表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/34

21.友人は嬉しいのですわ。でも

「はぁい♪ エルメス元気かしらぁ」


 とてもよい天気なのでピクニックの準備していると、馬車から甘い声の華やかな装いの女性が門前に現れた。その後ろには、従者が控えてうちわを振っている。


「あらカルミヤとアシビじゃないの。王都の店はいいの?」

「うーん、おかげさまで忙しいけれど親友に会いに行くより大事ではないわねぇ。それにたまにはこういう機会を作らないと後進が育たないじゃない」

「それもそうね」

「エルメス様、そちらのご婦人はいったいどなたでしょう」


 サージュが困惑顔で聞いてきたのでここがアクフェシオン侯爵家だということを忘れていた。


「カルミヤは、王都にある娼館デセールのオーナーよ。昔からの知り合いで色々相談にのってもらったりしたわ」

「だいたい私の愚痴が多かったけどねぇ。でも結婚してから連絡くれないなんて薄情じゃないの」


 結婚して忙しかったのは本当だが、心配をかけたくなく連絡が出来なかったとエルメスは言えなかった。


「貴族の奥さまって忙しいのよ?」

「それもそうね。それでいまからお出かけ?」

「ピクニックに行くの。エイダー、一緒に連れて行ってもいいかしら」

「いいですよ。大勢の方があなたも楽しいでしょうし」


 ニコニコと笑顔のエイダーだが、てっきりデートのつもりなのではないかとエルメスは思っていたので拍子抜けする。


「あらあら本当によいのですかぁ? 王都では婚約前だと聞いていたのだけれど」


 普通に領地に滞在しているが未婚の令嬢が男性の領地にいくというのは、輿入れ前の準備というのが一般的だ。結婚前から生活を共にして家族や家人などとの相性をみる。合わなければよほどの事情がなければ解消して家に帰るのだ。


「婚約前だから節度ある距離間でというのとこれで緊張しているので」

「多少はリードしてくれないと相手も不安になると思いますわぁ」

「それはご忠告として心に留め置きます。ですがせっかく親しい友人が来たのにもてなさずに帰すような彼女ではありませんし。私もエルメスの友人は大事にしたいと思います」


 なぜそんなにエルメスを気にかけてくれるのかと思ってしまう。美貌や爵位はなく性格もきつい。個人資産は、下級貴族よりも多いが侯爵家の総資産を考えれば少ないだろう。商売については詳しいがすぐに資産に影響するようなものをもっていないのがエルメスだ。

 それでも強気でいなければ足元から崩れてしまいそうで態度が崩せない。優しさが辛いなんてエイダーに合うまで知らなかった。


「それにもっと我儘を言ってもらいたいので。特に二人で行きたいなんて我儘は言っていただきたいですね」


 最初から二人でと言ってくれればいいのにと、エルメスが思ってしまうのはなぜだろうか。あの夜の会話が楽しいからかもしれない。


「なぜ貴殿がここにいるんだ」

「それはこちらの話ですわぁ。あなたとエルメスが歴史的な大勝利をおさめた裁判で帝都の話はもちきりよぉ。伯爵、とても評判がよろしくないから」

「コレール蒼獅子騎士団長ですよね。団長職は、人格がなければ務まらないのでは?」

「そうでもないわ。前伯爵が蒼獅子騎士団長だったから息子もということよ。親の七光なの」


 ジャンは、騎士家系に生まれただけあって体格がよく剣の腕もあると前伯爵が言っていた。しかしそれにかまけて鍛錬が足りず、仲間に配慮というのがない。

 王都のコレール邸に通っていた際に前伯爵の忘れ物を届けに行ったことがあった。騎士団の鍛錬を見ていくといいと前伯爵が言うので見に行けば、泥だらけになり倒れた同僚に木刀を何度も当てるジャンがいた。とても鍛錬とは思えずしかし部外者なので声が出ずにいれば、前伯爵が止めに入った。

 ジャンは、前伯爵を睨みつけエルメスを見ると舌打ちした。倒れていた同僚は、仲間に助け出されているのが見える。顔が汚れていたのでハンカチを渡すと同僚は、泣いていた。

 その後どうなったのか知らないが、コレール伯爵家の家人たちにも横柄で威圧的だったので変わらなかったのだと思う。

 

「現皇帝のお気に入りの騎士ですものねぇ。息子は息子で前伯爵ではないのに」

「本当にそうだわ。前伯爵って愛妻家で後妻を貰わなかったけど伯爵ったらうちの店のイベリスにご執心なのよ? あなたと結婚してるのに信じられないわ。こんなに面白くて知的で家族思いのいい子なのに」

「貴方とは、よい友人に慣れそうです。僕としては、照れ屋という所もよいと」

「あらあらぁ、伯爵よりわかっているじゃない」


 門扉を通してカルミヤとジャンががっしり握手している。なぜこの話題でこんなに団結出来るのかわからない。


「エイダー、そろそろ出発しましょう。お昼はあちらでお弁当をたべるのでしょう」

「そうですね」


 これ以上エルメスが話題にされるのが気恥ずかしいので慌てて出発を促したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