表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咲良ちゃんの楽しい魔界生活  作者: 園村マリノ
第21話〜30話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/37

第30話 コーヒーと聞き耳とライバルと

 久し振りの魔術師稼業をさっさと終わらせた咲良は、初めて立ち寄った喫茶店のカウンター席で一息吐いていた。店長のおすすめだという、程良く熱いブラックコーヒーが身体中に染み渡る。


 ──ちょっと疲れたけど、簡単だったな。


 第6地区内の、第7地区寄りに位置する小さな町に出没しては悪戯(イタズラ)を繰り返していた、三匹のゴブリンの討伐依頼。泊まり込みの長期戦すら覚悟していたが、町に到着するなり運良く三匹全てと遭遇し、たまたま所持していた菓子で釣れたので、そのまま纏めて衝撃波でぶちのめした。


 ──もっと難易度の高い依頼が来ないかなぁ……暴走した巨大生物の制圧とか、半裸のマッチョなイケメン同士の喧嘩の仲裁とか……なんてね! グヘヘヘ!


「そういえばこの間、彼とデートだったんでしょ。どうだった?」


「実はプロポーズされたんだけど、ムカついたから断ったの。で、後で大喧嘩」


 通路を挟んで後ろのボックス席に座る、女性二人の会話が聞こえてきた。一人は大きな赤い一つ目が顔の上半分を占めていて、もう一人はエメラルドグリーン色の肌をしている。


「マジ!? え、何で、どうしたのよ」


 一つ目の女性が、ただでさえ大きな目を更に見開き、身を乗り出した。プロポーズされたのはエメラルドグリーンの方らしい。


「だってさ、通行人もいる、ごく普通の歩道のど真ん中でだよ? ムードもへったくれもない!」


「え、確か第6にある遊園地に行ったんだよね? 観覧車の中とか、レストランで夜景見ながらとかじゃなくて?」


「うん、ディナーの後の帰り道で。しかもすぐ後ろはゴミ捨て場」


「えええ……」


「丁度通り掛かった吸血鬼の若い子たちが囃し立ててさ。まあ、あたしが舌打ちしてから断ったら静かになったけど」


「うわ、そりゃ確かに嫌だわ。今後どうするの?」


「未だに謝ってこないし、結婚どころか別れる事になるかも」


 ──大変だねえ……。


 咲良は聞き耳を立てつつ、メニューブックを開いた。パフェでもアイスクリームでも、何かしら甘い物を口に入れたくなってきた。


「そうだったのね……。愚痴ならバンバン聞くし、相談にもガンガン乗るからね!」


「有難う、親友。そういえば、あんたの方はどうなったのよ。ほら、前に合コンで知り合った狼頭のイケメン君」


「ああ、あいつ? マジでカス。私はキープ兼金蔓の一人だったの。いいように利用され続けて、一度拒否したらポイよ」


「嘘! 酷い……!」


 ──うん、酷いね。血祭りに上げてやらなきゃだよ!


 自分だったらどうするか、咲良は脳内で勝手にシミュレーションを始めた。


「まあ、このまま泣き寝入りするつもりはないわよ。今度あいつの職場まで行って、私が受けた仕打ちとあいつの恥ずかしい一面を全部暴露して、社会的にブチ殺してやるつもりでいるから」


「本当に!?」


 ──マジで!?


 パンツ一丁で逆さ吊りにされた狼頭の男は、咲良の脳内で霧散した。


「マジよマジ。私は有言実行の単眼女子だかんね」


 ──うわぁ見学してぇ~! むしろ参加してぇ~! 


「やっぱりリリーだ」


 ふいに横から話し掛けられ、咲良ははっと我に返った。


「久し振り。元気してた?」


「わ、カレン姐さん! 久し振りかつ偶然!」


 友人かつ密かにライバル視している相手の登場に、咲良は驚きと嬉しさの入り混じった笑顔を浮かべた。


「歩いてたらあんたの姿が見えたからさ。隣、いい?」


「勿論。あれ、今日は紫のローブは着てないんだね」


「あれはクリーニングに出したばっかり。ていうか、毎日着ているわけじゃないからね?」


 小柄な店員が来ると、カレンはミックスベリージュースを、咲良は追加でミニサイズのチョコレートパフェを注文した。


「話変わるけど、この間〈ゴモリー広場〉で鬼車がご臨終だったの、あれって姐さんが?」


「ん? ああ~あれか。そうだよ。あのままじゃ犠牲者が出ていただろうから」


「流石! ねえ、いつになったらわたしと魔術勝負してくれるの?」


「ああ、そういえば約束していたね。でも本当にいいの? 私結構強いし、接待モードは備わってないからね」


「それはわたしもだよーん」


 先程とは異なる店員がミックスベリージュースを持って来ると、カレンは早速喉を潤した。


「姐さん、また話は変わるけどさ。わたしたちが初めて会ったのって、割と最近だよね?」


「まあ、そうだね。〈歌魔女の森〉の、今はあんたの家に私が訪ねて」


「うーん……」咲良は小首を傾げた。「実はさ、あの時が初めてじゃない気がして」


「何処かで会っているって? まあその可能性はゼロじゃないけだろうけど、こんな巨乳美女を忘れるわけないでしょ~!」


「だよね~! 姐さんだってこんな可憐な美少女忘れるわけないだろうし~!」


 咲良とカレンは、これ以上面白い話はないと言わんばかりにケラケラと笑い合った。

 当人たちは全く意識していないが、その心底楽しそうな表情は、周辺から見るとよく似ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