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03.親切な申し出には下心あり

 エルメスは朝起きて窓を見ると、外はとても眩しいのだと思い出した。それはとても自由で不安で期待が持てる朝だった。


「久々に商会に顔を出してみない?」


 朝食の席でシャネルがなんてことないように言ってきた。


「一度は外部の人間になった私が行ってもいいのかしら」

「何言っているのよ。他所に行っても家族のままに決まっているでしょう。それに相談したいことがあってね」

「そこが本音でしょ。姉さん」

「バレた?」




 場所は、変わり帝都で最も賑わう商業地区の一等地に建つシュルプリーズ商会。その商会長室には、エルメスとシャネル、グッチが対面していた。


「これなのだけれど前々から準備してたようなのよね」


 シャネルが出したのは、領地からの撤退命令の通知書だった。領地名はコレール領でサインしたのは元夫ジャンだ。


「散々甘い汁吸っておいて嫁が要らなくなったら実家ごと捨てるとか。信じられないわ」

「お姉様、あの人はシュルプリーズ家が穀物の流通価格を下げてたことをわかってないのよ。報告書をきちんと見ればわかるのに」


 コレール伯爵領は、主要産業である牧畜と宝石が伸び悩み領地内の経済が低迷していた。経済が低迷すれば従業員を雇う数が減り、雇用が減れば支出を減らそうとして買い渋りが起きる。そうすることで更に領地の経営が低迷しその日に食べるパンに困るものが出るのだ。


「あー、名家の坊ちゃんだから自分が食べているパンの値段もわかっていなそうね」

「そうなの、帝都の屋敷の一切合切を執事長の息子に任せっきり。本当は、私が采配すべき事だけど、領地がね」

「それでも領地の予算管理や人員配置は、伯爵の仕事よ。一般的な貴族家だとそういうものでしょう。皇帝に誓約するもの」


 貴族家当主になって必ずするのは、皇帝への忠誠と領地の運営を正しく行うと誓約すること。領地はあくまで広い帝国国土を持つ皇帝が直接統治が出来ないため、貴族に領地を任せているに過ぎない。


「まぁ、協力関係にある商会があの土地にはあるから情報が得られるからいいんだけどね」

「あの商会ですね。規模こそ小さいですが商魂がたくましいので荒波にも耐えるでしょう。私も今離縁されるとは思っていなかったから」


 今は、春なのでコレール領では牛の出産時期にあたる。元気に子牛が産まれるように皆神経を尖らせていた。


「私は、近々離縁するだろうと思っていましたが予想以上の速さですわね。騎士団長の頭は筋肉で出来ているのではと疑いますわ」

「シャネル。ここに人はいないけど、いつも言っていることは、態度に出やすくなるから気をつけた方がいいよ」

「あら、そうね。ありがとう旦那様」


 商会を切り盛りする姉夫婦の仲が良いことはいいのだが、ソレを目指して離婚した身では何とも言えない。過去を振り返れば夫婦として支え合うということが出来たかもしれないと、思う所もあったが領地経営が引き返せない所まできていた。


「それで、仕返しするでしょ」

「もちろん。シュプリーズ家の家訓は、『受けた恩は、十倍返し。裏切りは、百倍返し』。そのままでも一年位で勝手に自滅するけど、領民が可哀そうだから半年で決着をつけさせましょう」

「あら、エルメスは優しいわね。具体的には何をするつもりなのかしら」


 家族との会話を楽しんでいるところに戸惑った表情の執事が入ってきた。


「奥様、旦那様。エルメスお嬢様に御来客が来ておりまして」

「エルメスがここにいるって知っている人なんていないはずだけど」

「アフェクシオン侯爵がこちらと手紙をお渡ししてくださいと」

「まぁ、この薔薇を」


 ヒダがある白い虹の光沢を持つ華やかな薔薇が一本。

 エルメスは、アフェクシオン侯爵が天候不順とそれを挽回するための貿易で借金まみれになっていることを知っていた。しかしこれがエルメスが知っている薔薇なら一考の価値がある。


「本人は、まだいらっしゃるんですよね」

「はい」

「いってくるわ」


 待たせていた客室には、落ち着きのない男が座っていた。余裕な態度をしていれば切れ長の瞳と眼鏡の効果でとても侯爵らしいというのに笑えてくる。


「アフェクシオン様、お待たせしまして、申し訳ありません。エルメス=シュプリーズお呼びと聞き参上しました」

「あの、その、突然押しかけて申し訳ありません。離婚されたと聞いて次の縁談がまとまる前にと気がせいて」


 侯爵なのだからもっと偉そうにしてもいいだろうに非常に腰が低い。


「なぜ当主である姉に縁談の話を持って行かなかったのですか。私は、一番良い縁談に嫁ぎますよ」

「正直侯爵とは名ばかりで金も権力もありません。それに何かあれば領民を一番に考えてあなたを蔑ろにすると思います。それでもあなたを愛しています」


 エルメスは様々な人間を見てきたがアフェクシオン侯爵は、とても貴族らしくない男だと思った。腹芸の一つも出来ず嘘も偽りもない。だがそれがおもしろいと思う。きっとこの男の周りにあつまるのは、この男が善人であるために有能な人物だろう。


「あなたの愛を受け取るかはともかく。あなたには興味がありますわ。連れて行ってくださる。あなたの領地に私を」

「それは、プロポーズを受けてくれるということで」

「ご自分で仰ったでしょう。今の自分では選ばれないと。努力してくださいまし」

「はい、頑張ります」


 エルメスは、まだアフェクシオン侯爵領がどんな場所か期待していた。

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