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外伝.都合が悪いのだよ

 皇宮の奥、皇帝の執務室で皇帝が書類に目を通していた。御年四十五となり顔に皺が増えたものの鷹のような目の鋭さは変わっていなかった。


「陛下、第一皇子がいらしてますがお通しますか」

「あの件だろう。よい、通せ」


 部屋に入ってきた第一皇子ナルソスは、髪色こそ皇帝と同じだが顔立ちが母親に似て優しい。しかし一番狙われる第一皇子という立場にも関わらず兄弟を束ねる姿を見れば見た目そのままではない。


「帝国の父にご挨拶申し上げます」

「うむ、それで何用だ」

「アフェクシオン侯爵とシュルプリーズ令嬢の婚約を承認しなかったのですか」

「この両家が繋がれば血筋と資金を得た家門が出来る。力をつけて帝国から抜けられては困るのだ」


 この程度のことがわからない子どもではない。他の懸念があるなら吐かせた方が方がよいだろう。あと数年で皇帝から降りて次代に譲ろうと思っている。ただ皇帝から降りるだけでなくその上の位を準備し、書類作業を皇帝に投げる予定だった。そのためにもある程度仕える人材でなくてはならない。


「なおさら問題ではありませんか。婚約出来ないのを理由に帝国から独立すると騒ぎかねません」

「利益でつながった関係は、利益が出なければ破綻する。あの領地は、ここから遠い。その間にどちらかを崩せばいいだろう」

「その程度で終わると思いますか」

「そんなものだろう? とくに女と男はな。お前の母とて俺が皇帝になったから大人しくしているに過ぎない。俺の兄弟が皇帝になっていたらその兄弟の妻になっていただろう」


 前の皇帝が病に倒れ兄弟で帝位を争った。その時に婚約していた令嬢に裏切られた。ナルソスの母は、皇帝になるときに一番の後ろ盾の家門だったから選んだに過ぎない。そこにあるのは、利害関係だけだ。


「だとしても皇帝が介入したとなれば騒ぎになるでしょう。何をするおつもりですか」

「コレールの息子がちょっかいをかけているらしい。それを利用する。あれの父親は、実直で悪くなかったが息子の方は駄目だ。欲が強すぎる。切り捨て時だ」

「そうですね。最近は、ドレスが作れないように摘発するという馬鹿な真似をしているようです」

「救いようがないな。だから使い捨てに丁度良いのだが」


 つい酒が飲みたいと思い手が空を掴む。酒は判断を鈍らせる息子とはいえ酒で口が軽くなるのは困る。


「聞きたいことは聞いただろう。部屋から出ろ」

「えぇ、充分です。失礼いたします」


 ナルソスは、もう用がないとばかりに部屋からあっさり出ていく。皇帝から見てナルソスは、優秀だが何を考えているかわからない。

 内容を話したのは、今回の出来事でナルソスを見極めるつもりだったからだ。


「手を出さないのもよい。悪くしても良くしても俺が得をする。どうなるかな」


 皇帝は、一人きりの部屋で笑い続けるのだった。

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