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第14話 占う恋の行方

 ファヴニルがその占い師の話を耳にしたのは、〈ハルピュイア亭〉でランチを食べ終え、アイスティーで一息吐いている時だった。


「そうそう、この間〝ムーンライト・ビビ〟に占ってもらったんだけどさ」


「ああ、行ったんだ、あの人気占い師の所」


「うん、たまたま予約が取れてさ」


 ファヴニルには、離れたボックス席に座る女性二人の会話を盗み聞きするつもりは一切なかった。ただ、二人の声がやたらと大きかったのだ。


「何を占ってもらったの」


「恋愛運。それと、この先どんなタイプの男と縁があるか」


「へえ。それで、どうだった?」


「少なくとも三箇月先までは、何のご縁もないって。はっきり運が開けてくるのは、七箇月先だとか」


「えー、まだ先だねー」


「まあね。でも、ご縁のある男のタイプがわかったんだし、楽しみにしてる」


「どんなタイプだった?」


「小柄で見た目がちょっと派手な、年下の鬼族だって。あたし的には背が高い年上の方が好みだけど……」


 ── ムーンライト・ビビか。どれどれ?


 ファヴニルはスマホで検索してみた。

 ビビは第1地区の繁華街に占い店〈ゴールデン・ドドーン〉を構える、一見すると咲良と変わらないくらいの若い顔立ちの女性だ。種族は妖精と精霊のハーフらしい。彼女の高い霊力を用いた占いは驚異の的中率を誇り、占い好きの間で知らない者はいないという。


 ──き、気になる……!




 数日後、第1地区、〈ゴールデン・ドドーン〉店内。


「お待たせしました。こちらにどうぞ」


 店員に案内され、ファヴニルは店内奥の真紅のカーテンで仕切られた三つのブースのうち、一番右側に入った。中には、ベルベットのテーブルクロスが敷かれ、水晶玉や託宣(オラクル)カードの束などのアイテムを置いたテーブルを前に座る、小柄な金髪の女性が一人。


「こんにちは」ファヴニルは、ちょっとはにかみながら挨拶した。


「はい、こんにちは。ファヴニル・レーンさんね。ムーンライト・ビビです。今日はよろしく」


「よろしくお願いします!」


「どうぞ座って」


「は、はい!」


〈ハルピュイア亭〉でビビの存在と評判を知ったファヴニルは、帰宅後、駄目元で〈ゴールデン・ドドーン〉のHP(ホームページ)を覗いた。すると、ビビの占い三〇分コースで予約キャンセルが出たとの記載があったので、迷わず予約を取ったのだった。


「えー、ファヴニルさんは、今日はどんな事を聞きたいのかしら」


 ファヴニルが着席すると、ビビは早速切り出した。


「恋愛運ですっ! というか、今気になっている子とはどうかな、って」


「気になっている子。その子とは今どんな関係?」


「友達です。最初に出逢ったのはレストランで、ボクの一目惚れだったんです。後で共通の友達がいる事もわかったりして。時々一緒に遊びに行ったりするんですけど、全然いい雰囲気にはならなくて……」


「なるほど」ビビはゆっくりと頷くと、テーブルの端からオラクルカードの束を手に取った。「じゃ、早速見てみるわね」


「は、はい……!」


 ビビは数十枚のカードをシャッフルし、一つの束に纏めると素早く器用にカットした。それが終わると左手に持ち、右手でカードの束の一番上から六枚目までを端に除け、七枚目を引いてテーブルの真ん中に置き、表面にひっくり返した。

