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伯爵令嬢と育てられましたが、実は普通の家の娘でしたので地道に生きます  作者: 蔵前
第八章 我思い我考える 我が幸せのみを
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ドレスが似合わないのは仕方がない?

 私はソフィを見返して、ドレスだけに注目した。

 ハイウエストドレスは最新の形であるが、私がヤスミンに買ってもらったシルクのものと違い、普段着としても着られる綿生地である。


 普段着に?と気が付いたそこで、ぱっと思い出した。


 アドリナがソフィに女の子らしい格好をさせたがっていたと、私はかってヤスミンに相談されていたという事を!


 だからヤスミンは自分が選んだと嘘を吐いたのね。

 アドリナの失敗だとソフィに知らせて、継母と継子でありながらも関係の良い二人の仲を悪くしないようにとの配慮なのですね、と。


 でも、自分のせいだと泥をかぶるおつもりでも、その泥かぶりの仲間として私を勝手に引き込むなんて!


 そう声を上げて怒るべきだろうが、私は彼に頼られているようで嬉しいばかりだった。

 ソフィの脅え声によって、私はソフィが引いてしまうぐらいのうすら笑い顔をしていたらしいと気が付いた。


「そこで笑うって。あ、あんたは底意地が悪かったもんなあ!」


「違います。変な顔になってごめんなさい。でもそうね。ヤスミンに可愛がられるあなたに焼餅を焼いて、私はドレス選びに真剣じゃ無かったかもしれないわ。」


「そうだよね。真剣にならなきゃ似合うドレスも無いあたしだもんな。」


 自分の責任で無いにしても、ソフィのこの純粋さが胸に痛い。

 ヤスミンがソフィを自分の娘みたいにして可愛がり、アランが妹が出来たという風にして彼女に接するわけだわ!


「ちがう!あなたは可愛いわよ!」


「いいよ。マルファはヒヨコのままでいて。二っつ心が無いだろ。無理すんな。」


「ふたっつ?こころ?」


 ソフィは私を見返して、ふわっと微笑んだ。

 その笑みは彼女を子供ではなく大人びて見せるものだった。


「ソフィ?」


「いいんだよ。あたしはヒヨコと違って嘘吐きだ。だからドレスが似合わなくてヒヨコみたいになれないのはよくわかったから。あたしはあたしにしかなれないってわかったから、あんたまで嘘で褒めなくても良いってこと。」


「嘘じゃ無くあなたは可愛いのよ?」


「うん。可愛い振りしているのは自分でわかっている。あたしはさ、みんなに可愛がってもらうためにさ、弟の面倒も嫌になってもね、弟が可愛いって嘘ついたりしているもん。」


「あら、そんなの。私とお母様なんかいつもの事よ。」


「違うよ。きっと違う。だからヤスミンはあたしを家から離したんだよ。あたしが弟や妹を虐めたら大変だって。あたしの黒い所をヤスミンは知っているんだよ。あたしが時々大声で叫び出したくなるのも!」


 クラルティやファルゴ村で人気者で働き者の少女を私は見返し、一生懸命すぎて色々と我慢もしていた彼女の姿が初めて見えたと思った。

 だからヤスミンは彼女を村から連れ出した?


「俺の戦車を御させてやるよ。」


「ま、まああ!ヤスミンはあなたが小さな世界に納まる人だと思っていないのよ。ええ、そう。だから色んな経験をさせたいって思っていらっしゃるのだわ。それで、そうね。あなたの言い返しを凄く喜んでいるのもそれなのね!世界に羽ばたくには、時には自分の我を通しきらなきゃいけないもの!」


「え?いや。あたしはつまんない子で、あたしは誰かに気に入られようって良い子の振りしているって告白だよね?」


「だからそんなの、誰だってしているって話でしょう?」


 ソフィは片手で額を押さえて一瞬考え込むと、いい、と言った。

 いい?


「悪かった。ドレスが似合わないってちゃんとあんたに言ってもらいたかっただけなんだけど。ヒヨコはあたしが考えているより優しい奴だったんだよな。」


 ソフィはベッドから立ち上がりかけ、私は慌てたようにして彼女を押さえた。

 え?彼女は似合わないって正直に言って欲しかっただけ?


