36.人にとって大事なものは違うわ
「あの者たちが物取りというの?」
捕まり腕を縛られた物取りたちを見ると痩せて服も薄汚れている。しかし時々傷んでいるものの良い生地を着ているのものもいた。おそらく誰かから奪ったものなのだろう。
「もっと怖い者たちだと思っていたわ。体格が良かったり目つきが悪かったり」
「そうね。でも食べられないとああいう風にやせ細ってしまうのでしょう。私たちも貧乏だった時があるけれど助けてくれた人がいたわ」
辛い時だったけどグッチ兄さんがご飯や時々お菓子をくれて礼儀作法まで教えてくれた。シャネル姉さんは、文字や計算、歴史を教えてくれた。貴族としての立ち居振る舞いは、前伯爵が教育係を手配してくれた。
今のエルメスがいるのは、努力したのはもちろん誰かに助けて貰っている。
「なんか閣下と話しているリーダーのような男の服がおかしいですね」
ミラーが物取りたちを見て怪訝な顔をした。
「あれは摩耗して汚れたというよりもインクや煤でむりやり汚したような」
「どういうことですの」
「色の割に生地がしっかりしてますし襟元が綺麗なんですわぁ。でも袖がクタクタで長くなってるので気のせいですかねぇ?」
ミラーが指摘した男の方を見ると確かに汚れているが顔が他の者たちと異なり疲れ切っていない。だからこそいまエイダーに噛みつくように話をしているのだろう。なぜなのか見ていると袖から光るものが見えた。
「エイダー、離れて! 袖に刃を仕込んでいるわ」
男は、縄を切り立ち上がるとエイダーに切りかかった。とっさのことで逃げ切れるのかとエルメスから声にならない叫びがでた。
「くそ! なんだこいつ」
「イムカン」
イムカンが男の腕に思い切り噛みついた。男が護衛達に捕らえられるまで離れず噛みついていた。
「イムカンありがとう」
「みゃーぁ」
イムカンがいなかったらエイダーは、怪我していただろう。こうなることをイムカンは、予想してついて来たのだろうか。
なら今度は、エルメスがエイダーを助ける番だろう。
エルメスが男の前に進み出るとエイダーが引き止めようと腕を掴む。心配いらないと微笑むと掴んだ手の力が緩くなった。
「なんだお前」
不尊な顔でエルメスを睨みつける男に扇を向けた。
「雇い主にいくらで雇われたのかしら」
「は?」
「情報を出すならお金と身をすのに十分な金額と伝手を出すと言っているの。こんな場で信じられないでしょう? コレご存じ」
エルメスが手に出したのは、緑の宝石があしらわれたネックレスだ。
「新緑の芽吹き…なぜ俺に」
「私、これでも本を読んだり調べるのが好きでしてね。古き良き砂漠の民がエメラルドを神聖視していると知っていましたの」
令嬢として生活する上で必要な知識ではないけれど帝国は、多民族国家なので小さな理解でも大きなことがある。実際に目の前の男の目から敵意が消えて子どものように魅了されている。
「これを約束として差し上げます」
「これは高いだろう」
「私には、この宝石より得難い人が出来たの。その方を守る為なら金額は、気にしないわ」
男は、エルメスとその背後にいるエイダーを見比べ頷いた。
「白月の民にとって緑の宝石は、特別だ。白月の民、ハザイの子ハザールが話すと誓う」
「エルメス·シュルプリーズが聞きますわ」
「はっ? あんたがシュルプリーズ」
男が呆気にとられた顔をしたのだった。




