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第18話 召喚術師に会いに行こう!

 第8地区の一画に迷惑な召喚術師が現れ、悪さをしている──そんな噂を咲良が耳にしたのは〈シャドウ&ライトマーケット〉内をブラブラと歩いている時だった。


「つい一月(ひとつき)程前に現れたんだって。好き勝手に魔物を召喚して、誰かが通り掛かったら脅かしてるらしいよ」


 ──ふーん……?


「聞いた聞いた。話し合いにも応じなくて、とにかく攻撃的なんだってね。近隣住民には迷惑な話だろうよ」


 ──へー……?


「どうやら、生死問わずで賞金懸かってるらしいな」


 ──ほほーん……!


「ねえねえ、召喚術師は第8のどの辺にいるの?」


 咲良は話題を口にしていた買い物客たちに尋ねた。


「ん? ああ……何処って聞いたっけ」


 山羊頭の老人が困ったように頭を掻くと、その後ろにいるパーマ頭の中年の鬼女が、


「〈マレブランケ平原〉の東端だとかって、あたしは聞いたよ。何だいお嬢ちゃん、まさか野次馬しに行くつもりかい? 危ないからよしときなよ」


「ううん~、ちょっと聞いただけ!」


 勿論そんなわけはなく、その後〈シャドウ&ライトマーケット〉を出た咲良は、電車とバスとダッシュで〈マレブランケ平原〉へと向かったのだった。




「ねえレイ、トウキョウって知ってる?」


〈ハルピュイア亭〉で食後のコーヒーを堪能していたレイモンドは、正面に座るファヴニル──こちらはザクロジュースだ──に、そう尋ねられた。


「トウキョウ? 前に聞いた事あるな。えー、何だっけ……もしかして人間界に関係あるか?」


「そう。人間界の都市の名前だって」


「ああ! 思い出したぞ。ジャパンて国のだろ」


「そうそう。流石レイ」


「で、それがどうかしたのか?」


「うん、実はね、この間咲良ちゃんに〈シルフィーネ〉で会った時なんだけど……」


 ファヴニルはそこまで言うと、周囲を見回して警戒する素振りを見せた。


 ──あ、何となく読めてきたぞ。


 レイモンドは苦笑した。


「あのね」ファヴニルは声を小さくした。「咲良ちゃん、どうやらトウキョウのど真ん中に行った事があるらしいんだ」


「ど真ん中? いやそもそも、どういう話の流れでそうなった」


「『マカサケ』の話をしてたんだ。あれって、主人公が意気投合したおじさんと、魔界のど真ん中で歌うのを目標としてたでしょ。そしたら咲良ちゃんも、魔界のど真ん中に行ってみたいって言って、その後にトウキョウのど真ん中に行った時の話もちょっとしてたんだ」


「なるほどな……」


 ──その感じだと、つい喋っちまったんだろうな。


「ねえレイ、大昔と違って、今の魔界から人間界にはそう簡単に行けないんだよね?」


「みたいだな。人間界(むこう)で悪魔召喚が出来る人間は、もうほとんど存在していないんじゃないかって言われてるし、転移魔法使うにしても、距離やら何やらでだいぶ難しいらしいからな」


「咲良ちゃんの話が本当なら、どうやって行ったんだろ。やっぱり一流魔術師だから、転移魔法もお手の物なのかな」


「……なあファヴニル」


「ん?」


「ここ出たら、おれん家行こう。ちょっと話がある」




〈マレブランケ平原〉東端。

 痩せた木々や、毒々しい色合いの草がまばらに生えている赤茶色の大地を、咲良はかれこれ三〇分近く歩き回っていた。


「いないじゃん召喚術師……」


 到着した時から、人っ子一人見当たらない。〈シャドウ&ライトマーケット〉で聞いた情報に誤りがあったのか、入れ違いで誰かに始末あるいは連行されたのか。


 ──せっかく来たのに、このまま帰るの嫌だし……もうちょっと範囲広げるか。


 元来た道を戻ろうと、咲良が身を翻した時だった。


「動くな」


 何処からか、男の濁声が聞こえた。


 ──……あれ?


 咲良の右斜め前方、一〇メートル程離れた場所に、いつの間にか大きなダンボール箱が一つ、伏せた状態で置いてある。


「……誰?」


「お前こそ何者だ」


「超一流魔術師の……リリーよん」


「何しに来た」


「何か傍迷惑な召喚術師がいるっていうから、会いに来たの」


「フン、つまり貴様も、懸賞金目当てでこの俺を倒しに来たって事だろ」


「そんな事言ってないじゃん」


 ──まあその通りなんだけど!


