28.ちょっと昔の話をしようか2
だいぶ時間が経過してもうしわけありません。週1目標で頑張りたいと思います。
連れて来られた場所は街の中の一軒家だがボロボロで人が住めるような状態ではない。床には穴が空き、傾いた扉の隙間から夕焼けの明かりが指している。時々見張りの男がその隙間から見ているので変な真似は出来そうにない。
「ねぇ、ねぇってば」
「どうしたの」
一緒に捕まっていたのは、エイダーよりも幼い綺麗な子どもだった。黒い髪と強気な瞳が父親から聞いていた家宝の黒曜石のナイフのようだ。
「なんで大人の人を連れてこなかっちゃの。あなたまで捕まったわ」
「急がないと君の声が聞こえなくなると思ったんだ」
「助けようとしてくれてありがとう。でもあさはかだわ」
少女に言われなくともエイダー自身もっと方法があったと思う。エイダーの護衛でなくとも広場にいた大人に言うとか、アルノーにオンラードへの言付けを頼むというのも出来た。
「ちょっとそんなに落ち込まないで。助けを呼んだのは私よ。聞こえて助けに来てくれただけでも安心したもの」
「でも捕まったら意味ないよ」
「困った時はウジウジしないの。真っ直ぐに前を向いて助けてって言うの」
「こんな助けなんていない場所で?」
「それなら助けてくれる人を探すのよ。隣の御婆様が言っていたわ」
少女は、手を縛られたまま器用に立ち上がり部屋を歩き回った。とても逞しすぎて唖然としていると壁に駆け寄った。
「ちょっとこっちちて」
「動けないよ」
少女と違いエイダーは、手の他に足も縛られていて立ち上がれそうにない。
「たしかにそう。壁に腕が入りそうな穴があるの。向こう側には犬がいるわ。何か咥えさせて人を呼ぶの」
「犬は、危ないよ」
屋敷にいる番犬たちは、屋敷を守るための犬種のため人懐っこい性格ではなく調教師と当主であるエイダーの父の前以外では牙をむく。だからエイダーは、犬という生き物がとても怖かった。
「私は、扉の前の人間の方がこわい。パパがだいたいお金で解決出来るけどあくいを持った人にお金は効かないって。お金よりもあくいが大事だからって。でも犬は、ご飯をくれた人には優しいよ」
「そうかなぁ」
「そうなの! だから今これあげてお願いする」
少女は、どこからか干し肉を取り出すと穴から外に投げた。
「そこのわんちゃん! もっとおいしいお肉あげるから誰か呼んできて」
少女の言葉に犬が答えるように吠えたのが信じられなかった。エイダーからどんな風になっているのか見えない。
「いい子だわ。そういえばお兄ちゃんお名前なんて言うの。私は、エルメシュといいましゅわ。将来は、パパみたいに立派な商人になっていっぱいいいのを売るの」
とても口が達者のようだから、少女が商人になるという夢は叶うのではないだろうか。
「僕は、エイダー。君は、将来商人になりたいんだね。僕より小さいのになりたいものが決まってるんだね」
「エイダーは、なりたいのないの」
「なりたいけどなれないかな。僕、太ってて鈍臭いから」
領主が身体が資本だとエイダーは、思っているが低い身長と生まれつきぽっちゃりした身体をしているからすぐ疲れてしまう。
「私より大きいのに知らないの? 本当のノロマなら私のために走ってくれたりしないわ。エイダーに足りないのは、なんだろう? 自信かしら?」
「自信…」
確かに自分に自信などない。でもゆくゆくは父やご先祖たちのようなよい領主になりたいと思っている。家族や先生が褒めても優しさで言っているようにしか思えない。
「なんとなくだからね! だって初めて会ったわたくちにもおどおどしてるんだもの。わたくちを見てどうどうとちてるでしょ」
「そうだね。すごいなぁ」
「そうわたくちは、すごいの! すごいわたくちがおまじないを教えてあげる。心して聞くのよ」
自信満々な笑みを見て不思議なほど元気が出てくる気がした。
「まずは相手を褒める。なんでもいいわ。エイダーは頑張れるのがすごい! ほら言ってみて」