 カードには、全裸で四つん這いになっている男の背にドヤ顔で座る、やたら胸のデカい黒髪の美女が描かれている。


「あなたMっ気強いわね」


「えっ! い、いやまさかそんな──」


「少なくとも、片想いしているお相手には、ちょっと意地悪されたりキツい事を言われても嬉しく感じちゃう」


「ええー……」ファヴニルは仄かに顔を赤らめ、指先で頬を掻いた。「そ、そうかなあ……」


 ビビは微笑むと、再びカードの束の上から七枚目を取り、最初のカードの、ファヴニルから見て右側に並べてひっくり返した。

 カードには、複数の天使に囲まれながらも、その内一体を豪快に蹴り上げている若い魔女が描かれている。


「お相手の方、アグレッシブで怖いもの知らずで、常に我が道をゆく、ちょっと変わり者でしょう」


「その通りです」ファヴニルは即答した。


「さて、そんなお二人のご縁は……」


 ビビはまたまた束の上から七枚目を取り、魔女のカードの隣に並べてひっくり返した。

 カードには、空を舞う羽衣姿の女性と、彼女を走って追い掛ける男性の姿が描かれている。


「あー……」


「えっ!?」


 ビビの微妙な反応に、ファヴニルは顔を上げた。


「もしかして、望みなしって事ですか!?」


「ううん、ないわけじゃないの。決してなくはないんだけど、今のところ望みは薄いわ」


「ふえっ……」


「お相手は、あんまり色恋沙汰に興味がないみたい。色気より食い気タイプよ。あなたがはっきり告白しないと、好意には気付かれにくいわね。恋愛面では、ちょっと鈍感な子みたいだから」


「はえっ……」


「そして残念ながら、あなたはお相手のタイプではないみたい。両想いになりたいなら、根気が必要ね」


「ひえっ……!」




 ファヴニルが〈ゴールデン・ドドーン〉を後にしてから数十分後。


「お待たせしました。こちらにどうぞ」


「はーい」


 店員に案内され、咲良は店内奥の一番左側のブースに入った。中には、真紅のテーブルクロスが敷かれ、真ん中に水晶玉が置いてあるテーブルを前に座る、大柄な白髪の老婆が一人。


「ども~っ、オババちゃま」


「咲良ちゃん! ようこそいらっしゃいました!」


「いらっしゃっちゃいました~」


 一週間前、新しくオープンしたという魔術アイテムショップ目当てに、咲良が第3地区の外れの小さな街まで足を運んだ時の事だった。

 半狂乱状態となった八本脚の野生馬が現れ、暴れまくって目に付くあらゆる物を破壊した。そして更には、逃げ遅れた大柄な老婆を見付けると、猛スピードで突進したではないか。

 

「こりゃあ、超一流魔術師のわたしの出番っしょ!」


 咲良は地属性の魔術で地震を起こして野生馬の動きを止めると、怯んだ隙に衝撃波で吹っ飛ばし、老婆を助け出した。


「死ぬかと思った!! 有難う、お嬢ちゃん!!」


「どういたしまして」


「あたしに出来るお礼と言ったら、占いくらいかねえ……」


「占い?」


 老婆はハンドバッグから名刺を取り出し、咲良に渡した。


「へえ、第1地区の〈ゴールデン・ドドーン〉で……〝フラッシュライト・ババ〟? いい名前ね」


「最大一時間まで無料でどうだい?」


「是非っ!」


 そんなきっかけで、人生初の本格占いデビューを果たした咲良は、早速知りたかった事を尋ねる。


「わたし、魔界一の魔術師として名を馳せて、金をがっぽり稼いで贅沢三昧したいの。でも、なかなか魔術師としての仕事が入ってこなくて。どうしたらいいのかなあ、って」


「壮大な夢だねえ!」ババは心底愉快そうに笑った。「いいねいいね。それじゃ早速、水晶玉に聞いてみるよ」


「よろしくっ!」


 ババは水晶玉に両手をかざし、何やらぶつぶつと唱え始めた。


 ──おおっ、これだよこれこれ! いかにもって感じ!


 咲良は目を輝かせた。


「……んんっ、見えた!」


 約二〇秒後、ババは手を離し顔を上げると、ニッコリと笑った。


「心配しなくても、仕事は少しずつ入って来るってさ」


「やった!」


「魔術師として本格的に忙しくなるのは、五、六〇年後だと」


「ぎえええっ!!」咲良は両手で頭を抱えた。「遅過ぎぃ! それじゃあわたし、おばあちゃんじゃん!!」


「おや、あんた短命種なのかい?」


「え……ああうん、実はそうなんだ」


 それ以上詮索されても面倒なので、咲良は話を変える事にした。


「あ、ねえねえオババちゃま。せっかくだから恋愛運も見てもらえたりしない? 身近にいい人いないかなー、なんて」


「ん? ああ、お安い御用だよ」


 ババは再び水晶玉に両手をかざし、先程とは違う言葉を唱え始めた。


 ──本当はそこまで興味ないけど、せっかくだからね……。


 約三〇秒後、ババは顔を上げた。


「うん、いいね。そう遠くないうちに、運命の相手との絆を深められる出来事があるようだ」


「おっ」


「んでもって、その運命の相手がどんな感じなのかも見てみたら、ぼんやりとだけど姿が浮かんできたよ」


「本当? どんな」


「筋肉モリモリマッチョマンのツンデレだ」


「筋肉モリモリマッチョマンのツンデレ」

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