22.報告したいと言うから
エルメスの頬に強い日差しが当たるが、湖から吹く風が涼しく心地よい。
「美しい湖ですわね」
「本当は湖ではなく貯水池なんです。初代侯爵がこの砂漠に水のオアシスをつくってこの地域の生き物や生活に必要な水の確保をしたんです。それ以来ここは、アクフェシオン侯爵家で管理しています」
「雨の日が少ないのにどうやって水を確保しているのかと思っていたらここから引っ張っていたのですね。とても重要な場所だわ」
「えぇ、今日はピクニックと定期確認をしに来たんです。カルノー、サージュお客様を頼みます」
二人は、しっかり返事をするとピクニックの準備を始めた。
「ごめんなさいね。突然の客人で」
「いいえ、エルメス様のお客様なら私たちの大事なお客様です。こちらにおすわりください」
「ありがとう」
サージュとカルミヤは、にこやかに会話しているがカルノーとアシビが日よけのテントをどうやって張るのか口論していた。あまりにうるさい時は、サージュとカルミヤが止めるだろう。
「エルメス嬢、準備が終わる前に来ていただきたいところがあるのですがよいですか」
エイダーは、穏やかでしっかり顔を見せてくれるのに伏せがちでとても不安そうに見えた。エルメスが断ってしまうと思っているのだろうか。前ならどこに行くのかなぜ行くのか聞かなければ付いていこうと思わなかっただろう。
「ええ、行きましょう」
短い期間ではあるけれどエイダーの誠実な人柄とお人好しなところが好ましく思う。だからジャンの手を離したこの手を他の手に重ねたいと思う。
連れてこられたのは、少し離れた丘になっている場所にあるお墓だった。綺麗にされているが欠けがみられ古いもののように思える。
「アクフェシオン家の墓です。初代からずっとここに入っていて僕の両親もここに」
「そうなのですか。ここは、とてもさみしい場所のように思えますわ」
「初代アフェクシオン侯爵が自分が亡くなった後も領民の命を育む水場を守りたいとここに墓を作ったという手記が残っています」
「代々領民思いの一族なのですね」
改めて周辺を見れば鳥や小動物などが水辺を求めて訪れている。人がいない静かすぎる場所と思っていたが認識違いだったようだ。
「ここにお連れしたのは父上と母上に僕の大事な人を報告したかったんです。二人が亡くなったのが今日だったので。エルメス嬢へ先に説明すべきでしたのに申し訳ありません」
エルメスは、うなだれているエイダーの手をそっと握りしめた。
「私があなたからの好意を受け取るだけで返しきれてなかったからでしょう? 私は、あなたのおかげでまた人を愛し助けられると思えるようになりましたわ。だから今度は、私があなたを助けて支えさせて欲しいと思いますの」
「それはどういうことですか」
「えっ、これでおわかりになりませんの?」
アフェクシオン侯爵は、若くして爵位を継いだあとに浮いた話がないと社交界ではいわれていた。
「パートナーとして今後の人生を歩みたいと思います。前にいただいたプロポーズの返事ですわ」
「プロポーズ……受けてくださるのですか。本当に?」
「私の言葉が信じられませんの」
「いいえ、あまりにも嬉しくて。ありがとう! 出来うる限り大事にします」
抱きしめられたのは、久しぶりだった。幼い時は両親が、両親が亡くなってからは姉だった。ジャンとは手もつないだこともない。
「エルメス嬢、ありがとう。両親の前でよい報告が出来ました。エルメス嬢?」
「なんでもありませんわ! あまりにも長く姿が見えないと心配されるのではなくて」
「そうですね。お墓に報告したら戻りましょう」
そういえばアフェクシオン家の墓の前だったと思い出した。エルメスは、エイダーと同じように祈るが心臓が早く鼓動したままだった。