「エルメシュは、かっこよくてすごい」
「うわぁ、かっこいいって初めて言われたわ。そして次は、自分を褒める。エルメシュは、賢い! やってみて」
「思いつかない」
相手のいい所は思いついても自分の良いところがわからない。
「それじゃあ、わたくちが言ったこと言って」
「僕は頑張り屋ですごい?」
「もっとはっきりいうの。良いことなんだから恥ずかしがらないで」
「僕は頑張り屋ですごい」
「もっと元気よく」
「僕は頑張り屋ですごい!」
「その感じ、いいわ」
その後お互いを褒めあうことをずっとしていた。
「記憶にないのだけれど、その後どうしたのかしら」
「犬が大人をつれて戻ってきたよ。それで僕達は保護された」
「あら私、犬に美味しい肉をあげてないわ」
「護衛の一人が犬を引き取って数年前に亡くなったよ。犬のお陰で首がなくならずにすんだといってね」
晩年犬は、肉を食べすぎてだいぶ肥えたというのは蛇足だろう。
「僕は、君ともっと話したかったけどそれどころじゃなくなってね。いろんなことがあったけど君が言うように自分を褒めると明日も頑張ろうって思えたんだ」
「色々ってまさかご両親が亡くなったのは」
エルメスの血色のよい頬が一瞬で白くなる。
「僕が保護された次の日に知らせが届いたんです。両親が亡くなった以上にこれからどうすればよいのか途方にくれました。食い物にする親族がいなかったのは幸運でした。ですが頼れる親族もいないですからね」
エルメスも両親を亡くしているが姉のシャネルがいて信頼出来るグッチもいた。幼く、自信がなかったという少年が侯爵領を継ぐのは心細かっただろう。
回された手を見ればペンダコや外回りで出来たであろう日焼け跡が見える。
「エイダー、あなたの苦労に見合う言葉ではないとおもうのだけれど頑張ってきたのね。周りが助けたいと思うのは誰よりも頑張っているあなただからよ」
「そうかな」
「あら過去の私が言ったそうじゃない? 自分を卑下するのはやめなさいな。その方がきっと明日が楽しいわ」
エルメスが笑うとエイダーも釣られて笑った。よほど面白かったのかエイダーは、声を出して笑っている。
「本当、君には敵わないよ。君のそういう所好きだな」
柔らかく笑うエイダーに妙に気恥ずかしくて部屋を飛び出したくなるがもう二度と言わなくなるかもしれないので耐える。
「ずいぶん素直ですわね。熱でもありますの?」
エルメスは、茶化すつもりで言ったのだが体温が高く顔も赤い。何も言わせずおでこを触るととても熱かった。
「熱があるじゃないの! こんなことしてないで寝なさい」
「もう少しエルメスといる」
「何言ってるの! 黙って寝なさい」
エイダーは、ベッドに追いやられているのにニコニコと機嫌よさそうに笑みを浮かべている。熱があるせいで頭がおかしくなっているとしか思えない。
「エルメスも寝るなら寝る」
「未婚のままでは寝ません!」
「なら結婚して」
妙に甘えてくるのでエルメスは、非常に調子が狂う。
「……考えておくわ。ほらちゃんと温かくして寝てくださいな」
「わかったよ。おやすみ」
エイダーは、横になるとすぐ健やかな寝息で寝だした。
「あー、やっぱり疲れ溜まってたか」
「アルノー、入室を許可していませんよ」
「これでもギリギリまで耐えてたんだ。それに就寝の準備をさせるのにベルで起こすのも悪いしな」
寝ているエイダーとエルメスを見てため息をつく。
「それに、まだ婚約しかしていないのに一晩明かしたとかゴシップに書かれたくなかったら俺がいた方がいい」
「意外だわ。でも、そうね。あと少ししたら自室に戻るわ」
「心配なら夜明けくらいに起きてくれ。いつも薔薇の世話をしているから」
あまりに親切過ぎて気持ちが悪いくらいだがバレる嘘をいう男ではないだろう。
「ありがとう、そうするわ」
何がアルノーの琴線に触れたのかわからないが、これからエイダーの近くにいるなら必要な人材だ。せめて領地にいる人たちの信頼は得ておきたいものだった。




