では体験できるとのことで・・・生徒さんたちは喜んで異世界に定住していると申しますか・・・レジャー気分といいますか、我々も本当に困っております。」


「生徒たちを置き去りにしてきたんですか?!」

「あー・・・実は鳳凰学院の生徒さんたちは既に18歳を超えていましてぇー・・・成人扱いになるとXさんに言われてしまいましてって・・・えー、自分の進路は自分で決める権利があると言われてしまうと成人年齢を引き下げた我々には何も言い返せないわけでぇー・・・、あー・・・我々に口出す権利はないと生徒さんたちにも言われたと申しますか・・・」


「それは許されることなのか?」

「政府は異世界との対話とはどんな話をしているんですか?!」

 記者ったちが其々(それぞれ)好き勝手に政府批判や質問を始める。

「我々も異世界に連れて行ってもらえませんか?!」


「あー・・・マスコミの方々を異世界に連れていくのは時期尚早だと判断しております。えー・・・政府自体もまだ異世界の実態を把握できておりませんし・・・、異世界は我々の常識は通用しませんし、あー・・・日常的に危険と隣り合わせな部分もあり、我々がそれに対応できるともまだ判明できておりません」


「ですが鳳凰学園の生徒達はその異世界で生活しているんですよね?」

「あー・・・はい。そうですね・・・」

「異世界の生活レベルはどんな感じなんですか?」

「生徒が食べるものに困ったりはしていないんですか?」


「あー・・・異世界の生活レベルは地球でいうところのイギリスやフランスの中世時代の初期頃と同じくらいかと思いますが、あー・・・そのぉー・・・異世界には魔法というものが存在しているようでして、ぇー・・・地球と全く違う進化をとっているようです。電気、ガスなどは無いのですが、魔力で使えるガスコンロや、電灯などがありまして、下水処理なども魔法で行われているようです。誠に信じがたいのですが・・・その上、鳳凰学院の生徒の皆さん其々色々な魔法が使えるようです。あー・・・誠に信じがたいのですがぁー、皆さん楽しそうに異世界ライフを送られているようです」


「生徒さんたちは親御さんに会うことはできたのですか?」

「あー・・・親御さんと会うことを拒否した数名の生徒さんがおられまして、その生徒さんたちはご両親に会ってはおりませんが、学園長や担任の先生との面会はしております。それ以外の生徒の方たちは勿論、ご両親との面会は完了しております」


「その異世界転移ができる生徒Xさんは、何人くらい異世界へ連れていけるのですか?!」

「えー・・・今はレベルが上がったとのことでしてぇ・・・一度に50人ほどの移動が可能と聞いております。えー・・・一応、我々がXさんも入れて30人以上の転移は確認しております」


「レベル?ゲームじゃあるまいし・・・」

 ザワザワザワ・・・。と記者たちが口々に何かを口走っているが、総理に向けて何を聞けばいいのかわからない様子だった。


「総理も異世界に行かれたのですか?!」

「あー・・・・・・はい。何度か、・・・行ってまいりました」

「なっ?!」

「それで生徒の皆さんを連れ帰ることをしなかったのですか?!」


「それはぁー・・・先程言いましたように生徒さんの意思を優先させることで親御さんの同意もいただきまして・・・それと、異世界転移者のことばかり話していますがぁ・・・実は異世界転生者もおりまして・・・」


 ここでまた大きなざわめきが起こる。

「転移者と転生者の違いは?!文字通りの意味でいいのですか?!」

「あー・・・はい。異世界に生まれ変わって、地球の記憶を持っていたり、成長途中で地球の記憶を思い出したりした方々ですね・・・」


 記者たちは顔を見合わせる。

 なぜだか静かになっていく。気持ちは解る。

 異世界など話で聞いたくらいでは信じられないと誰もが思っているだろう。


「あー・・・その転生者たちは地球への帰還を望む方もいらっしゃいましてぇ・・・」

「受け入れるのですか?!」


「あー・・・現在のところ、受け入れ不可能と判断しております。えー・・・転生者の帰還を許した場合、日本に戻ってから戸籍はどうするのかという問題や、子供ができた場合などどうするのか、そもそも・・・身体的に我々地球人と同じ人種なのかも判明しておりません。見た目は地球人と同じではありますが、髪や瞳の色が地球人ではありえない色をしています・・・」


