30.煮てしまうと案外わかりませんわ
「エイダー、ご機嫌だな」
「エルメスにどんなドレスを着てもらおうかと思ってね。やはり華やかで知的な面を出したドレスがいいだろうか。それとも可愛らしい妖精のような無邪気さを全面にもよいか」
最先端の技術を知っているであろう王都の服飾師に任せるべきか。それとも領内の服飾師に任せてもよいかもしれない。お金をまわすのが好きなエルメスなので領内の生地や織りなどを使った独自のドレス作りも好きそうではある。
「熱だけじゃなくて頭でもぶつけたか? アレのどこが無邪気だ」
「今日の薔薇を見たエルメスがかわいくてね。あの薔薇をイメージしたドレスもいいな。ベージュと黄色の中間色に真珠とか」
「真珠? もし使うなら早めに依頼しないと間に合わないぞ。穴の加工は熟練しか出来ないってきいたぞ」
「いったい誰に聞いたんですか」
「下町の奴と飲んだ時に彼女がそういう加工の仕事してるって話を聞いたんだよ。なんだその顔」
「そういう話をする友人がいるんだなと少しうらやましく思っているんですよ。本当に貴族というのは面倒ですね」
カルノーとは、友人としての付き合いがあるものの立場の違いがあり相談出来ないことも多い。本来ならば社交界でそういったことを学ぶのだろうが両親の急逝がはやく帝都から遠いので二の次にしていた。
「俺がいるだろ。それと良さげな貴族をエルメスに聞けばいいだろ」
「僕を出汁にしてエルメスに近づく男がいたら嫌だ」
「そんなもの好きお前くらいだよ。って言ったからって怒るなよ。俺は、サージュが一番だって知ってるだろ。いたたっ。何すんだサージュ」
「旦那様に向かってなんてことをいうんですか。恥ずかしいったらないわ。旦那様、お食事の用意が出来ました」
サージュがカルノーの耳を摘みながら引っ張っていく。痛そうだが照れ隠しなのでカルノーも怒らず引っ張られたままだ。
二人が共にいるのをみるとエルメスとああいう風に戯れたいなと思う。エイダー達が食堂に着くとエルメスが顔を輝かせた。
「エイダー、今朝より顔色が良さそうだわ」
「午前中に仕事をしないでゆっくり寝るなんて初めてだから少し落ち着かないです」
「それでももう少し休んだ方がいいですわ。寝る前に読み聞かせいたしますわ。私が具合の悪い時に姉がしてくれましたの」
「何を読んでくれるか楽しみですね」
会話を愉しんでいると、ボレが料理を運んできた。今日は、来客の予定がないのでカルノーとサージュも誘って昼食を食べることにした。
「仲が良さそうで何よりです。そんな仲良し向けにエルメス様とサージュ特製パスタを使った料理です! ご賞味あれ」
エビとキノコのスープの上にファルファッレが飛んでいるような華やかなパスタ。色鮮やかなコーンとブロッコリーと巻貝のような見た目のコンキリエも美味しそうだった。
「このパスタをエルメスが作ったんですか」
「私だけでなくサージュもですが作りましたわ。少し歪になってしまったのですがこうなるとわかりませんわね」
「僕は、エルメスの手料理が食べれるだけで嬉しいよ。ありがとう」
ボレの料理は、いつも美味しいが今日は一際美味しく感じる。
「エイダーに感謝を伝えたくて作ったのに逆に感謝されると…照れますわ」
顔を扇で隠しているが声の調子で本当に照れているのがわかる。こんなに可愛い人と離婚した伯爵は節穴だ。
「なんですのそのお顔。笑っていないで温かいうちにしっかり食べていただきたいですわ」
「そうだぞエイダー、スープ一滴でも残さず食べるべきだ。ボレおかわり」
皿が洗い終わったかのようにピカピカになっている。どうやら皿をパンで拭ってスープを食べたらしい。
「あなたは、自重して下さい。サージュに嫌がられますよ」
「いやだて嬉しくてうまくてさ。エイダーもそう思うよな」
「はい」
この料理は、領民や屋敷の者たちがいるから食べられるものだ。そこへさらに婚約者が作ってくれるなんて、昔の僕なら思ってもみなかっただろう。早く元気になりたいなとも思うがもう少し甘えたいとも思う。
「私がエイダーのために作ったのですから少しは残しなさい」
「僕は、一皿でいっぱいだよ。また作ってくれないかな」
前の僕ならそんなことを言わなかったと思うけれど甘えてよいし自信を持てと言ってくれた。
「もちろんですわ。ボレ、私でも大丈夫なものを考えておいて」
「お任せください! この愛の伝道師でもあるボレにお任せください」
「いつそんな肩書を持ったんですか。ボレ」
「料理は、愛情ならば料理人は愛の伝道師でしょう」
自信満々に答えるボレがおかしく全員で笑った。このままエルメスと結婚して子どもが増えればますます賑やかになるだろう。
エイダーが、未来の願いを考えられるようになったのはエルメスのおかげだと思うのだった。




