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咲良ちゃんの楽しい魔界生活  作者: 園村マリノ
第31話〜35話

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第31話 ブリジット・ブリヂストンの日記

 ◯月×日


 まったく、今日は何て酷い一日だったんだろう!

 昨日の天気予報では雨の心配はなさそう、なんて言ってたのに、朝も早くからしっかり降ってやがんの! 洗濯物乾かないっつーの。


 学校に行く途中、隣のクラスのパイナップルちゃんに会ったから一緒に登校した。あの子、お嬢様だけあってか一見お上品なんだけど、時々言葉の端々に〝素〟が見え隠れするのが面白い。決して下品ってわけじゃないんだけどね。


 授業はまあ、可もなく不可もなく……いや、やっぱり魔界学の授業はクソだった。何かよくわからない問題を当てられたから、自分なりに頑張って考えて答えたのに、あのジジイときたら……


「ふーん、君はそういう考え方しか出来ないんだ?」


 だとさ。一瞬、この自慢の鋭い牙で噛み殺してやろうかとも思ったけど、あんなジイさん、ほんの少しでも口に含みたくない。心臓麻痺か何かでとっととくたばっちまいな、ヘボ教師!!


 最悪なのは放課後!!

 傘が盗まれた!! 部室に持って行かないで、教室の前の傘置きに置いといたのが間違いだった。

 外は朝より酷い雨!! 同じ部活のイロノちゃんが駅まで相合傘してくれたし、盗んだ奴を呪ってくれるとは言っていたけど、お互い体の半分ずぶ濡れ!! イロノちゃんには本当に申し訳ない……。

 イロノちゃんと別れた後、最寄駅から家までは、当然ながら全身ずぶ濡れ!! 私のこの美しい灰色の翼もずっしり重くなっちゃって、乾かすのが大変だったんだから!! スクールバッグの中も悲惨……ああ、教科書にシミが残っちゃう!!


 ああもう、イライラが止まらない。こんな興奮状態で、果たして眠れるかしら……。

 



 ◯月△日


 昨日のずぶ濡れのせいで、風邪引いちゃった……。

 お昼くらいまでは大丈夫だったのに、だんだん頭が痛くなってきて、喉もイガイガ。保健室に行って熱測ったら、三〇度もあるじゃない? 私の種族って、性別問わずだいたい平熱は二八度くらいだから、当然ながら早退する事になった。イロノちゃんは大丈夫かな……。


 ちなみに昨日盗られた傘は、今日の朝、教室の前の傘置きに戻っていた。けど、誰が使ったかもわからないからキモいじゃない? だから一応持って帰って来たけど、素手で粉々に砕いて捨てた。

 ていうか、使ったのマジ誰よ? お前のせいで私は風邪引いたんだけど!? マジで呪われろ!! F××k!!




 ◯月⭐︎日


 熱があんまり下がらなかったので学校は休んだ。それでもまあ食欲はあるし、結構元気なんだけどね。


 パイナップルちゃんが学校の帰りにお見舞いに来てくれた!! ほんと優しいんだからあの子。

 パイナップルちゃんの隣には、見覚えのない女の子もいた。ちょっと明るめの色の髪と、これといった特徴のない顔立ち、それでいて不思議と存在感がある子だった。


「ブリジット、こちらあたくしのマブダチのリリーさん。そこの交差点で偶然出くわして、一緒に来てくださいましたの。リリーさん、こちらあたくしのマブダチのブリジット」


「はじめまして、ブリジット・ブリヂストンです」


「はじめまして~! 超一流天才美少女魔術師のリリーでーす! よろしくねブリちゃん! あと風邪お大事に!」


 まあこんな感じでリリーさん(高校生ではないらしい)と自己紹介し合って、それからパイナップルちゃんからフルーツセットを貰って、風邪をうつすと悪いのですぐに別れた。

 フルーツはどれも美味しかった! その中でも特にヘビイチゴ! 甘くて酸っぱい、あの絶妙な味わい! そういえば前に、人間界にもヘビイチゴは存在しているけど、サイズは小さいし味もしないって聞いた事があるっけ。人間ってちょっと可哀想かも。

 



 ◯月◆日


 まだちょっと鼻と咳の症状はあるけど、もうすっかり元気! せっかくのお休み、せっかくのいい天気だもの、お出掛けしなきゃね!


 って事で、一人でちょっと空飛んで遠出して、知らない繁華街をフラフラブラブラしてたんだけど……何処もかしこもカップルだらけ!! 

 すれ違いざま甘ったるい会話が聞こえてきたり、目の前でイチャつかれたり、すれ違いざま甘ったるい会話をしながらイチャつかれたり目の前でイチャつきながら甘ったるい会話されたり……S××t!!


