外伝 噂話はほどほどに
大陸の半分を占めるスルファム帝国の皇帝が座す帝城。帝国の繁栄を示すかのように非常に広大である。広い建物を守るため蒼獅子騎士団は、存在し能力主義とはいえ十分な教育を受けられる貴族の子弟がほとんどだ。
蒼獅子騎士団長ジャンが訓練場でゲキをとばしていた。
「我々がお守りするのは、帝国の象徴たる帝城だ。恐れ多くも侵入する賊は、いないだろうが常に気をつけるように」
「はい!」
綺麗に整列した一団は、帝城を守る騎士としての威厳がある。見学に来ていた貴族の令嬢たちが小さく黄色い歓声をあげるのは無理もない。
「それではそれぞれ持ち場につく様に解散!」
各持ち場には、班単位で移動し三人チームで行動する。三人集まれば噂話をするなんてこともあるだろう。
「コレール団長いつにもましてぴりぴりしてないか。またいやがらせみたいな訓練メニュー組まれたらやだな」
「君もそう思うか。いったい何が原因なんだか」
「奥方と離婚したからじゃないかな。何があったのかわからないけどもったいないよね」
そう言って苦笑しているのはいつも笑みを浮かべている奴だった。珍しい態度と内容に非常に興味が惹かれた。
「なんでお前そんなこと知っているんだ」
「元奥方がシュルプリーズ商会をしているシュルプリーズ家の人間で、うちは実家が商家だからそういう情報がまわりやすいんだよ」
「あの帝国一のお金持ちって言われるシュルプリーズ商会が団長の奥さん? ないない、あの人つい最近まで奢りって言って娼館にいっていたんだぞ。奥さん許さないだろ」
清廉実直を求められる騎士であっても、お酒や女性を提供する場所に行かないわけではない。大抵こっそり行くか、お家騒動の元になるからと行かないという騎士もいる。しかしジャンは、部下をひきつれてそういうお店にいくことで有名だった。
「そうなんですよね。政略結婚とはいえご子息が生まれてもいないのに娼館通いとか貴族だからなのかなと思ってたんですが違うようですし」
「上級貴族や跡取りならともかく、家督を継げない俺達みたいなのがそんなに娼館通いしてたら金がなくなるよ」
「そんなもんですか。てっきり実家からもらっていると思っていました。ということは団長の給料って相当いいんですかね。でも伯爵家で当主だからか?」
「それもないんじゃないかな」
横から会話に入ってきたのは、副団長だった。
「領地は、領地の家令に丸投げしてるって言ってたからね。領地経営を学んだわけじゃない家令が資産増やせるとは思えないな。大抵領地持ちの貴族は、身内にそういうの任せるんだけど団長のとこ親戚いないから」
「三十年前の内乱のせいですか」
現在の先代の皇帝が次代を決めずに急逝したため王子たちが争った。現皇帝以外の派閥にいた騎士を粛清したのだった。
「そうそう、確か団長の親以外の親族は他の王子の派閥だったから粛清対象だったみたいだね」
「副団長詳しいですね」
副団長が周りを見てから三人に手招きした。三人は、何を気にしているのかと思いつつ近寄った。
「軍系の家系なら親から聞いてるの多いと思うけどね。今の王子たちも兄弟が多いから気を付けた方がいい」
「また内乱が起きるということですか」
「そこまで言ってないさ。流れに置いていかれないようにきちんと周りを見ろってこと。じゃあね」
爽やかな笑みを残しカストル副団長が去っていった。
「お前たちこんな場所で立ち話とはそうとう暇のようだな」
三人は、団長のジャンに立ち話しているのが見つかり訓練所に逆戻りするのだった。