「待って待って。ええと、本心からあなたは可愛いって思っているのよ!ええと、あなたの落ち込みが私が選んだドレスのせいならば、絶対にあなたに似合うようにできる魔法を使う時間を私に頂けないかしら?」


「魔法?」


 私はベッドから飛び出すと、自分の宝物鞄へと駆け寄り、そこから色を確認するための色見本帳を取り出した。

 色見本帳とは、カードサイズの色見本となる小さな紙が金属リングによって数十枚束ねてあるもので、一々布地を持ってきて似合うか確認するよりも手軽に自分に似合う色などを探れるというものだ。


 私はそれをソフィの所に持っていくと、ソフィの首とドレスの境目となる場所に自分が思う色合いのカードを何枚か当てた。


「気持ちは嬉しいけどさ、きっと無理だよ。あたしの肌はガサガサして茶色いもの。それで女の子の服は似合わないってわかっているからさ。」


「いいえ。優しく可愛いあなたのイメージで、人はつい淡いピンクをあなたに選んでしまうものなの。そして、そうね。あなたの言う通り、あなたの肌から日焼け色を抜けば問題は無くなる。だけど、それまでの時間稼ぎとして、小物やボレロなどを使って、あなたに似合うドレスにすれば良いだけだと思わない?」


 私は彼女に似合う色見本を探り当てていた。

 琥珀色の髪に琥珀色に染まった肌では淡いピンクは似合わないかもしれないが、そこにエメラルドグリーンを足すのはどうかしら?


「待っていてね。確か私に与えられていたストールに綺麗なグリーンがあったはずなのよ。」


 私はベッドから立ち上がると、今度はクローゼットの方へと行き、バルバラが私の為に用意してくれていたストールのいくつかを取り出した。

 必要なのは、厚手のものではなく、透明感のある薄い生地の物。

 それでそれの端と端を縫い付けて輪っかにすれば、簡単に脱ぎ着ができる上に着崩れないから、ソフィの溌溂とした行動を邪魔するものにもならないはず。


「これね。」


 私は少し張りがあって光沢もあるストールを取り出して掲げた。

 ソフィは透明で煌く布を見た事が初めてなのか、目玉が零れ落ちるくらいに両目を見開き、ポカンと口を開けた驚き溢れる表情のまま、私が掲げる布から視線を動かせない様子となった。


「妖精の羽みたいだ。」


「これをちょっと着易いように縫ってしまうわね。とりあえず羽織って見て、絶対に似合うから。」


 言いながらソフィの肩にかけ、クローゼットの直ぐ前に置いてある大きな鏡に自分を映してみるように手を翳した。

 ソフィはストールを巻き付けたまま鏡を覗くどころか、鏡の前までとことこと夢見がちな足取りで歩いて行った。


 彼女が夢見がちになったのは仕方が無いだろう。

 似合わないと思ったピンクのドレスが、緑色のオーガンジーストールを足すことで自分を綺麗に見せるドレスに変わっているのだから。


「すごい。あたしが大人っぽくて、それで、妖精みたいになった。」


「ね、似合うでしょう。でね、あなた自身が肌がガサガサって思っていらっしゃるなら、今日からローズ水を使いましょう。いいえ、オレンジフラワー水の方が良いかしら。」


 ソフィはおもむろに、ゲっと女の子らしくない悲鳴を上げた。

 そして、なんと、自分に巻きつけていたストールを放りだしたのだ。


「あたしがあたしじゃ無くなっちまう。」


「あら、でも、肌を滑らかに保つのは大事だそうよ。イモーテルは畑仕事をしていらしたのに、ぜんぜん日に焼けていなくて肌が綺麗でしょう?肌を焼き過ぎると二十歳には老婆の肌になるって、お母様がおっしゃったから気を付けていらっしゃったのだそうよ。」


 ソフィは再びゲっと蛙みたいな悲鳴を上げた。

 それから彼女はストールを拾い上げ、頭からかぶって震えた。


「やるよ!今日から化粧水つける!もう日に焼けないようにする!あと七年でお婆ちゃんになっちゃったら嫌だあああ!」


 うわあ!なんてソフィったら可愛いの!

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