「どんな色をしているんですか?」

「あー・・・私がお会いした異世界人の方々は髪がピンク色の方や緑色、紫色の方がいました。瞳は白、金、ピンク色の方とお会いしました・・・色々な問題が解決しましたら一度異世界の方に来ていただいてぇーえー・・・体の検査などさせてもらいたいと思っているのですが、現状時期尚早でして・・・」


「異世界人を日本に呼び寄せるつもりですか?!」

「あー・・・今は時期尚早だと思っております」

「そもそも総理たちも行き来しているとのことですが、未知の病原菌などの心配はないのですか?!」

「あー・・・病原菌に関しては100%大丈夫と保証はできないとしか・・・言いようがありません」


 総理のその返答に「無責任だ」とか「国民の安全をもっと考えてください」などと言い出して収集がつかなくなってきたので、総理は台の上に置いた文書をパタリと閉じて記者発表は終了してしまった。





 その日、記者発表を放送していたテレビ番組にもっと詳しい情報を報道しろなどクレームの電話やメールが殺到した。

 その日の夜遅くに内閣府のホームページに『異世界転移・転生者対策課』の項目が増えていて、クリックすると報道で発表されたことと同様のことがUPされていた。





 



『        異世界転移・転生者課について



 ・鳳凰学院の生徒の皆さんは全員元気で、住むところもちゃんとしたところに住んでいて、食べることにも苦労していないこと。

 ある意味では地球よりいい暮らしをしている生徒も多い。

(中には流浪を好む生徒もいて住居を構えていない少数派もいる)

 

 ・未知の病原菌に関しては未知のことなので今はまだ解らないため、不必要な転移はしない方が良いと判断していること。

 ただ異世界には浄化という魔法があって病原菌は死滅している可能性もあること。

 未だ不明のことが多すぎて政府にも判断できないこと。


 ・異世界は中世初期時代によく似ているが、魔法があるため独自の発展をしているので地球と同様に比較できないこと。

 暮らしぶりは科学とは違う発達の仕方をしている。


 ・地球の武器、知識を異世界に持ち込んで、異世界人が異世界転移術を多数使用できるようになった場合、その武器を持って町中に突然現れて地球の武器と魔法で蹂躙された場合、今の地球では勝ち目がないと考えられるため、こちらの情報は極力漏らしたくない。

  そのため、マスコミやそれ以外の人たちを異世界に連れていくことは現在のところ考えられない。


 ・異世界転生者について

 地球に帰りたいと言っている方は受け入れられるものなら受け入れるべきだと、そういう案も出ているが、今のところ受け入れは考えられない。時間を掛けて判断していきたい。

 ただ、中には転生者であることで不遇な人生を送っている方もいらっして、同情を禁じえない部分もあるため、これからも受け入れるのか受け入れないのか話し合っていくことは決定している。   』






 連日連夜、マスコミ、国民の反応は様々だ。

 内閣としてはそれにいちいち取り合うことはしない。

 異世界転移・転生者対策課に私が配属されたい。

 異世界に行くと長らく感じることがなかった感情が湧き上がってくる。

 何故っだか胸がワクワクするんだ。


 内閣総理大臣・別東屋(べっとうや)完陶(かんとう)は昨年の春先にXさんに連れられて異世界への訪問を果たしていた。

 転移に何か秘密があるのか異世界に行った途端、別東屋自身も魔法が使えるようになった。

 煙草を吸うのにライターが必要なくなった。人差し指少し上辺りに蝋燭の火程度の炎が揺れていて、その火で別東屋はタバコをうまそうに吸った。


 極秘中の極秘ではあるが、異世界に転移した地球人全員が何かしらの魔法が使用可能となった。


 そのため、こちらから新たな人を送ることができなくなってしまった。

 正直、異世界へ行って帰ってきた人間が、魔法の力を振りかざしたらと思うと恐ろしくて叶わない。

 万が一、人前で使用したらと思うと頭を抱えてしまう。

 だって私だってライターを使わなくなってしまったんだから。


 使用しなければレベルは上がらないらしいので、異世界に行った異世界転生・転移者対策課の3人はきっとどこかで隠れてレベル上げをしているかも知れない。

 私も内緒でガレージでレベル上げをしている。まぁ、今のところレベルが上がる気配は無いのだが。


 年甲斐もないが、魔法・・・本当に夢のようだ。

先にこの話が出来上がって、それから第1話が生まれました。(˶ᐢᗜᐢ˶)


11月8日(金曜日) 17時 Xさんの独白があります。

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