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19.褒められたいと思うのは

「エルメス嬢、今日は休んだ方がいいと思いますよ。僕に義理立てすることもないんですから」


 エイダーは、最初の宣言通り仕事を終わらせて夕食後に話をするのが日課になっていた。エルメスも最初は、何を話したものかと思っていたが意外にもエイダーが聞き上手で話し過ぎてしまう。


「いいえ、今日は話したい気分ですので聞いてくださる? といいつついつも聞いてくださってますよね」

「えぇ、あなたの話は聞き逃したくないと思っています。なんせ育った場所も立場も異なるのですから書類ではわからない貴女が知りたいと思っています。だから聞かせてください」


 口元に微笑みを浮かべて穏やかな表情をしているエイダーならわかってくれるのではないかと思ってしまう。エルメスとエイダーは、違う人間なのだから本当の意味でわかりあえるわけがないのに。


「私の婚約は、両親が亡くなった後に決まりましたわ。たしか十歳だったかしら。姉の役にたちたくて貴族との縁組を考えたの。うちは新興貴族だから貴族との縁が薄いの」

「それでも元々縁があった貴族家があったのではないですか。シュルプリーズ商会の規模で貴族の紐がついていないとは思えません」

「もちろんありましたわ。でも両親が亡くなり私たちだけになったら切られましたの」


 調子がよい時は、すり寄ってきたのに蜘蛛の子を散らすように一気にいなくなった。家にいた家人の何人かがいなくなっていたけれどたぶんどこかの貴族家のひも付きだったのだろう。


「唯一助けてくれたのはグッチ義兄さんでした。それでもずっと助けていただくには弱い縁だと思いましたの。婚姻による縁ではないですし。そのころは、姉と義兄さんが夫婦になるなんて思えませんでしたの」

「ありえない歳の差ではないと思うのですが。十くらいですよね」

「はい、十二歳差です。でも父のように思っていた相手と結婚すると思いますか」

「あー、確かに私も母と思うような人物と結婚というと罪悪感というかありえない気がしますね」


 アネシス商会乗っ取り事件が解決してから結婚報告された時は本当に驚いた。二人で行動することが多かったが、一体何があったのかわからない。


「そう思うでしょう? だから婚約して婚家に援助していただこうと思いましたの。婚約してもよいと返答いただいた家の中で伯爵家が好条件でお願いしたのです」

「えっ、もしかしてエルメス嬢から」

「型破りでしょうけども両親はいませんから。それに前伯爵が、とても喜んでいたので決まってから婚約は早かったわ」


 奥さまをだいぶ前に亡くされて女主人がいなかったのと、伯爵家の財政がよくなかったので持参金目当てだったのだろう。前伯爵時代からあまり領地経営がうまくいっていなかった。そもそも宮廷伯だったコレール伯が領地を持つようになったのは前伯爵が、反乱の鎮圧の前頭指揮をした褒章で得たと聞いている。そのまえは、反乱により鎮圧された貴族が領主をしていた。


「学園を卒業するまでは、王都の屋敷に通いで行っていましたが良くしていただいていました。伯爵も伯爵家の歴史や家人を教えてくれて」


 領主としては、問題のある人物だったが人の上にたつということを理解出来ていたと思う。だから家人たちは、前伯爵を慕っていた。


「だけどジャンは、最初から私を面白く思っていなくて、理由をつけては一か月に一回会えればよかったわね。たぶん私が太っていて美人ではないからだと思うわ。私の友人に夜の蝶がいてね、ジャンが通ってると教えてくれたのよ。悲しいと思うよりも呆れたわ」

「なぜ?」

「悲しいと思うほど交流出来ていなかったからでしょうね。他人事だったのよ。その状態で結婚すると思っていなかったけれど伯爵が乗り気でしたから」


 そのころシュルプリーズ商会は、充分立ち直っていたので高位貴族の加護もいらなかったので婚約破棄も出来た。でも前伯爵が亡くなる一年前に息子と領地を頼むとお願いされてしまった。前伯爵は、ジャンが領地経営出来ないと諦めていた。


「強面の前伯爵が泣きながらお願いしてきて絆されてしまいましたの。それから結婚して領地をなんとかしようと健闘しているうちにジャンが離婚をつきつけてきたというわけです。簡単に言っていますがとても時間が経っていて私の十年ってなんだったのかしらと思ってしまいましたわ」

「いままでの貴女の人生の半分を使ってきたのに悔しいですね。その時間があればもっと色々なことが出来たのにと思うのでしょう」

「えぇ、もっと家族といたかったわ。それに」


 エルメスは、思いついたことがつい恥ずかしくて扇子で顔を隠した。


「それに?」

「褒めて欲しかったのですわ」

「なんだ。そんなことですかといいたいですが褒めて貰う機会ってそうそうないですからね。エルメス嬢は、頑張っていますよ」


 エイダーが席から立って横にたつとエルメスの頭を撫でた。思ったよりも大きい手と優しい手つきに涙がでてきた。


「泣けるときに泣いてください。貴女は、人前で泣けるような人ではないでしょう。いままでよく頑張ってきましたね」


 抱きしめられて頭をぽんぽんされてまるで子どものようだった。でも体系が大きいエルメスよりも大きい腕の中がとても落ち着くとのは、なぜなのかわからなかった。

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