 うんざりしたから、繁華街から外れて適当に歩いているうちに、気付いたら何かちょっとヤバそうな一角に来てしまった。

 あちこちにゴミが散らかってて、空きテナントだらけの小さなビルとか、周りに雑草伸び放題の廃墟が多かった。まばらに生えている木は枯れかかってたし、通行人も全然いなかった。ザ・殺風景。空は晴れているのに、覆っている空気は灰色って感じ。

 それでも少し進んだら行き止まりになったから、丁度いいや、引き返そう、と振り向いたら……ニヤニヤした図体のデカいオッサンたち(全員二メートルは超えていたと思う)が三人、こっちに歩いてくるじゃない? 嫌な予感しかしない。


「こんにちは~」


 間の抜けた声で、猿頭のオッサン。


「お嬢ちゃん、何してるの?」


 やっぱり間の抜けた声で、馬頭のオッサン。


「道に迷っちゃったのかな~?」


 無駄にイケボで、山羊頭のオッサン。


「大丈夫です」


 と言って通り過ぎようとしたら……嫌な予感的中。通せんぼ。どいてくださいと言ってもニヤニヤ、ニヤニヤ、ニヤニヤ。

 怖くない、と言ったら嘘になるけど、それ以上に腹が立った。

 まずはどいつに牙を突き立ててやろうか? いやオッサンなんて口にしたくないけど、ためらってはいられない!

 山羊頭のオッサンが一歩踏み出してきた! 反射的に身構え、覚悟を決めたその時だった。


「おい」


 オッサンたちの後ろから低い声(山羊頭よりイケボだった)がした。

 そしてオッサンたちが振り向くや否や、何と三人纏めて真横に吹っ飛ばされ、コンクリートの壁に叩き付けられた!!!

 オッサンたちがいなくなり、視界が開けるとそこには、筋肉質なグリーンリザードマンが一人。オッサンたちがデカいせいで見えなかったけど、このトカゲさんも充分に背が高い。この種族の事は詳しくないんだけど、まあ多分男性だよね?

 

「あー……今のはどうやって?」


 お礼を言うより先に質問しちゃった。


「尻尾で吹っ飛ばしたんだよーん!」


 陽気に答えたのはリザードマン本人じゃなくて……更に後ろからやって来たリリーさんだった!!


「このリザードマンのおにーさんは賞金稼ぎで、わたしは今日そのお手伝いをしていたの。で、そこの壁に頭がめり込んでる三馬鹿は賞金首の連続強盗犯で、女性にも平気で危害を加える、人げ──いや魔界人のクズ!」


 どうやら私、本当にヤバかったみたい。今この日記を書いている最中も、あの三人の嫌ぁな笑顔を思い出すだけで、ちょっぴり手が震えちゃう。


「ティト君、この子はブリジット・ブリヂストンちゃん。華の女子高生よん。ブリちゃん、このおにーさんはティト君。無愛想だけど優しい華の賞金稼ぎよん」


「助けてくださり有難うございました」


「……ああ」


 うん、確かに無愛想な感じ。だけど全然嫌な感じはしない。ひょっとするとシャイなだけだったりして?

 なーんて考えてたら、ティトさんが何か一瞬で人間型に変身した! パーカーに黒いズボンとブーツ姿で、瞳孔が縦長の金色の目は普通の緑色の目になって、短い髪は目よりも鮮やかな緑。

 ぶっちゃけ、好みのタイプかも。


「ティト君は普段はこの姿で生活してるんだよね~」


 ティトさん本人は何も言わなかったけど、否定しないって事はそうなんだろう。


 その後はリリーさんとティトさんに繁華街まで送ってもらって、何かもう遊びに行く気分じゃなかったから家に帰った。ちょっと大変な一日だったけど、無事で良かった。

 余計な心配させちゃうとマズいから、今日の一件はパパにもママにも、魔界一カワイイ妹のブリアナにも内緒にしておくんだ。




 ■月◎日


 今日は学校で進路相談があった。今までは進学だとか、将来の事だとか、全然はっきり決められなかったんだけど……

 私は迷わず、賞金稼ぎになるって言った!

 そしたら担任ってば、口あんぐりしたかと思えば「それは本気で言ってるのか?」だの「もう少しゆっくり考え直さないか?」だのって。


 やかましい。私は本気だよ!(口には出してないけど)

 凄腕の賞金稼ぎになって、憧れのティトさんと肩を並べて活動するんだ。無愛想でも、私の活躍を見れば、少なくとも興味を持ってはくれるよね? 

 ていうかティトさんて恋人いるのかな。そもそも何歳? まさかもう結婚してる?

 そうだ、今度リリーさんにさり気なく聞いてみよう。パイナップルちゃんなら連絡先知ってるだろうし。


 よし、早速明日から、賞金稼ぎ目指して猛勉強するぞ! おーっ!

 あれ、でも何の勉強に力入れればいいんだろ?

 勉強というか、体育の方が重要かな。そうだ、体力とか筋力つけなきゃね。そうとなったら筋トレ開始よ!!




 ■月@日


 筋トレ無理。筋肉痛ヤバい死ぬ。

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