35.出来ることは増やしたいわね
宿から出発すると護衛達は、険しい顔をしており物々しい雰囲気になっていた。
「とても厳重ね。物取りにあったら危ないからなのはわかっているけれど」
「母さん、僕達は自衛する方法がありませんから突破されたら終わりだからと護衛の人が話してくれました」
子どもということでルイは、護衛の人たちに可愛がられていた。昨日の宿でも普段どんな仕事をしているのか興味津々で聞いていて微笑ましく見ていた。
「そうね。お金と知恵があるけれどこういう時に剣は強いわね。エルメスやっぱり閣下が心配?」
「今日も一緒の馬車に乗るのだと思っていたのにいないなんて」
エイダーも守られるべき立場のはずなのに、馬を借りて馬車に並走して走っていた。馬車の小さな窓から見えるエイダーは、凛々しくて大変な状況だというのに胸が高鳴った。
「夫を待つ妻は、大抵そんなものよ。私もルイを妊娠中は、商会の仕事をグッチに任せて家にいたけど帰りが遅いと心配したわ。危ないことがないか、浮気してないかとか」
「兄さんに限って浮気はないでしょう」
「それでも待つしかないし、愛しているから気になるの。ね?」
愛しているから気になるというのは、今ならよくわかる気がした。ジャンが何をしていようが世間体が保たれるのと借金がなければよいと思っていた。でもエイダーに同じことは出来そうにない。
「どこの奥様も似たようなものね。だからアタシは、旦那が帰りたくなるようにうんと綺麗見える服を作りたいわ」
「いいわね。その心意気、シュルプリーズ商会で服飾部門作ろうかしら。ミラーさん、やってみない?」
「大きい所だと面倒ですね」
「高い素材もうちの本店で取り寄せ出来るし、人材はゼロだけど軌道に乗るまで資金はだせるわ」
シャネルの顔がとてもやる気に満ちているのでミラーが首を縦に振るのは早いと思う。エルメスが口を開いた時外から金属同士が当たる高い音が聞こえた。
「襲撃されていますわ。静かに背を低くして」
外から中が見えないように馬車の窓が閉まっているか確認した。馬車に乗る時にエイダーから中の人物が子どもと女性とわかると狙われやすいと注意されていた。
「何も出来ないのはやだな」
「ルイ」
「わかってる。けど僕は、自分の身を守れるようにしたい。お母さん、王都についたらそういう勉強をさせて」
ルイは力強い瞳をしており、エイダーは子どもの成長は早いと感じていた。剣戟の音は次第にやみ、護衛達の声が聞こえてきた。
あと少しでこの襲撃が終わりそうだと安堵していると窓ガラスが割れた。
「大丈夫、耐えるのよ」
悲鳴をあげたくなるのを抑え、言い聞かせるしかない。それは皆に対してか自分にかわからないが。
「エルメス、もう大丈夫ですよ」
割れた窓から笑顔のエイダーが顔を見せた。それだけで泣きそうになるがまだ終わっていない。皆に怪我はないか確認してエイダーに伝えた。
「物取りが最後の足掻きで馬車に石を投げつけたので焦りました。安全は、確保したので一旦降りてください。ガラスをとらないと」
一人ひとり外に出して最後に馬車を降りようとすると膝に力が入らなかった。どうしたものかと思うとエイダーは、エルメスを横抱きにした。
「重いでしょ」
「それほどでも。…でもそうですね、首に腕を回して貰った方が楽です」
言われた通りにすると顔がとても近い。エイダーの方が背が高いのでこんなに近いのは、珍しい。
「こんなに恥ずかしいとは思いませんでしたわ」
「元気そうで何よりだよ」
適当な木に座らせられると人心地がついた。身体についたガラスを落とす。
「エルメス、どこか怪我したの?」
シャネルとルイが来たのを確認するとエイダーは、捕らえた物取りたちの方へ向かうのだった。




