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04.あなたは悪くない

「準備が出来次第出発すると聞いていたがそろそろ来てくれるだろうか」

「エイダーよほど義理がない限り今の侯爵領に来ようとする令嬢はいないだろ。秘伝の薔薇を見せたからって来てくれるなんてナイナイ」


 側近たちが呆れて話していると門の前にシュルプリーズ家の先触れが来たと連絡があった。側近たちの制止を振り払って門へ行くと半刻程度で着くという連絡だった。先触れにお茶を出させるように伝えると、居てもたってもいられず歩き回る。


「ちゃんと来るのは、わかったので落ち着きなさい」

「わかってはいるのですがね。それでも気になって」

「そこまで気にするってどんな美女なのかしら」


 馬車の音が門の向こうから聞こえ近づけばシュルプリーズ家の家紋が見えた。門を開けて出迎えれば、フットマンが扉を開けて中からエルメスが降りてきた。


「ようこそ我が家へ。来てくれて嬉しいです」

「ありがとうございます。まさかこんな場所で待っているとはお暇ですの? あなたにはやるべきことが多いのではなくて」

「側近のアルノーという。失礼を承知で言うが、言い方がひどいんじゃないか。あんたが来るのをどれだけエイダーが待っていたか」


 側近のアルノーが、エルメスに食ってかかろうとしたのを引き止める。主人思いなのは良いが猪突猛進過ぎる。


「それくらい知っております。でもそれ以上に侯爵に助けを求める領民が多いのではないですか。民を思いやれないような方に嫁ぐ気は、毛頭ありませんわ」

「エイダーは、いつも領民思いだからこんな時くらい」

「言葉では、いくらでもいえますわね。そういうところを私は見たいですわ。それに日中働いて夜休んでほしいですし。まさか昼も夜も働いていませんわよね」


 エルメスが扇越しに見つめて来て、エイダーは照れていたが他の側近は冷汗をかいていた。


「夜は、体を休めて家族との時間を大切にしてくださいませ。時間と家族との時間は、いつまでもあるものではありません。それに本当に正念場の時に体が不調では、本来ある力が発揮出来ないものです」

「仰る通りです」

「アルノー様、ご家族は? 大事な方は? 最後にしっかりお話ししたのはいつですの。きっとわかってくれるというのは幻想ですわよ。その結果、離婚された私がいうことではないのかもしれませんが」


 エルメスの伏せられた瞳に涙は見えない。しかし泣いていない人が傷ついていないなんてことはないと思う。なんせ泣いていないエイダーの胸が痛いのだ。


「エルメス嬢は、悪くない。貴女は、貴女が出来る一番よい方法をとったと思っている。それにもし違うのならばそれを諭すのは伴侶だった伯爵の役目だ。私が断言する」

「断言までしてしまうのですか」

「私ならばそうするし、そうしたいと思う。だからそうだな。エルメス嬢の言う通り昼間しっかり働いて夜は、ゆっくり話せる時間を作りましょう。あっ、でも婚約もしていないので二人きりになるようなことはしません」


 エイダーが慌てて補足するとエルメスが声を出して笑った。淑女として振舞う姿しか見たことがなかったのでとても意外で驚く。快活という言葉が似合う笑顔に目を追ってしまう。


「このようなデブにそのような心配をなさるなんておかしな人」

「どのような姿でも貴女は魅力的ですので」


 しっかり働いてエルメスとの時間をしっかり確保しようとエイダーは誓った。

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