「ねえ、ていうか姿見せてよ。自分だけ隠れてズルいって」


「……いいだろう」


 ダンボール箱が放り投げられ、腹ばいになっている男が姿を見せた。立ち上がると咲良とほぼ同じくらいの背丈だ。黒髪とヒゲはボサボサ、彫りの深い顔と黒いポロシャツ、ジーンズ、白地に青いラインが入ったスニーカーは土と埃で汚れている。


「あなたが召喚術師?」


「そうだ、俺が魔界最強の召喚術師、キャプテン・サモンだ!」


 サモンは腰に手を置き、ドヤ顔で胸を逸らした。


「サモンちゃんはここで何してるのさ?」


「俺は都会の喧騒が嫌になり、裕福な生活を捨ててここに住み始めたのさ」サモンは両腕を目一杯広げた。「今は野宿だが、いずれ広い家を建て、嫁を貰う。理想郷を作りあげる!!」


「好き勝手に魔物を召喚して、誰かが通り掛かったら脅かしてるって聞いたけど」


「そりゃあ、俺の土地に勝手に入り込むからだ」


「いやいや、あんたのものじゃないでしょ! 何勝手な事してんのさ!」


「ああ? うるせえ小娘! もう決めたんだ、誰にも邪魔はさせねえ!!」


 サモンは右手の指をパチンと鳴らした。すると、咲良とサモンの間、地面から一メートル程離れた空間に、召喚魔法陣が浮かび上がった。


(いで)よ、恐怖の大王!」


 ──!!


 魔法陣の中心から、何かがギョロリと目を覗かせた。


「そ……そおいっ!」


 咲良は咄嗟に火の玉を作り出し、魔法陣目掛けて飛ばした。


「なあっ!?」サモンは驚いて飛び退いた。


 火の玉が見事に魔法陣のど真ん中に命中すると、召喚途中だった魔物のものと思われる悲鳴が上がり、直後に魔法陣ごと消失した。


「ああ~っ! き、貴様、何しやがる!!」


「先手必勝ってね!」咲良はニッと笑った。「ねえ、ティト君」


「……はっ?」


 サモンはポカンとしていたが、影が自分を覆った事で、背後に誰かいる事に気付いた。振り返るとそこには、白地に金色の模様が入ったパーカーを着た、一九〇センチを超える筋肉質なグリーンリザードマンが一人。


「だ、誰だ貴様──」


 顔面にグリーンリザードマンの拳がめり込むと、サモンは仰向けに倒れ込んで意識を失った。


「……久し振り、ティト君」咲良は右手をヒラヒラと振った。


「よくわかったな」


「そのパーカー、よく着てるじゃん?」


「なるほどな」


「ティト君もやっぱ、懸賞金目当て?」


「ああ」


「時々こういう事してるの?」


「これが本業だ」


「マジで!?」


「マジだ」


「おひょぉ~っ!!」


 ティトは腰元から縄を取り出し、伸びているサモンの両手足を縛ると担ぎ上げた。


「賞金は折半だ」


「ええっ、わたしいらないよ。何もやってないし」


「魔物の召喚を未然に防いだ。召喚()されていたら面倒だった」ティトは踵を返した。


「どうしてもくれるっていうなら、一〇分の一貰おうかな、えへへっ」


 喋りながら、咲良はティトの横に並んだ。


「好きにすればいい」ティトは小さく溜め息を吐いた。「こんな危ない事は二度とするな」


「あれっ、心配してくれるの?」


「別に……心配などしていない」


「えー?」


「同業者が増えれば稼ぎが減りかねない。邪魔をするなという事だ」


「はーい……」


 その後少しの間、二人は無言で歩いていたが、咲良が気まずさに耐えかねて何か言おうとした時、前方から一台のトラックが来るのが見えてきた。助手席に座っている誰かが、窓から手を出してブンブンと振っている。


「あれは?」


「賞金稼ぎギルドの職員だ。荷台で構わないなら乗るといい」


「うん、じゃあよろしく」


 トラックがこちらに来るのを待ちながら、そういえば懸賞金はいくらくらいだろうかと咲良は考えた。隣のリザードマンに聞けばすぐわかるが、楽しみは取っておく事にした。

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