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23.ピクニック

 湖の方へ戻れば大きな天幕の下で寛ぐカルミヤとその後ろで睨み合っているカルノーとアシビ。そして暑さのあまりウルフがぐったりしていた。


「あらぁ、もっと時間がかかるかと思っていましたわ。こことても素敵な所だもの」

「お褒めにあずかり光栄ですが私の部下とそちらの護衛は何をしているのでしょうか」

「私がサージュさんを気に入ったのでお店に来ないとお誘いしたら俺の嫁を連れてくなと怒られてしまいましたわ。サージュさんずいぶん愛されているのね」

「そのようですね」


 サージュは、顔を赤く染めて手で押さえている。先ほどのことを相談しようと思っていたが相談し合うことになりそうだ。


「それでね、喧嘩腰だったからアシビが怒っちゃって。アシビそろそろやめなさい。大事な奥さまに娼館勤めを勧めたらまともな男なら怒るものよ。もう、拗ねないの」

「確かに大事な妻を進んで働かせたい場所ではないでしょうね。女性を目的とした男性が多く訪れるからでしょうし心配なんですよ」

「そうよねぇ、申し訳なかったわ。お詫びとしてエルメスの昔話をしましょうか」


 お詫びとして話されるような内容の昔話などあっただろうかとエルメスが考えていると、エイダーは首を横に振った。


「それには及びませんよ。エルメスの話はエルメスから聞きたいと思います」

「まぁまぁまぁ! 誠実でもあるのね。エルメス、侯爵は絶対に離しちゃだめよ。後で秘伝書を渡してあげるわ」

「いったい何を言っているのカルミヤ」

「今度こそちゃんと愛せる人と一緒になりそうで安心したということよ? 新年会には王都にいくのでしょう。やられたままなのはあなたらしくないわよ」


 ジャンへの仕返しは、多額の慰謝料の支払いと稼ぎ頭がいなくなったことによりそろそろ痛い目に合うはずだ。裏社会や貴族とのパイプが複数あるマドンナのカルミヤなら知らないはずがない。


「たぶんどんな姿の貴方でも愛してくれるでしょうけど、どうせなら逃した魚がどんな大物だったのか知ってもらわないとね。磨けば私並みに光るわよ」

「私もそう思います。エルメス様をもっと磨きたいと思っていたんです」

「そうよねぇ。でもあの伯爵のとこにいた時より痩せてきてて健康的な顔色になったからもう少しどうにかしたいと思うの」


 サージュとカルミヤが美容や健康の話で盛り上がっている。話半分に聞いているとエイダーの視線が気になった。


「何かありましたか」

「ここがこんなに賑やかなのは久しぶりだと思いまして。いつも私と護衛だけでしたから」

「また連れて来てください。今度はボートを漕いでみるのも楽しそうですわ」


 凪いだ湖畔は、ボート遊びに最適そうだ。


「ボートは、子ども以来ですね。カルノーと乗りました」

「エイダーは、漕いでないだろう。水の中の魚を見るのに夢中で落ちたし」

「そういえばそんなことがありましたね。銀色の大きな魚が見えたので主だと思ったんですよ。手を伸ばせば掴めそうだったんですが」

「エイダーでもそういうことをするのね。他にも聞きたいわ」


 それからそれぞれ昔話をして食事をしたあとアフェクシオンの屋敷に戻った。


「エルメス、私明日の朝に王都へ帰るわぁ。伯爵と違って閣下は、とても良い方だしベタ惚れそうだわ」

「えぇ、エイダーはとても大切にしてくれてるわ」


 自室の花瓶には毎日白バラが増えるので花束のように見える。そのことを話すと素敵ねと言ってくれたのが嬉しい。


「不変の愛というのも素敵だけど一日一日貴方が好きだと伝えるのもいいわぁ。昨日より明日もっと好きでしょう?」

「えぇ、そう思えるわ」


 エルメスとカルミヤは、しばしの別れを惜しむように抱きしめあった。エイダーは、とても仲が良い友人がいるのに安心するが少し面白くない。


「アクフェシオン侯爵閣下、カルミヤは本名で芸名はマドンナなのですの。貴族で対処出来ないお困りのことがあったらこのハンカチを持って相談にいらして」

「マドンナ? まさか魔女マドンナ」

「魔法を使えないのに魔女だなんておかしいですわよねぇ。少し色々な方の噂を聞く機会が多いだけなのですわぁ。それでは皆様ご機嫌よう」


 カルミヤは、馬車で出発してしまった。


「エルメス嬢、彼女がマドンナだと知っていたのですか」

「はい、先代のマドンナも知っていて世代交代したのも見ましたわ。私たちは、力がないのでお互いの情報が命綱でしたからよい協力関係でしたの」


 マドンナとは王都で一番と呼ばれる娼館デセールの最上級の女性に贈られる芸名だった。ただ美しいだけではなく話題の豊富さや接客態度まで多岐にわたり出来なければならない。


「ジャンが浮気しているのもカルミヤから聞いて証拠も貰いましたの。おかげで有利に離婚出来ましたわ」

「お互いが協力者ということですね」

「そういうことですわ。貴方にとってのカルノーみたいな感じでしょうか」

「納得しました。さぁ、日が暮れましたから屋敷に入りましょう。これからの時間は、僕にくれるのでしょう」


 エイダーは、手に口付けて目を合わせただけなのにエルメスはとても気恥ずかしくなった。


「えぇ、もちろんですわ」


 動揺を隠すように言葉少なに答えたが熱くなった手で全てバレているような気がした。


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